家族の生命と財産を守るために......自宅の防災力を高めよう!

中古+αで住まいの満足度アップ(第6回)

この記事の概要

  • ゲリラ豪雨、大型台風、爆弾低気圧……近年、自然災害が激甚化する傾向にあります。家族の生命と財産を守る拠点は「家」。今回は自宅の防災力を高めるためのポイントについて考えていきましょう。

家族の生命と財産を守るために……自宅の防災力を高めよう!

地震や台風、洪水、土砂災害など、日本は自然災害が発生しやすい国土といえます。こうした災害に負けない強い住まいにするためには、自宅の防災力を高めていく必要があります。

実は防災力を高めるには、建物そのものだけを見ればいいわけでなく、以下の4つの備えを総合的に考えていくことが大切になります。

  • 自宅周辺の危険箇所や避難場所のチェックといった「事前の備え」
  • 災害時に必要な防災リュックの用意や万が一のインフラ不通に備えた備蓄など「ものの備え」
  • 室内の危険箇所を極力減らす「室内の備え」
  • 建物そのものの防災性を高める「建物の備え」

本稿では、「建物の備え」を中心に、防災力を高めるためのポイントをご紹介しますが、ぜひ他の備えについてもご確認いただき、実施してください。

まずは自宅のチェック&メンテナンスから

自宅の防災性を高めるためにまず取り組みたいのは、自宅の「点検」です。「え、そんなこと!?」と拍子抜けされた方もいらっしゃるかと思いますが、まずは不具合箇所の発見と修繕が大切。診るべきポイントは「雨水の浸入防止」になります。これこそが防災力の要(かなめ)であり、基本中の基本なのです。「点検・補修」があり、必要に応じて防災性能の「強化」や「高度化」をプランニングしていくわけです。

戸建て住宅・マンションとも、室内を雨水から守ることで家族の安全や財産の保全を担保します。わずかな雨水の浸入でも、それが蓄積することでカビやシロアリなどの発生を招いたり、建材の腐朽によって建物の寿命が短くなるなど、そこに暮らす人の健康や建物の資産価値を損ねてしまいます。他にも漏電による火災の恐れなど、放置していてよいことなど1つもありません。そのためにも、定期的に建物内外のチェックを習慣づけていただきたいものです。

建物の点検箇所例

部位 点検箇所 チェックポイント
室外 屋根 反り、色あせ、ひび割れ、ずれ、コケ、しっくい剥離の有無など
外壁 欠落、ひび割れ、チョーキング、コケ、剥離、反りの有無など
窓まわり サッシのがたつきや変形・傷、シーリングの劣化、すき間、ガラスのひび割れの有無など
ベランダ 鉄部のサビ、腐食、コケ・カビ、軒天の染みの有無など
室内 壁紙・天井材の表面 雨染み、壁紙の剥がれ、カビの有無など
壁裏・天井裏・床下 溜まり水、雨染みの有無など

押入天袋や収納部の水染み跡の例

押入天袋や収納部の水染み跡の例

点検は目視で構いませんが、判断の付けられない場合はセルフチェックを室内だけに留め、屋根や外壁の状態などはプロに相談しましょう。とくに屋根や外壁などの外まわりは、性能を維持するためには定期的なメンテナンスが必要です。外壁や屋根の塗り替えなどを十数年以上実施していないお宅では、専門業者のチェックを受けるのがお勧めです。

リフォームで防災力を積極的に高める

建物に不具合がないかをチェックしたら、次いで防災力を高めるプランを検討します。その際、リフォームについても念頭に入れておくといいでしょう。防災リフォームにもいろいろありますが、大きく分けて、既存の住宅の基本性能を高めるものと、高度な防災機能を追加するものがあります。

自宅の防災力を高めるための基本手順

ステップ 概要
基本性能の強化による防災力の強化 強風、大雨、浸水リスクなどに備え、強化したい(すべき)防災性能をリフォームでより強化する
高度な防災機能・仕様の追加 電気やガス、水道などのライフラインが不通になっても、一定期間自宅で暮らせる「在宅避難」など、高度な防災性を追加する

前者の例としては、より強い風水害にも耐えられるよう、開口部の強化などが挙げられます。日々の暮らしにおいて問題なくとも、台風などの際、暴風雨によってサッシのすき間から雨水が入り込んでくるような経験はありませんか。また、強風によって飛来物が窓に当たり、ガラスが破損することも考えられます。予防策として一般的なのは、サッシを交換したり、雨戸を追加するなどがあります。

「マドリモ シャッター・雨戸」を用いた後付け雨戸の施工例(写真提供:YKK AP)

「マドリモ シャッター・雨戸」を用いた後付け雨戸の施工例(写真提供:YKK AP)

築年の経ったマンションなどでも、近年のゲリラ豪雨レベルに対応できず、開口部の水密性能がオーバーフローしてすき間から水が室内に浸入するという話を聞きます。分譲マンションにおいては、開口部は共用部となるため、個人で勝手にリフォームやグレードアップできません。ただ、こうした開口部のグレードアップは、防水機能だけでなく、省エネ機能、防犯性、遮音性を高めるなどメリットが多々ありますので、 長期修繕計画 の工事内容に含めてもらうなど、管理組合の総会で提案していくことが大切かと思います。また、個人でガラス飛散防止シールを貼ることは問題ありませんので、すぐに実施可能な取り組みになります。

 

耐震性能や断熱性能を高めることは、防災力の強化につながります。耐震性能が高いほど大きな地震への耐力を持ち、室内の安全性を高めてくれます。

断熱性能が高いほど少ないエネルギーで自宅の温熱環境を維持できるので災害時にも役立ちます。分かりやすい例を挙げると、停電などで冷暖房機器が使えない場合には室内の暑さ・寒さを和らげてくれます。この断熱性能を高める一番の方法は窓まわりの強化です。開口部の内側にもう1枚の窓をしつらえる「インナーサッシ」であれば、マンションでも個人の範疇で施工可能です。

「インプラス 引き違い窓」を用いたインナーサッシの施工例(写真提供:LIXIL)

「インプラス 引き違い窓」を用いたインナーサッシの施工例(写真提供:LIXIL)

こうしてみると、自宅の基本的な住宅性能の向上が、そのまま防災性の高さにもつながっていくことが分かります。

在宅避難しやすい住環境にすることも念頭に入れておく

大規模災害が発生した場合、避難所に移動するよう指示されるケースもあります。避難所は堅牢な建物で倒壊の恐れがなく、行政のサポートが受けられる反面、最低限の環境しか与えられないのが難点です。また、プライバシーが確保しづらい、感染症のリスクがあるなど、十分な生活環境が確保しづらいケースもあります。そこで近年、「在宅避難」という選択肢が注目されるようになってきました。

在宅避難とは、災害時において、自宅に倒壊や焼損、浸水、流出の危険性がない場合に、そのまま自宅で生活を送る方法です。住み慣れた家で避難生活を営むことで、避難所よりストレスなく過ごせることは言うまでもありません。ただし、①自宅の家屋に被災や倒壊などの危険がないこと②他者のサポートがなくても生活できること、この両方を満たすことが必要になります。

台風・豪雨時に備えてハザードマップと一緒に「避難行動判定フロー」を確認しましょう

在宅避難するためには、被災リスクを軽減したり、電気や水道などのライフラインが一時不通になっても一定期間生活できるなどの設備や仕様が必要になります。

戸建て住宅を例に取ると、万が一の浸水に備えて、2階だけでも生活できるレイアウトにしたり、ライフラインが不通になっても対応できるようにしたりするなど、電気や水といったライフラインの確保が重要になってきます。在宅避難を可能にするためのリフォーム例をまとめてみました。

在宅避難を可能にするための高度な防災リフォーム例

リフォーム例 考え方
2階だけでも生活できる間取りにする 万一の浸水リスクに備え、建物上階だけでも生活できるようなレイアウトに
家庭用蓄電池システムの導入 停電が続いても数日間は電気製品を使えるよう、家庭用蓄電池を導入する。電気自動車(EV)を蓄電池とすることも可能で、太陽光発電システムとの連携ならより長期生活が可能に
貯水タンクの設置 飲料水の確保に加えて、雨水タンクなどで生活用水の確保も。貯湯タイプの給湯機(エコキュート)や家庭用燃料電池(エネファーム)なども代用可能
パントリーの設置 防災グッズや非常食などの備蓄用収納場所の確保
クロゼットや造り付け収納の設置 家具の転倒を減らすための工夫
部分断熱(1部屋断熱) 室内全体を断熱改修できない場合など、頻繁に使う部屋のみだけでも断熱性能を高め、エアコンや暖房器具なしでも比較的生活しやすい環境にする
災害対応用の設備機器の導入 停電時でも使用可能なタンクレストイレ、下水の逆流を低減する「ます」の採用など

停電のリスクに備えるために、電気を貯める「蓄電システム」の導入も考えられます。太陽光発電設備のあるお宅が追加で蓄電池を導入するほか、コンパクトなソーラーパネルとセットの蓄電セットや、家庭用電力を充電する単独型などもあり、後付けも可能です。

「住宅用リチウムイオン蓄電システム Enerezza(エネレッツァ)」を用いた蓄電システムの概略図(図版提供:京セラ)

「住宅用リチウムイオン蓄電システム Enerezza(エネレッツァ)」を用いた蓄電システムの概略図(図版提供:京セラ)

また、建物以外のリフォームで防災性能を高めるアプローチもあります。例えば、敷地を囲む「塀」を強固にすることで、防火性や耐風性を高め、建物本体を強固に守るという考え方です。また、ハザードマップで浸水リスクの高いエリアなど、後付けでも止水板を備えておくと万が一の際の被災リスクを減少できます。いずれも建物に手を付けなくても実施可能な工事です。

簡易着脱タイプの「アピアガード オクダケ」(2連装)を用いた防水版の施工例(写真提供:鈴木シャッター)

簡易着脱タイプの「アピアガード オクダケ」(2連装)を用いた防水版の施工例(写真提供:鈴木シャッター)

以上、防災力を高めるための取組み例をいろいろ挙げましたが、自然災害の規模や種類は地域によって異なり、実際に必要な機能や目標性能は、建物の現況性能や周辺状況等によっても大きく変わってきます。防災力強化のための取り組みは、地域の事情をよく知る地元のプロに相談することが大切かと思います。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年3月25日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。