テーマ:賃貸管理

コロナ禍での賃貸ニーズの変化と今後に備えて

「不動産投資」管理の重要なポイント (第37回)

この記事の概要

  • コロナ禍を経験し、賃貸不動産の入居者ニーズにも変化がありました。また、アフターコロナを前提にオーナーが備えるべき対応策について、考えてみましょう。

コロナ禍での賃貸ニーズの変化と今後に備えて

1.内見方法の変化

コロナ禍で、物件の内見方法に大きな変化がありました。お部屋探しはしたいけれど外出は控えたい、人と接触したくないというお客さまのニーズに合わせて、コロナ前はほぼ行っていなかったオンライン内見が増えたのです。

オンライン内見のやり方は、仲介担当者が物件現地に行ってお客さまとビデオ通話などを使って映像や音声を繋ぎ、物件の室内を画面に映しながら、リアルタイムでお部屋探しのお客さまに説明をするのが一般的です。担当者にリアルタイムで質問したり、収納の内部や窓からの景色などのこだわりがある部分をしっかり見せてもらうなど、不動産情報サイトで部屋探しをするよりも多くの情報を得ることが出来ます。必要な部分のサイズをその場で測ってもらうことも可能です。

リクルート住まいカンパニーの実施した「2020年度賃貸契約者動向調査(首都圏)」によると、オンライン内見者の利用は賃貸契約者の約20%となっており、お部屋探しの新たな方法としてオンライン内見が浸透していることが分かります。

感染防止対策としてだけではなく、遠方にお住まいだったり、仕事が忙しくて現地に行く時間が取れない人にとっても便利なので、コロナが収束してもオンライン内見は減ることはないと言われています。オーナーにとっては、オンライン内見に対応している不動産業者を選ぶことも戦略の一つになるでしょう。

オンライン内見のイメージ

2.求められる条件の変化

コロナ禍は働き方にも影響を及ぼし、リモートワーク実施者が増えました。

同調査では、賃貸契約の際に決め手となった項目として「初期費用」「通勤・通学時間」が前年と比較して5ポイント以上減り、「間取り」が2ポイント以上増えるという結果になりました。特にリモートワーク実施者は、非実施者と比べて「面積(広さ)」が決め手になったと回答した人が、11.6ポイント多くなりました。

通勤が無くなったり回数が減ったりしたことで「通勤・通学時間」があまり問題にならなくなり、住まいが仕事の場としての役割も担うことになったので「間取り」や「面積(広さ)」の重要性が増したという入居者ニーズの変化がうかがえます。

働き方改革の一環として、コロナが収束しても多くの企業がリモートワークを継続する意向を示していますので、これらの入居者ニーズの変化も一過性のものではないでしょう。物件のある場所は変えようがありませんので、オーナーが出来ることとしては、ご所有の賃貸物件を大きくリフォームする際に間取りに工夫を凝らしたり、設備・仕様にこだわってみるなどが考えられます。満室のうちに、管理・仲介を依頼している不動産会社と今後のリフォーム方針について打ち合わせをしておくのも良いでしょう。

3.入居者からのクレームの変化

コロナ禍で管理会社に寄せられるクレームも大きく変化しました。

リモートワークで自宅にいる入居者が増えたことで、「足音がうるさい」「テレビの音がうるさい」などの騒音関連のクレームが増加しました。

自宅で過ごす時間が増えたことに伴ってごみの量も増え、「ごみ置場が散らかっている」「指定日ではないのにごみを出している人がいて収集されない」「分別が間違っている人がいる」などのごみに関するクレームも増えました。

また、通信販売の利用者が多くなったことで宅配ボックスの使用頻度が上がり、「宅配ボックスが全部使用されている」「宅配ボックスが開けられなくなった」などのクレームも増えています。

これらのクレームは、緊急事態宣言で外出自粛となった際に急激に増えましたが、自粛が解除されても受付数が元に戻っていません。コロナが収束しても前出のリモートワーク実施者など自宅で過ごす時間が増えたことが原因だと思われ、これは今後も減らないでしょう。

防音性を高めたり、ごみストッカーやごみ庫を大きくしたり、宅配ロッカーの数を増やすことは簡単ではありませんが、既存の建物を建て替える際や、設備を新設したり交換する際に、これらのニーズを少しでも満たせるように検討すると良いと思います。

コロナ禍で人々の暮らしが大きく変化し、賃貸住宅に求められるものも変わってきています。コロナが収束したときにその変化がどこまで定着し、人々はどのような暮らしを求めるのでしょうか。暮らしの場を提供する立場の賃貸オーナーは、それらのニーズの変化をしっかり捉え、賃貸経営に反映させていくことが重要です。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務し、賃貸仲介・管理業に20年従事。現在は不動産の利活用や相続支援業務を行っている。金融機関・業界団体等での講演多数。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年6月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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