- 中型ビルは平均稼働率の低下幅が物件規模別で最も大きいが、足元では持ち直しの傾向が見て取れる。小型ビルの平均稼働率はほぼ横ばいで推移。平均募集賃料はすべての規模で下落しているが、中型ビルと小型ビルは下落幅が小さい。
- 稼働中物件の賃貸収益状況をみるため、J-REIT保有物件のNOI※1を集計したところ、大規模ビルと大型ビルは下落が続いているのに対して、中小ビルは下落幅が小さく、直近では前期比増加に転じた。
1)中型ビルは平均稼働率が規模別で最低であるが、足元では持ち直しの兆しがみられる
東京都心5区※2のオフィスビルの平均稼働率(=1-平均空室率)の低下度合いは物件の規模※3によって差がある[図表1]。直近の平均稼働率を日本でのコロナ流行前の2020年1月時点と比較すると中型ビルは低下幅が最大であり、平均稼働率が最も低くなっている。ただし、足元では平均稼働率が上昇に転じており、持ち直しの傾向が見て取れる。小型ビルの平均稼働率は低下幅が最も小さく、足元では概ね横ばいで推移している。なお、中型ビルや小型ビルとは対照的に、大規模ビルと大型ビルの平均稼働率は低下基調が続いている。テレワークによるオフィス床縮小は意思決定が比較的早い中小企業で先行してきたのに対して、足元ではテレワークを恒常的制度とすることを前提に一部の大手企業においてオフィス床縮小の動きが顕在化しつつあることが背景の一つと考えられる。
平均募集賃料は2020年半ばをピークに下落している[図表2]。物件の規模別に直近の平均募集賃料をそのピーク時点と比較すると、物件の規模が小さいほど下落率は低くなっている。
※1:賃貸収入から賃貸費用(減価償却費は除く)を減じた純収益のこと。
※2:東京都心5区とは、千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区をいう。
※3:大規模ビル:1フロア面積200坪以上、大型ビル:同100坪以上200坪未満、中型ビル:同50坪以上100坪未満、小型ビル:同20坪以上50坪未満
[図表1]東京都心5区の平均稼働率の推移(左)および2022年7月時点における2020年1月時点との差(右)
![[図表1]東京都心5区の平均稼働率の推移(左)および2022年7月時点における2020年1月時点との差(右)](/Portals/0/resources/article/common/images/img_report_202208_01.jpg)
データ出所:三幸エステート(株)「オフィスマーケット調査月報」
[図表2]東京都心5区の平均募集賃料の推移(左)および2022年7月時点における直近ピーク比(右)
![[図表2]東京都心5区の平均募集賃料の推移(左)および2022年7月時点における直近ピーク比(右)](/Portals/0/resources/article/common/images/img_report_202208_02.jpg)
データ出所:三幸エステート(株)「オフィスマーケット調査月報」
2)中小ビルのNOIは下落幅が小さく、直近では前期比増加に転じた
稼働中物件の賃貸収益の状況をみるため、J-REIT保有物件を対象にNOI(対象物件の平均値)を物件の規模別に集計※4したところ、すべての規模で2020年下期をピークに下落しているが、中小ビルの下落幅は相対的に小さく、直近データの2021年下期は上期を僅かに上回った[図表3]。
※4:2019年上期以降連続してデータが取得でき、かつ稼働率により賃料収入が変動する物件のみを対象とした(図表4の貸室賃料収入単価と図表5の稼働率も同様)。なお、図表3~5の表題のカッコ内の数値は対象物件数を表す。なお、集計対象数を確保するため、中型ビルと小型ビルは一体で集計した。中型ビルと小型ビルの総称として中小ビルという。
[図表3]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均NOI(物件規模別)
![[図表3]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均NOI(物件規模別)](/Portals/0/resources/article/common/images/img_report_202208_03.jpg)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
NOIの変動要素をみるため、賃貸収入への影響が大きい貸室賃料収入単価※5と稼働率(ともに対象物件の平均値)を集計した[図表4、5]。貸室賃料収入単価に関しては、大規模ビルや大型ビルと比べて中小ビルの低下幅が大きいが、その差は僅かである[図表4]。稼働率に関しては、大規模ビルと大型ビルでは低下が続いているのに対して、中小ビルは直近データの2021年下期に僅かながら前期比上昇した。2021年下期時点の平均稼働率を物件規模別に比較すると、中小ビルが最も高い[図表5(棒)]。また、稼働率が100%(満室稼働)の物件数の割合を集計したところ、コロナ下で満室稼働の割合が低下してきたが、中小ビルは直近で上昇に転じた[図表5(折れ線)]。低下が続く大規模ビルや大型ビルとは対照的である。
※5:貸室賃料収入単価=貸室賃料収入÷(賃貸可能面積×平均稼働率)。すなわち、稼働面積当たりの貸室賃料収入を表す。
[図表4]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均貸室賃料収入単価(物件規模別)
![[図表4]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均貸室賃料収入単価(物件規模別)](/Portals/0/resources/article/common/images/img_report_202208_04.jpg)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
[図表5]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率(物件規模別)
![[図表5]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率(物件規模別)](/Portals/0/resources/article/common/images/img_report_202208_05.jpg)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
2023年はオフィスビル新規供給量が増加。競争力が劣る物件ではリーシングに苦戦する可能性
都市未来総合研究所の調査※6によると、2021年と2022年の新規供給量は低位であったが、一転して2023年は港区で大量のオフィスビルが竣工を迎える予定であることから新規供給量が大幅に増加し、2001年以降で2番目に多いと見込まれている[図表6]。
新規ビルに入居するテナントの多くは既存ビルからの移転であることから、今後は既存ビルにおいて2次空室、3次空室が顕在化する可能性がある。テナント退去後、一定以上の競争力を有するビルでは埋め戻しが比較的スムーズに進められるのに対して、競争力が劣後するビルでは、埋め戻しに当たって賃料の大幅な引き下げや相場以上に長いフリーレントの付与等が必要となるほか、それでもなおリーシングに苦戦する可能性がある。
※6:調査時点は2022年5月31日。建設予定または建設中(竣工不明も含む)の建物のうち、延べ床面積が概ね5,000㎡以上で、オフィス用途部分が存在する建物に関するプロジェクトについて調査・表示している。各種公表データをもとに計画予定の大規模開発物件の延べ床面積を推計したもので、複合ビルの場合、他用途の延べ床面積も含まれる。自社ビルの延べ床面積も含む。
[図表6]東京都心5区における大型オフィスビルの新規供給量
![[図表6]東京都心5区における大型オフィスビルの新規供給量](/Portals/0/resources/article/common/images/img_report_202208_06.jpg)
データ出所:都市未来総合研究所「Office Market Research」