テーマ:賃貸管理

デジタル時代の入居審査について考える

「不動産投資」管理の重要なポイント (第34回)

この記事の概要

  • 投資用不動産において、申込者が入居者としてふさわしいかを判断するのが入居審査です。さまざまな項目を判断材料として審査するわけですが、近年、非対面での内見や入居申込が増えており、注意する点も変わってきています。デジタル時代の入居審査のポイントについて考えてみましょう。

デジタル時代の入居審査について考える

1.入居申込に至るまで

入居審査のためのツールの一つが「入居申込書」。お客さまが入居する意思を固めた際に記載頂くもので、書式や内容は不動産会社ごとに若干の違いがあります。最近では、不動産業者の業務のデジタル化が進み、非対面での内見や申込みの方法も出てきています。新型コロナウイルスの影響で増えている『オンライン内見』の場合は、不動産会社は画面越しにしか入居者と会いませんし、インターネット上で検索して予約を取って自由に内見をする『セルフ内見』は誰も一度も顔を合わせないまま「入居申込書」が送られて来ることもあります。

お部屋探しのために不動産会社に来店するのが当たり前だった時代とは異なり、非対面が進めば入居者の人となりが分かりにくくなるため、これからますます入居審査の重要性が高まるでしょう。

入居申込書イメージ

2.入居審査のポイント

入居申込者からよく聞かれるのが、審査基準です。最近では家賃債務保証会社の利用が進んだため、金銭面の審査は家賃債務保証会社に大部分をお任せ出来るようになりました。

しかし、入居審査をする内容は金銭の支払能力についてだけではありません。管理会社は入居申込書の内容から総合的に判断していますが、とても重要なのは引越しの理由です。入居申込書にも引越し理由を書く欄がありますが、独立、大学などへの入学、就職や転勤、結婚などは項目にあっても、離婚や退学、持ち家の売却など一見ネガティブな理由や、子供が生まれて手狭になった、親の近くに住みたいなどの細かい事情は記載しない方も多くいらっしゃいますので、こちらから質問していく必要があります。

また、数ある中からオーナーさまの物件を選んだ理由も大切ですが、それは申込書にははっきりと書かれていません。不動産会社が接客、案内していればある程度の情報が分かっていますが、もし非対面の場合は入居申込書の記載事項を見て推測することから始めなければなりません。現在どこにお住まいなのか、持ち家であればだれの名義の持ち家なのか、賃貸であれば家賃はいくら支払っているのか、収入と申込物件の家賃は釣り合っているか、勤務先への通勤は便利かなど、申込書から読み取れる部分があれば確認し、疑問を感じる部分については入居申込者に質問していくことになります。

ここで必要なのは、こちらが聞きたいことが相手にきちんと伝わり、的確に答えがくるようにする質問力です。客付けしてくれた不動産会社経由で質問したり、メール等で質問することが多くなるので、何度も追加で質問をすると申込者側が嫌な気分になってしまう場合もあります。入居された後は長いお付き合いになるので、良好な関係を築くためにも入居審査は気持ちよく進めたいものです。

3.入居申込み後のキャンセルを防ぐ

入居審査にあたって注意したいのが、「申込の意思の固さ」です。非対面が進み、内見が気軽になればなるほど、気軽な気持ちで入居申込みをすることが可能になっています。

不動産の売買契約では解約手付金の授受が認められており、売主が契約履行に着手する前に買主から契約をキャンセルしたいとなれば、手付金は解約手付金として売主のものになります。買主としても、購入の意思が固くないと手付金を支払わないでしょう。

しかし、不動産の賃貸借契約では手付解約が認められておらず、例えば申込金を受け取ったとしても契約前にキャンセルになれば、全額返金しなければなりません。つまり、申込者の立場で考えれば、契約まではペナルティ無しでキャンセル出来るため、気軽に申込みをしても困らないということになります。

契約直前にキャンセルになった場合を考えてみると、その間入居募集はストップしているため、オーナーにとっては大きな機会損失となります。キャンセルを防ぐためには、スピード感をもって、きちんとした入居審査を行い、契約日も早めに決めて、必要書類を揃えて頂くなど、契約締結に進めていくことが重要と言えるでしょう。

一度賃貸借契約を締結すれば、オーナー側の都合で簡単に解約できませので、入り口できちんと入居審査をすることが後のトラブル防止に繋がります。

非対面での入居申込みが増える時代には、入居申込書から垣間見える人物像に興味を持ち、「その人が入居申込に至った理由がすんなりと納得できるか」という視点を大切にして頂きたいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務し、賃貸仲介・管理業に20年従事。現在は不動産の利活用や相続支援業務を行っている。金融機関・業界団体等での講演多数。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年3月25日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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