- J-REITが東京23区に保有する賃貸マンションの鑑定キャップレートは低下しており2021年下期は3.82%
- 鑑定において想定されているNOIはコロナ下でも安定的
- 取引市場での厳しい競合が鑑定キャップレートの低下を先導している
1)東京23区ではコロナ下においても鑑定キャップレートは低下傾向
J-REITが東京23区に保有する賃貸マンション(一棟)では、コロナ下でも、多くの物件で鑑定キャップレート※1(決算期の鑑定評価における直接還元法の還元利回り)が低下しており、その平均値は2021年下期(12月)時点で3.82%まで低下した[図表1]。保有する物件の鑑定キャップレートだけではなく、J-REITが東京23区で新たに取得した賃貸マンションの取得時の鑑定キャップレートも直近では同様に低下の傾向を示している[図表2]。
2)鑑定において想定されているNOI(純収益)はコロナ下でも安定的
鑑定評価額※1と鑑定キャップレート※1から、鑑定で想定された純収益※2(NOI)を算出(NOI=鑑定評価額×鑑定キャップレート)し、2017年下期を100とする指数※3の推移をみると、コロナ下においても安定的である[図表3]。鑑定では将来の標準的なNOIを想定することから、今回のコロナ禍は将来の標準的なNOIにあまり影響しないと想定していると考えられる。なお、実際のNOI※1の2017年下期を100とする指数※2の推移をみると2020年上期から2021年下期にかけて3.4%pt低下([図表4])したものの、稼働率が上昇するなか[図表5]※4、下げ止まりの傾向がみられる。
[図表1]J-REIT保有物件の鑑定キャップレートの推移(東京23区)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
[図表2]新規取得時の鑑定キャップレート(東京23区)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
[図表3]J-REIT保有物件の鑑定評価時の想定NOIの推移(東京23区)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
[図表4]J-REIT保有物件の実際のNOIの推移(東京23区)
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
3) 取引市場での厳しい競合が鑑定キャップレートの低下を先導している
不動産取引市場での賃貸マンションの売買取引額※5は、コロナ下の2020年度と2021年度も比較的高い水準であった[図表6]。金融緩和継続の中で、不動産取引市場では良質な売却物件の不足感が継続し、取得競争が激しいとみられ、これが鑑定キャップレートの低下を先導していると考えられる。
[図表5]月次稼働率の推移※4(東京23区)
データ出所:J-REITの各投資法人が開示する資料
[図表6]賃貸マンションの売買取引額(全国)
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
※1:鑑定キャップレート、鑑定評価額、実際のNOIはデータが継続して得られる物件を対象に集計。なお、決算期間の区切りは、上期は1月~6月、下期は7月~12月としている。
※2:純収益=総収益から総費用を控除したもの
※3:各物件ごとに指数化を行い対象物件の平均をグラフ化
※4:月次稼働率のデータが継続して得られる物件を対象に集計
※5:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」から、国内立地で従前用途が「賃貸物件」、従前建物が「住宅」、「区分所有」を除く事例を抽出して集計した。不動産売買実態調査は、「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)」に基づき東京証券取引所に開示された固定資産の譲渡または取得などに関する情報や、新聞などで報道された情報から、譲渡・取得した土地・建物の売主や買主、所在地、面積、売却額、譲渡損益、売却理由などについてデータの集計・分析を行うもの。情報公表後の追加・変更等に基づいて既存データの更新を適宜行っており、過日または後日の公表値と相違する場合がある。また、本集計では、海外所在の物件は除外した。金額は報道機関による推計額を含む。数値化のため、「約」などの概数表記を省いたものや範囲表記の中間値を採用したものなど、報道された値を修正したものを含む。
J-REITが保有する賃貸マンションの稼働率は東名阪で回復状況に差がある
[図表7]J-REITが東名阪に保有する賃貸マンションの月次稼働率※4
データ出所:J-REITの各投資法人が開示する資料
J-REITが保有する賃貸マンションの月次稼働率データに基づいて、東名阪(東京23区、名古屋市、大阪市)の都市別の平均稼働率の推移※4を比較すると、いずれの都市でもコロナ下では、2020年3月以降低下しており、直近は上昇傾向にある。
名古屋市では、コロナ前から稼働率の水準は比較的低かったこともあり、2020年終盤にはコロナ前の水準に戻しており、コロナショックの影響は比較的小さかったと考えられる。
大阪市では、2021年3月以降の低下の方が2020年3月以降の低下よりも大きく影響も強かったが、2022年に入ってからはコロナ前の水準に戻していると考えられる。
東京23区では、2021年4月以降上昇傾向にあるが、直近でもコロナ前の水準には回復していない。コロナショックの影響が続いていると考えられる。