2017年路線価、全国平均では上昇が継続、相続税への影響も

アナリストが解説 2017年路線価

この記事の概要

  •  国税庁が、2017年1月1日時点の路線価を7月に公表しました。路線価は相続税などを算定する基準となり、ウオッチしておく必要がある指標です。東京・銀座の最高地点ではバブル期を超えた2017年の路線価。なぜ大きな変化があったのか。みずほ証券の石澤卓志上級研究員に解説してもらいました。

石澤卓志さん

国税庁が7月に2017年の路線価を公表しました。住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに、2017年の路線価のポイントについて解説していただきました。

最高価格はバブル期を超えたが、全国的に見ると当時とは大きな違いがあると話す石澤氏

3月の公示地価に続いて、7月に2017年の路線価が公表されました。

石澤:公示地価は土地の取引に指標を与えたり、公共事業用地等の補償の基準にしたりするのが目的です。一方、路線価は、相続税や贈与税の税額を算定する基準になりますから、一般の方にとっては、より意識しておく必要がある指標といえるでしょう。

毎年1月1日が評価時点として、公示地価等をもとに算定した価格の80%が目安になっています。つまり、変動については公示地価と同じような傾向を示すことになります。

2017年の路線価では、全国最高地点である東京銀座5丁目の路線価がバブル期を超えたことが話題になりました。なぜ大きな変化があったのでしょうか。

石澤:銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前の2017年の1㎡当たりの路線価は4032万円で、2016年よりも26%も上昇しました。2016年も前年より18.7%も上がっていますから、2年間で約1.5倍になったわけです。ただし、このように高騰している地点は多くはなく、全国の標準宅地の平均変動率は前年比0.4%プラスにすぎません。2016年は前年比0.2%のプラスでしたので、2年続けてわずかな上昇でありました。

「鳩居堂」前の路線価の推移(下図)を見るとバブル期に急騰し、その後、大幅に下落しました。2006年頃の「ミニバブル」で一時、かなりの水準まで回復しましたが、リーマンショックにより再び下落に転じました。そして、2013年から上昇し、過去最高になっています。

今回の上昇の要因がバブル期と異なることに注目すべきです。バブル期の要因は転売目的の「投機」でしたが、今回は、インバウンドや再開発による需要が要因の「投資」だと分析しています。大都市圏においては、不動産価格は、近隣の取引事例ではなく、収益性に強い影響を受ける傾向が定着しつつあります。銀座の高騰も、それだけ収益を上げることができる場所であると評価された結果です。全国的に見ても、収益性の高い大都市中心部の上昇が目立っています。

東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前の路線価の推移

全国平均変動率の推移

全国の平均変動率がプラスになったということは、全国的に路線価が上がっているということでしょうか。

石澤:都道府県別の平均変動率で上昇しているのは13都道府県にすぎません。下落が続いているのが32県です(変動率0.0%が2県)。全国的に見るとまだ、下落が続いている自治体が多くなっています。ただ、上昇率が拡大し、下落率が縮小した結果、全体平均ではわずかにプラスになっているのです。

路線価の変動率–都道府県別・変動率上位

(単位:%)

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
宮城県 ▲3.7 ▲3.8 1.7 2.4 2.5 2.5 3.7
東京都 ▲2.0 ▲1.2 ▲0.3 1.8 2.1 2.9 3.2
沖縄県 ▲1.4 ▲0.9 ▲0.6 0.0 0.3 1.7 3.2
福島県 ▲3.3 ▲6.7 ▲1.6 0.8 2.3 2.3 1.9
福岡県 ▲3.4 ▲2.6 ▲1.6 ▲0.6 0.0 0.8 1.9
京都府 ▲2.9 ▲1.5 ▲1.1 ▲0.2 0.1 0.8 1.4
愛知県 ▲0.8 ▲0.5 0.1 1.2 1.0 1.5 1.2
大阪府 ▲3.4 ▲1.7 ▲0.8 0.3 0.5 1.0 1.2
広島県 ▲3.2 ▲3.2 ▲2.5 ▲1.5 ▲0.9 0.5 1.2
北海道 ▲4.6 ▲3.9 ▲2.3 ▲0.6 ▲1.1 0.8 0.9
全国 ▲3.1 ▲2.8 ▲1.8 ▲0.7 ▲0.4 0.2 0.4

路線価の変動率–都道府県別・変動率下位

(単位:%)

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
秋田県 ▲5.6 ▲5.3 ▲5.2 ▲4.8 ▲4.6 ▲3.9 ▲2.7
愛媛県 ▲3.2 ▲3.3 ▲2.8 ▲2.7 ▲2.6 ▲2.1 ▲2.0
三重県 ▲2.3 ▲2.5 ▲2.3 ▲1.9 ▲1.7 ▲1.8 ▲1.7
山梨県 ▲3.1 ▲3.8 ▲3.5 ▲3.1 ▲2.6 ▲1.9 ▲1.6
福井県 ▲4.5 ▲4.3 ▲3.8 ▲2.9 ▲2.4 ▲1.6 ▲1.6
和歌山県 ▲4.8 ▲5.9 ▲4.4 ▲3.4 ▲2.7 ▲1.9 ▲1.6
鳥取県 ▲5.1 ▲6.1 ▲4.5 ▲4.2 ▲3.6 ▲1.8 ▲1.6
島根県 ▲3.5 ▲4.5 ▲3.4 ▲2.8 ▲2.9 ▲1.7 ▲1.6
新潟県 ▲2.8 ▲2.9 ▲2.6 ▲2.0 ▲2.0 ▲1.5 ▲1.4
鹿児島 ▲4.0 ▲4.0 ▲3.1 ▲2.3 ▲3.4 ▲1.7 ▲1.3

上昇率がトップだった宮城県では、仙台市の地下鉄東西線が開業した効果だと分析しています。沖縄県(3位)や京都府(6位)はインバウンド需要の影響でしょう。上昇率上位10位までは順位の変動はありましたが、2016年と同じ顔ぶれです。下位10位のうち8県は2016年と同じです。上昇地域と下落地域が固定化されつつあることがうかがえます。

ただ、下落が続いている県でも、中心部は上昇したケースが多いようです。47都道府県の県庁等所在地における最高路線価を見ると、上昇が27都市、横ばいが16都市で、下落は3都市しかありません。県庁所在地等の中心部の下落は、全国的にほぼ止まったようです。東京圏、大阪圏、名古屋圏に加えて、札幌、仙台、広島、福岡の地方拠点4都市の中心部は、上昇傾向が顕著です。

路線価の動きがかなり注目されているようですが。

石澤:相続税への影響を心配している方が多いからでしょう。冒頭で説明した通り、路線価は相続税算出の基準として使われます。相続税は2015年から基礎控除の引き下げ等の改正が行われました。その結果、従来は相続税の対象にならなかったのに、改正後は納税しなくてはならないケースが出て来ています。今回のように路線価が上昇すれば、相続税の対象となるケースはさらに増加します。

不動産資産をお持ちの方で、所有物件の路線価がどうなっているのか把握したい場合には、国税庁のWEBサイトに「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」があるので、手軽に確認できます。ただ、相続税額をきちんと算出するには、特例の適用などをチェックする必要があるので、専門家にアドバイスを求めるべきでしょう。

変動率が大きい場所に不動産をお持ちの場合には、相続税の試算もしばらくは1年ごとにやり直したほうが無難ではないでしょうか。

解説

石澤 卓志 

1980年代より一貫して不動産市場の調査に携わる。国土交通省・社会資本整備審議会の委員をはじめ、自治体、経団連等の委員や専門委員、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍。

※ 2017年7月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。
※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

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