テーマ:マーケット

インフレと金利上昇の蓋然性高まる中での不動産投資

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 3月号

この記事の概要

  • 過去、住宅家賃とオフィス賃料は物価上昇に概ね並行して上昇。物価変動をヘッジする形で推移。
  • 家賃・賃料が金利に遅行して変動した実績はあるが、景気など他の要因による影響のほうが大きい。
  • 金利上昇自体は不動産投資に対してプラス・マイナス両面の影響がありうるため、状況を注視しておくことが望ましいだろう。

足下で、消費者物価と長期金利が上昇方向に展開

米国で、経済の回復が概ね順調に進む一方、原油価格の上昇などでインフレ傾向が強まっていることから、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策を転換し、2022年3月をめどに量的緩和を終了すると決定した。この流れを受けて、米国の長期金利※1は直近では2021年夏ごろに上昇に転じ、2021年8月の平均値1.28%は2022年2月に同※21.90%へ0.62%ポイント上昇した。

原油をはじめとするエネルギーやその他の原材料価格、物流費の上昇などに起因して、日本でも物価上昇が顕在化しており、2022年4月以降の値上げ予定を発表する食料品メーカーなどが後を絶たない状況だ。

日本の長期金利※3も、米国の長期金利の上昇が影響して足下で上昇に転じており、2021年8月の平均値0.02%は2022年2月に同※40.20%へ0.18%ポイント上昇した。

※1:米国債10年物利回り、※2:2月1日から11日の平均値、※3:日本国債10年物利回り、※4:2月1日から9日の平均値

[図表1]日米で金利と物価が上昇展開

[図表1]日米で金利と物価が上昇展開

データ出所:財務省「国債金利情報」、米連邦準備制度理事会「H.15 Selected Interest Rates」、総務省「2020年基準消費者物価指数」

過去の実績として、住宅家賃とオフィス賃料は物価変動をヘッジする形で推移

過去50年を超える期間で物価と住宅家賃の動向を比べると、家賃は緩やかながら概ね物価に並行して動き、投資運用する側からみると物価上昇による保有コストの上昇をヘッジする形で推移した。東京都心5区に所在するオフィスビルの平均募集賃料も、データが入手可能な過去20年超の期間でみて概ね物価に並行して動き、住宅家賃と同様に物価上昇をヘッジする形で推移した。

このように、物価が上昇しても、不動産投資における賃料収入(住宅家賃とオフィス賃料)は物価上昇を吸収する形で変動する傾向があるため、従来と同様の市場構造であるならば、投資収益(インカム・キャッシュ)への影響は抑えられると考えられる。

[図表2]住宅家賃は物価上昇と概ね並んで推移

[図表2]住宅家賃は物価上昇と概ね並んで推移

データ出所:総務省「2020年基準消費者物価指数」、三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」

[図表3]オフィス募集賃料も物価上昇に概ね並行

[図表3]オフィス募集賃料も物価上昇に概ね並行

データ出所:総務省「2020年基準消費者物価指数」、三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」

家賃・賃料が金利に遅行して変動する傾向はあるも、景気など他の要因の影響が大

長期金利の上昇に対して、元来変動が緩やかな住宅家賃は遅れて上昇し1998年夏にピークを打った後、同年以降のデフレの影響を受けて下落した。長期金利の低下は主に金融政策と企業等の資金需要の減退で生じたもので、超低金利による運用難で、収益が安定的な都市部の賃貸住宅等への投資は活況となったが、全国平均として住宅家賃は低下傾向が続いてきた。

オフィス賃料は、長く続く低金利の状況の中で、主に景気情勢の影響を受けて騰落している。賃料データが得られる2000年以降でみると、賃料上昇はミニバブル期やアベノミクス景気を背景にして、また、賃料下落は世界金融危機やコロナ禍を背景にしている。住宅家賃と同様、低金利下では、収益が安定的でイールド・スプレッド(利回りと金利の差)が相対的に大きい不動産投資に資金が集まりやすい。しかし賃料の動きについては、[図表5]に示すように金利との関係はさほど強くはなく、景気など他の要因の影響の方が大きかったと考えられる。

今後、金利上昇が続く場合、その背景が景気拡大による資金需要の増大や賃金上昇を伴う物価上昇であれば、家賃・賃料は上昇方向の影響を受けるだろう。また、金利上昇によって住宅取得時のローン返済額が上がるため、取得を諦めて賃貸住宅の需要が高まることも考えられる。一方で、金利上昇に伴って金融商品の利回りが上昇し相対的に不動産投資の利回りが劣後することから、不動産投資の魅力が減じられ市況が弱含むことや、金利上昇の程度によっては不動産価格の下落に繋がることも考えられる。

このように、金利と不動産の投資収益や投資市況の関係は多様であり、状況を注視しておくことが望ましいだろう。

[図表4]住宅家賃は金利に遅れて上昇後、デフレで頭打ち

[図表4]住宅家賃は金利に遅れて上昇後、デフレで下落

データ出所:財務省「国債金利情報」、総務省統計局「2020年基準消費者物価指数」、三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」

[図表5]オフィス賃料は金利よりも景気要因の影響大

[図表5]オフィス賃料は金利よりも景気要因の影響大

データ出所:財務省「国債金利情報」、総務省統計局「2020年基準消費者物価指数」、三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」

金利の先行きが見通せなかった不動産コンサルタントの住宅取得の失敗談

レポートの作成協力者が現在居住する住宅を取得した1990年は住宅ローン金利が7%を超える時代で、住宅価格もバブル高騰していて、通勤に不便で広くもない5千万円の家を頭金1千万円で買った場合、毎月の返済額(元利均等)は27万円近くにもなったそうだ。

今、同じ取得条件(ローン頭金と毎月返済額)で購入するならば、2倍近い価格の9千万円超の住宅が購入できる※。住宅ローン減税などの取得支援策も今の方が手厚い。

現在、金利上昇が懸念されているが、7%台にまで上昇することは考えにくく、居住用にせよ投資用にせよ、1990年当時と比べれば安心して購入できるといえるだろう。と、若かりし日に金利の先行きが見通せなかった不動産コンサルタントは、しみじみと語っていた。

※モデルケースとしての試算のため、実際の取得ケースとは異なる場合がある。

[図表6]同じ返済額と返済期間で購入可能な住宅価格のモデル比較(1990年と現在)

[図表6]同じ返済額と返済期間で購入可能な住宅価格のモデル比較(1990年と現在)

データ出所:長期プライムレートは日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移 1989年~2000年」。ほかは都市未来総合研究所が設定し試算した。

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成:株式会社都市未来総合研究所 研究部

※本コンテンツは参考情報の提供を目的とするものです。

※2022年3月25日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

※当社は、読者に対し、本資料における法律・税務・会計上の取り扱いを助言、推奨もしくは保証するものではありません。

※本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成していますが、その正確性と完全性、客観性については当社および都市未来総合研究所は責任を負いません。本コンテンツに掲載した記事の無断複製・無断転載を禁じます。