テーマ:賃貸管理

災害時に入居者の暮らしを守るために、オーナーができること

「不動産投資」管理の重要なポイント (第36回)

この記事の概要

  • 最近は地震や台風など災害のニュースを目にすることが増えました。災害に伴いライフラインが停止すると、管理会社への問い合わせも急増します。災害時に賃貸住宅で起こる困りごとの中には、事前の備えで防ぐことが出来るものも多くあります。災害時に賃貸住宅で起こりがちなことを確認し、入居者の暮らしの安全確保について、オーナーが出来ることを考えてみましょう。

災害時に入居者の暮らしを守るために、オーナーができること

1.オートロックの盲点とは

オートロックのある物件はセキュリティが高くて人気がありますが、停電が起こった場合、非常用バッテリーがないものは動かなくなります。その際、オートロックの扉を開ける方法は物件によって違います。多いのは、開錠されっぱなしになり、手動で扉を開け閉めするようになる物件です。また、施錠されたままになり、扉に付いている鍵穴に鍵を刺しこんで開閉しなければならない物件もあります。昨今増えているカードキー・センサーチップ・各自のスマートフォンで操作するタイプのオートロックは、停電時は手で開閉するのか、非常用の鍵を持っていないと開けられないのかが、物件によって異なります。停電時の開け方を確認しておきましょう。

また、オーナー様の許可を得て、自分の部屋の鍵をセキュリティの高いものに変える入居者が時々いらっしゃいますが、元の鍵も一緒に持ち歩いていないと停電時に建物に入ることが出来なくなってしまう場合もあります。賃貸併用住宅の場合や、物件の隣地にオーナー様宅がある場合、入れなくなった入居者が助けを求めてくることも考えられます。オーナーとしても、停電時のオートロックや鍵がどうなるかを検証しておきましょう。

2.災害時に使えなくなる設備は他にもある

災害時の建物設備への影響は他にも色々あります。機械駐車場がある物件の場合、停電時には動かなくなるので、車の出し入れができなくなりますが、電気が復旧すれば動きます。悩ましいのはエレベーター。地震で止まったエレベーターは電気が復旧しても点検が終わるまで動きません。種類によっては自動で点検し、異常がなければ復旧するものもありますが、そうでないものはエレベーターの保守会社の作業員の安全点検を待たないと復旧しません。大規模な地震が発生した場合、エレベーターは広範囲で停止しており、病院や公共施設等、閉じ込め発生などの緊急度が高いものから対応されますので、復旧までは階段を使うことになります。

その他、災害の際に各住戸内で発生する重大問題として、断水があります。停電が発生した場合、各住戸への給水が水道本管から直結していれば影響はありませんが、受水槽の水を給水ポンプで各住戸に送水している物件や、増圧ポンプのある物件は、停電時には断水してしまいます。もちろんトイレも水が流せなくなります。本管直結で断水していなくても、リモコンで水を流すタイプのものは停電時には使えません。メーカーのホームページなどに手動で水を流す方法が紹介されているので、物件に使われている便器の情報を調べておくと良いでしょう。

震度5を超える程度の地震ではガスも停止しますが、ガス漏れがなく、ガスメーターのランプが点滅している場合は、一般的には復旧ボタンで復旧できます。大きな地震発生の際には、管理会社にもガスの停止に関して入居者からの問い合わせが多くなります。ガスの復旧のやり方をガス会社のホームページ等で調べておきましょう。

エレベーター

3.オーナーが出来ること

物件の掲示板に、自治体の作成している防災マップ等を貼っておくのも、いざという時に役に立つと思います。大規模災害時にはインターネット回線が繋がらないこともあるので、日ごろから避難所や給水所の場所などを掲示物で確認できると助かるはずです。

新規入居の方にトイレットペーパーや洗剤などをプレゼントするオーナー様もいらっしゃいますが、代わりに防災用品をプレゼントするのも喜ばれると思います。災害用の保存水、便器に袋を被せて使用し糞尿を凝固させる災害用トイレ、水の要らないシャンプー、歯磨きシート等の防災用品は比較的安価に手に入ります。新入学生や新社会人の単身入居者にプレゼントし、ご両親に感謝された例もあります。

自宅近くに物件がある場合、物件内に管理室や倉庫があれば、自宅用もかねて防災用品を保管しておくのも手です。キャンプや車中泊の流行で、災害にも使えるポータブル電源も様々な製品が出ています。ガスが止まった場合の調理にはカセットコンロとガスボンベが役に立ちます。かさばって備蓄しにくい保存水やトイレットペーパー、乾電池なども保管しておけば、暮らしの安心感は格段に増すでしょう。

災害が増え、人々の防災に対する関心は高まっています。防災に対して意識が高いオーナーの物件は安心感があり、差別化にもなるでしょう。災害時はオーナーも入居者も関係なく皆が被災者の立場になりますので、近くにいる者同士で助け合えればお互い心強いですし、災害時のコミュニケーションは物件という大切な資産を守ることにも繋がると思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務し、賃貸仲介・管理業に20年従事。現在は不動産の利活用や相続支援業務を行っている。金融機関・業界団体等での講演多数。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年5月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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