テーマ:賃貸管理

築年数の経過した賃貸住宅の建替えを考える

「不動産投資」管理の重要なポイント (第40回)

この記事の概要

  • 築年数を経た賃貸住宅をお持ちのオーナー様から、今後を考えて建替えを検討したいという相談が増えています。建替えをしない場合の選択肢も含め、様々な要素を比較検討して判断する必要があります。今回は一般的な考え方を見ていきましょう。

築年数の経過した賃貸住宅の建替えを考える

1.建替えは長期的な計画を立てておくことがお薦め

賃貸住宅が古くなると、以下のような困りごとが発生しがちで、建替えを検討し始めるオーナー様が多くなります。

  • ・建物本体や設備が劣化して大きな修繕が必要となり金銭負担が重い。
  • ・雨漏りや漏水が相次いで入居者からのクレーム対応が大変。
  • ・近隣の新しい物件と比較して市場価値が低下し、入居者募集に苦戦して空室が増える。
  • ・受け取り家賃の減小。

建替えをうまく進めるためには多くの時間が必要となるため、何も問題の無いうちから長期的な計画を立てておくのがお薦めです。問題が起きてから検討を始めた場合、その対処のためにも急がなければならなくなり、十分な検討時間を確保できず、結果的に収益が下がったり、余分なコストがかかることも少なくありません。

【建替えのメリット】

  1. (1)建物や設備が新しくなると市場価値が上がり、高い家賃を得られる。
  2. (2)建物の減価償却費が増え、所得税の負担が少なくなり、修繕費も減るのでキャッシュフローが改善される。
  3. (3)建替えに至るまでの難しい作業を親の代で済ませ、手間のかからない優良な不動産を次世代に承継することが出来る。

【建替えのデメリット】

  1. (1)オーナー側の都合で入居者に退去してもらうことになるため、転居先の契約金や引越業者の費用等が発生する。
  2. (2)立ち退き料の調整が必要になる。
    なお、立ち退き料には決まりがなく、最近では入居者が立ち退き料の増額交渉を弁護士に依頼するケースも散見されます。将来建替えする時期を前もって決められるのであれば、入居者の賃貸借契約を順次定期借家契約に切り替えていくことも検討すると良いでしょう。
  3. (3)建替えのためには多額の費用調達が必要になる。
    建築費の高騰により、事業が長期的に成り立つかどうかの精査には、これまでより時間をかける必要があります。

建て替えイメージ

2.建替えをしない場合の選択肢とは

建替えせずに建物を維持管理していくには、定期的に大規模修繕を実施し、室内設備の交換や修繕を行っていく必要があります。修繕で外観や機能が向上しても築年数は古いままなので、入居者を継続的に確保するためには築年数に負けない魅力付けが必要になります。

大規模修繕は足場を立てて、外壁補修や屋上防水、鉄部塗装などを実施しますが、バルコニー内部の防水工事などは、入居者の協力無しには実現しません。

また、漏水事故を防ぐためには室内の給排水管の継ぎ手や劣化部分の交換が必要ですが、住戸内に立ち入って床や壁を一部壊さないと出来ませんので、退去に合わせて各住戸ごとに工事するのが現実的です。退去のタイミングは予測不能なので、ある程度の期間コツコツと修繕を積み重ねて行く必要があります。

築年数を経た賃貸住宅の経営は難易度が高いため、引き継ぐ意向のある次世代がいない場合には、売却するのも選択肢の一つとなるでしょう。

3.「建物をどのように運用していくのか」については早めの検討を

賃貸物件の建物を「どのように運用していくのか」を決めていないというオーナー様はとても多いですが、建替えや維持修繕の難易度やコストが上がっている昨今では、大規模修繕を行うのか、将来は建替えか売却かなどを、なるべく早めに検討開始して欲しいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務し、賃貸仲介・管理業に20年従事。現在は不動産の利活用や相続支援業務を行っている。金融機関・業界団体等での講演多数。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年9月29日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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