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2022年に公表された10億円以下の収益不動産の売買状況New

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 2月号

この記事の概要

  • 1件10億円以下の不動産取引の総額はコロナ後に減少し、市場での割合も低下。件数は4割前後で安定
  • そのなかで収益不動産の取引は、コロナ後も総額・件数とも概ね変わらず堅調に推移
  • 物件用途は大多数が賃貸住宅。東京圏所在物件は取引総額が減少基調で、対象物件品薄が主因と推量

公表された不動産売買取引のうち、1件10億円以下の取引は件数で約4割を占め微増。10億円以下の収益不動産取引は、コロナ後も総額・件数ともに堅調に推移

2008年の世界金融危機後大幅に減少した不動産取引は、アベノミクス政策の金融緩和等の効果もあって2013年以降急増した。特に1件100億円超などの大型取引が増加したため、1件10億円以下の取引は全体に占める金額割合が相対的に低下した。10億円以下の取引の公表総額は、コロナ禍の影響もあり2020年以降年間1,300億円を下回って推移している。取引件数については、対象物件が品薄化していると推測され市場全体では減少傾向だが、10億円以下の取引は減少率が相対的に小さい。結果として、全体に占める割合は4割前後で微増である。2022年の公表件数は291件、公表総件数の42.4%となった[図表1]。

1件10億円以下の取引のなかで収益不動産取引は全体の約2/3の額、800億円強で安定的に推移しており、2022年は854億円であった[図表2]。同じく取引件数についても、1件10億円以下の収益不動産は、コロナ禍直後の2020年を除いて、2018年以降毎年増加を続けている。

1件10億円以下の収益不動産の取引で、物件用途の大多数は賃貸住宅。東京圏所在が減少傾向で他の都市圏や地方は横ばいないし微増。売主は不動産業等、買主はJ-REITが最多

1件10億円以下の取引での物件用途は、収益不動産の大多数が賃貸住宅、収益不動産以外(事業用不動産等)では大多数が土地(主に開発素地)である[図表3]。10億円以下の賃貸住宅の取引額は量的質的金融緩和の開始年であった2013年に急増した。特需的な同年の増加を除いても、世界金融危機後は一貫して増加基調である。

東京圏に所在する1件10億円以下の収益不動産の取引は世界金融危機後2013年まで増加したが、対象物件の品薄感が強まり、取引総額が減少に転じた。代わって他の大都市圏や地方大都市での取引が横ばいないし微増基調で推移している[図表4]。都道府県別にみて、10億円以下の収益物件の取引総額(2008年から2022年の合計)は東京都が1位で、以下、大阪府、愛知県、神奈川県、千葉県、北海道が5%以上のシェアを持つ。

公表された取引事例では、主な売主は不動産業等で、主な買主はJ-REITである[図表5]。

[図表1]大型取引の増加で1件10億円以下の取引は総額割合が相対的に低下。件数は4割前後で安定推移

[図表1]大型取引の増加で1件10億円以下の取引は総額割合が相対的に低下。件数は4割前後で安定推移

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

[図表2]10億円以下の収益不動産はコロナ下でも売買取引が堅調

[図表2]10億円以下の収益不動産はコロナ下でも売買取引が堅調

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

[図表3]10億円以下の取引での主な物件用途は、収益不動産が賃貸住宅、収益不動産以外は土地(開発素地)

[図表3]10億円以下の取引での主な物件用途は、収益不動産が賃貸住宅、収益不動産以外は土地(開発素地)

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

分類不能や不明のものを除いて図示

[図表4]東京圏の収益不動産取引は減少傾向。東京圏以外では大阪府と愛知県、北海道がシェアの上位

[図表4]東京圏の収益不動産取引は減少傾向。東京圏以外では大阪府と愛知県、北海道がシェアの上位

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

分類不能や不明のものを除いて図示

[図表5]公表事例では、収益不動産の主な売主は不動産業等、買主はJ-REIT

[図表5]公表事例では、収益不動産の主な売主は不動産業等、買主はJ-REIT

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

分類不能や不明のものを除いて図示

ESG投資の意義付けが寄与し、約5億円の収益不動産をJ-REITが取得

ここ数年、環境・社会・企業統治に配慮した投資対象を選別し、重視して投資するESG投資への取り組みが機関投資家を中心に広がっている。ESG投資を重点化する旨を公表した投資家や新たにESG投資枠を設けた投資家などで、全世界の運用資産に占めるESG投資の割合は35.9%に上るという報道(2020年の値。日本経済新聞2021年7月19日付)がある。

国内不動産投資市場で最大の買手セクターであるJ-REITもESG投資に積極的で、ESGの投資方針に沿った収益不動産はJ-REITに取得されやすいという側面がある。ただ、J-REITをはじめ機関投資家の投資対象は賃貸住宅などを除いて一般に金額規模が大きく、さらにESGに適応した事例となると、本稿でみる1件10億円以下では限定的であった。

こうしたなかで、2022年3月に日本都市ファンド投資法人が公表した軽井沢所在の複合商業施設の底地取得は、取得予定額が499百万円と比較的少額な投資であった。本件はカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が所有する複合型商業施設「Karuizawa Commongrounds」の底地を日本都市ファンド投資法人が取得(想定NOI利回り4.7%)するもので、『コミュニティの「ハブ」となる施設の運営を通じた利用者のウェルビーイングへの貢献』や『開発・運用における炭素排出低減』などを通じて「ポジティブ・インパクト不動産投資」に資するものと同投資法人はリリースに記載している。

[図表6]事例の取引概要

[図表6]事例の取引概要

データ出所:日本都市ファンド投資法人「国内不動産の取得(ポジティブ・インパクト不動産投資)に関するお知らせ」2022年3月30日

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成協力:株式会社都市未来総合研究所 研究部

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※2023年2月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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