テーマ:相続

どうする? 親から相続した遠方の不動産

絶対に“争族”にしない!親子で考える相続(第14回)

この記事の概要

  • 亡くなった親の遺産として、実家の土地や建物を相続するケースがあります。しかし、それが遠方である場合など、管理や使い途に困る“負動産”にもなりかねません。利活用や処分方法は個々の事情や地域性などに大きく左右されますが、一般的な対処法について整理してみましょう。

どうする? 親から相続した遠方の不動産

実家の処分に伴って出てくる”親戚の声”

親の実家など、現在住んでいるところから遠方の不動産を相続することになった場合、皆さんはどのような気持ちになると思いますか。私の場合、実は「お荷物になるな……」というネガティブな思いも湧きました。親戚を含めて使いたい者がおらず、維持管理が大変なだけの空き家になってしまうことが明らかだったのです。すぐに使わない不動産の相続は、そうした面倒ごとを抱え込むという一面もあるのです。

たとえ空き家であっても不動産を所有していれば固定資産税や都市計画税といった税金などのコストが発生しますし、維持管理の手間もかかります。当面使う予定のない空き家であれば速やかに売却したいところですが、それが親の実家ともなるとそう簡単にはいきません。愛着や地縁、個人的感情など、さまざまな理由から「売却まかりならぬ」「仏壇や位牌はどうする?」と親族が口を挟むなど、速やかな売却が難しかったりするものです。ここからは実家を「所有し続ける」「手放す」2つの方向から対処法をご紹介していきます。

実家を持ち続ける場合の利活用例

現在空き家の実家を現状維持以外の利活用法で検討する場合、大きく「住む」「貸す」「壊す」の3つの選択肢が考えられます。

相続した遠方の不動産への対応例(戸建て住宅を想定)所有し続ける 住む リモートワークの浸透もあり、家族の理解が得られるならば選択肢の1つ。 貸す 売却しないのならば賃貸に。将来、実家に戻る可能性があるならば普通借家契約ではなく、賃貸期間を区切れる定期借家契約が望ましい。 壊す 一般的には更地の方が売りやすいが、固定資産税の減額特例が適用されなくなり、税金もかなりの負担増となる。解体費用の負担も大きい。 手放す 寄贈 売る 使わないまま所有していても維持管理費と手間がかさむだけなので、早急に売却するのが賢明。現状有姿、または更地にしたうえで売却する。

1.「住む」:ご自身や親戚が実際に住む方法です。遠方で自己居住が難しい場合、別荘や二地域居住の拠点としての使い方が考えられます。リモートワークが可能な職場ならば、移住も視野に入れられるかもしれません。ご自身での使用が難しい場合、親戚の集まる拠点として、実家機能としての使い方も考えられます。ただ、使用頻度にもよりますが、築古の実家は住宅性能が低いことが多く、メンテナンスやリフォーム費用がかかることが考えられます。

2.「貸す」:そのまま住宅として貸し出せればいいのですが、住宅としてのニーズが低い場合、事務所や店舗など、用途を転用して貸し出すという選択肢もあります。賃料が確保できる反面、雨漏りや設備の不具合の解消など、賃貸オーナーとしての責務も発生します。そのため、貸し出しに際して一定のメンテナンス費用が必要になる可能性があります。費用負担が難しいようなら、近隣住人や自治会など、地域に向けて現状のままでの無償貸与も考えられます。

3.「壊す」:建物を更地にして、新たな用途として再活用することです。駐車場や賃貸アパートなどをしつらえて貸し出すなど、投資による資産運用になります。また「壊す」には、古い建物の破損や倒壊などの事故を未然に防ぐために解体するケースもありますが、更地にすると「固定資産税における住宅用地の特例」が適用されなくなります。固定資産税が約6倍(地域や広さ、用途などによって変わります)に上がるため、慎重に考える必要があります。

地域ニーズがなければ早期売却は難しい

こうした利活用が難しい場合、空き家として所有し続けることになり、建物の老朽化対策や庭木の手入れ、税負担などさまざまな管理コストが必要になります。放置した場合、景観の悪化や自然災害時に屋根や外壁の落下など、近隣に迷惑をかけることにもなりかねません。将来も使用を予定していないのであれば、売却するのが現実的です。

売却する場合は主に、不動産仲介業者に新たな買主を見つけてもらうことが一般的です。早期売却のため、実家の地域における買主のニーズはあるのか、建物を残して現状のまま売却するのか、建物を解体した後に売却するのかなど、どのように売却するのが好ましいのかを不動産仲介業者に相談してみましょう。なお、そもそも論として、不動産仲介業者が実家の地域を営業範囲としていない場合もありますので注意が必要です。

2023年4月から、相続などによって取得した土地について国に寄贈できる「相続土地国庫帰属制度」が施行されます。建物のない土地であること、担保権などの設定のないことなどさまざまな要件がありますが、不要な不動産を手放す1つの方法につながっていく可能性があります。これについては、動きがあり次第、改めて別稿でご紹介したいと思います。

著者

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年10月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

※ みずほ不動産販売は遠方の不動産仲介なども取り扱っていますが、エリアによっては対応内容に制限のある場合があります。