築年代別に見る分譲マンションのチェックポイント

マンションを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第9回)

この記事の概要

  • マンションは建設された年代によって標準的な性能や仕様などに差異があり、間取りには時代の傾向が映し出されていることもあります。中古の分譲マンション購入を検討する際にぜひ押さえておいていただきたいチェックポイントとして、築年代ごとの大まかな特徴や傾向を紹介します。

築年代別に見る分譲マンションのチェックポイント

前後で基本性能が大きく異なる2つの「節目」

中古の分譲マンション購入を検討する際、気になるのが建物の築年です。築年は取引価格との相関関係が強く、一般的には経年とともに価格も下落していく傾向にあります。希望する住宅性能を有する物件がリーズナブルに手に入るなら、築年が多少古めでも構わないと考える方も多いようです。

実は、マンションの基本性能は毎年均等に向上しているわけではなく、性能が一気に高まる「節目」が存在します。築年が近くても、この節目の前後では住宅性能が大きく違ってきます。価格と性能のバランス検討のポイントの1つが、この「節目」なのです。

築年における性能差の大きな節目となるのが、1981年と2000年です。マンションの基本性能は建築基準法によって最低水準が定められていますが、1981年と2000年に大きな改正が行われ、建物のスペックが格段に強化されました。2000年は建築基準法の改正に加えて「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」も制定され、耐震や省エネ性能など10種の性能が客観化された「住宅性能表示制度」がスタートしました。ということで、これら2つの節目の前後では住宅価格や性能に大きな差が生じているのです。

新築マンションの性能・仕様に影響する大きなトピック

トピック 概要
1981(昭和56) 建築基準法改正 耐震性能に関する基準(いわゆる新耐震基準)が見直された
これ以前の基準は旧耐震基準として取り扱われる
1997(平成9) 建築基準法改正 共同住宅の共用部分の容積率が緩和された
2000(平成12) 建築基準法改正 耐震基準が見直され、現行基準となった
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)制定 「住宅性能表示制度」が創設され、構造や温熱環境など10の分野で評価基準が定められた

では、2つの節目を挟む「1960~70年代」「1980~90年代」「2000年代以降」について、それぞれの時代の分譲マンションの特徴と購入検討の際のチェックポイントを整理してみましょう。

1960~1970年代:旧耐震基準ながら良質のストックも

1960~1970年代は、いわば“日本のマンション黎明期”で、賃貸・分譲ともに集合住宅の大量供給が始まりました。日本住宅公団(現・都市再生機構=UR)が都市圏を中心に、公団住宅(団地)の建設を本格化させたのもこの頃です。ダイニングキッチンや腰掛け便器など、現在では当たり前になっている暮らし方や住宅設備が普及しました。

この時期に建てられたマンションに共通するのは、「旧耐震基準」であるということです。1981年の建築基準法の改正は、1978年の宮城県沖地震を受けたもので、耐震基準が大幅に強化されました。そのため旧耐震基準の住宅は、新耐震基準の住宅と比較すると大地震の際の損傷や倒壊リスクが高めであるとして、「住宅ローン商品が限られる」など、ファイナンス面でのデメリットが存在します。

旧耐震基準の住宅では、上下階を隔てるスラブ(鉄筋コンクリート造の床や屋根)厚が120mm程度というのが一般的です。現在では150mm以上が一般的なので、遮音性や断熱性については現在の住宅より低いと言えます。階高が十分確保されていない物件では、室内の天井高が低いものもあります。

設備面では、1970年代中頃までは水道の給排水管に亜鉛メッキ鋼管(1997年のJIS改正により現在は上水には使用できない)が使われており、赤水が発生したり、サビで内径が細くなり水の出が悪くなったりすることがありました。給排水管は19~23年が更新の目安とされているので、多くのマンションでは既に別の素材に更新されているかと思いますが、壁内に埋め込まれた配管については内部をコーティングして使用を続けるようなケースもあります。

一方で、この時代のマンションは、立地が良好だったり敷地にゆとりがあったりするなど、ロケーションや住環境面で有利な物件が多いのが特徴です。性能についても、建設戸数が少なかった分、後の時代より良質の建材が使用されている物件も多くみられます。

このようにメリットもリスクもさまざま存在しますが、既に築50年以上が経過しているわけですから、適切なメンテナンスや大規模修繕が実施されているかなど、維持管理の状況も大きなポイントです。

1960~1970年代に建設された分譲マンションを選ぶ際のチェックポイント例
・新耐震基準に合致した耐震改修が実施されているか
(実施されていない場合、安全面やファイナンス面でのデメリットを理解・納得できるか)
・共用部について、適切なメンテナンスや更新が行われているか
・天井高や遮音性などの基本仕様は納得のいくものか
・立地条件や敷地内のゆとりなど、ロケーション面でのメリットや優位性があるか

1980~1990年代:玉石混交ゆえに分譲時の情報入手が重要

1980~1990年代の20年間は、ちょうど中間にバブル期を挟んだ時期であり(バブル崩壊は1991年)、性能や間取り、仕様など、ストックによって相当の差異が見られます。それでも年代全体の傾向を単純化していくと、マンションとしての規格化・標準化が進んだ1980年代前半、バブル期の到来によって間取りや仕様が多様化した1980年代後半、バブルの崩壊によって住宅需要が減退し、専有面積の抑制など新たな動きを見せた1990年代に整理できます。

「規格化・標準化」とは、建物の工法はSRC造やRC造、間取りを「●LDK」と表するような、スタイルの一般化を指します。1980年代前半には、縦に細長い区画の中央に廊下を配し、その両側に部屋を配置した「田の字型」と呼ばれるプランが一般化しました。それらがバブル期の到来によって多様化し、プランや間取りはさまざまに変化しました。億ションの登場もこの頃です。こうした性能向上と多様化の後、今度はバブル崩壊によって市場が一気にしぼみ、販売価格を下げるために専有面積を減らした物件が登場します。

この時代の建物の耐震性能は新耐震基準ではあるものの、2000年に建築基準法が再度改定されており、現行基準は満たしていないという微妙な状況です。

住宅の施工品質については、バブル期ゆえにグレードの高い建材を多用したものから、公開したそばから売れるため施工スピードを優先するものなど、さまざまな品質のストックが混在しています。このように玉石混交の時代だったがゆえ、購入検討の際には、口コミサイトを利用するなど分譲時の情報入手が重要です。現時点で築20~40年以上経過しているので、大規模修繕の実施状況も確認しておきましょう。

1980~1990年代に建設された分譲マンションを選ぶ際のチェックポイント例
・建設時に丁寧に施工されていたか(分譲時の情報を収集する)
・大規模修繕がきちんと行われているか
  次の大規模修繕が計画されているか
・管理費や修繕積立金の金額は適正か
・立地条件や敷地内のゆとりなど、ロケーション面でのメリットや優位性があるか

2000年代以降:現行基準で性能面は安心、コミュニティーなどソフト面に留意

2000年は建築基準法の改正と品確法の制定というトピックがあり、これ以降に建設されたマンションは現行の性能基準を満たしています。共用部のスペックなどについては特に問題ないとして、間取りや設備が自分たちの価値観や暮らし方にマッチしているか、管理組合やマンション住人のコミュニティーがきちんと機能しているかなどといった、ソフト面のチェックが大切になってきます。

ただ、共用部がどのようなプランで設計されているかは、ぜひ確認してください。というのも、1997年の建築基準法改正によって、共同住宅の共用部分の容積率が緩和されたからです。エントランスホールや共用廊下、エレベーターなどの設備が「容積率から原則不算入」となったため、プランづくりに柔軟性が生じました。容積率に含まれないため、ゆとりを持った設計なのか、それとも従来通りのコンパクトな空間なのか。それを確認するだけでも、デベロッパーの意図がうかがえるかもしれません。共用部のグレードは、将来の売却の際の査定額にも少なからず影響するものです。

築年が浅いことから、大規模修繕を実施していないマンションもあるかと思います。ここで忘れずチェックしておきたいのが、長期修繕計画と修繕積立金の月額費用と現時点の積立額です。デベロッパーの中には早期完売を意図して、当初の管理費や修繕積立金を実際の必要額より低めに設定するといったケースが散見されます。その場合、いざ大規模修繕となっても積立金だけでは賄えず、一時金を徴収される可能性があります。

2000年以降に建設された分譲マンションを選ぶ際のチェックポイント例
・共用部のグレードは高めか
・取引価格は分譲時からどのように変化しているか
(購入時は安い方がいいが、値下がりしていない方が資産価値が維持しやすい)
・管理費や修繕積立金の金額は適正か
・住人間のコミュニティーは良好に機能しているか。深刻な問題はないか

以上、マンションの構造や性能など、共用部を中心とした年代ごとの特徴とチェックポイントについて整理しました。専有部については、間取りや仕様のリフォームなどで解消できますが、資産価値の維持・向上にもつながる要素である共用部については、簡単に変更や性能向上はできません。快適な住み心地を手に入れるとともに、資産価値を維持・向上させていくためにも、建築時期ごとの特徴を確認して、住まい選びに生かしてください。

また、どのような建築物も経年とともに建物の性能は緩やかに劣化していくものです。しかし、計画的な維持管理や大規模修繕によって、性能の維持や向上は可能です。築年だけにとらわれず、管理組合の活性の度合いや建物の維持管理や大規模修繕の状況など、ソフト面にもぜひ留意してください。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年1月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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