住宅ローン金利は一進一退で不透明に 受け入れられるリスクの見極めが重要に

ファイナンシャルプランナーが解説、住宅ローン金利の動向(第1回)

米国ではトランプ大統領の誕生、英国のEU離脱決定等、2016年は世界経済に大きな影響を与える動きがありました。その混乱を受け日本経済の見通しも不透明になっています。こうした状況の中、住宅ローン金利の動向はどうなっているのでしょうか。住宅ローンにくわしいファイナンシャルプランナー(CFP)の平井美穂さんに、2016年後半から2017年初めの住宅ローン金利の動向について伺いました。

2016年半ばの借り換えブームは一段落

—2016年後半の消費者の住宅取得意欲と、住宅ローンについて振り返っていただけますか。

平井:2016年後半、相談者に多かったのは「価格がかなり上がってしまったので買い時とは思わないけど、低金利だし、必要なので決断した」という方々でした。東京オリンピック・パラリンピックまで価格が下がる見通しはないが、子育てなどを考えればすぐに持家が欲しいので購入に踏み切ったわけです。近頃は、ある程度の年収があれば、頭金は少なくても住宅ローンが組みやすくなっているので、決断しやすいという面もあります。

2016年6月から8月頃、ゼロ金利政策などの影響で住宅ローン金利がかつてないほど下がりました。それを受けて非常に多くの方が住宅ローンの借り換えを行いました。その後、借り換えは年末時点で一段落しています。住宅ローンの返済を気にしている方は一通り見直しを済ませたということでしょう。

2016年、私の相談者は、新規も、借り換えも長期固定金利タイプのローンを選ばれる方が圧倒的に多数派でした。金利上昇リスクを考えれば、固定金利のほうがメリットが大きいという判断です。基本的には35年の固定金利タイプをお勧めしていました。

—2017年、状況に変化はありましたか。

平井:金利水準については、多少の上がり下がりがあり一進一退という感じです。3月上旬時点では、昨年の半ばよりも少し上がっていますが、上昇基調が続いているわけではありません。史上まれにみる低金利状態は変わらず、住宅購入意欲も底堅いですね。必要に迫られた方が、低金利を活用して購入するという動きが続いています。

今年春以降もこうした状況が継続する可能性は高いと思いますが、不透明な要素もたくさんあります。米国はトランプ大統領の就任後、株高で金利上昇が見込まれます。ヨーロッパは、英国のEU離脱の現実化やギリシャの債務問題の再燃等に揺れそうです。こうした国際的な経済環境の変化が、政府や日銀に影響を与え、金利を動かす恐れがあります。

最低でも、固定金利型ローンに影響を与える長期金利である10年物国債の流通利回りの動向には常に注意を払っておく必要があるでしょう。いくら政府がデフレ脱却を狙っても、なかなか実現しない中で、2017年に大幅に金利が上昇する可能性は低いと思いますが、何があるか分からない心配はあります。

リスク許容度を考えるのがローン選びのポイント

—今後、住宅ローンを借りる方へのアドバイスをお願いします。

平井:まずは、返済能力を過信しないことが大切です。金融機関から融資を受ける際、物件価格や年収等のデータを知らせて審査してもらいます。その際、「審査を通ったということは、返済できるということ」などと安易に考えるべきではありません。最近、金融機関は住宅ローンの獲得競争に陥っていて、審査において個別の事情などをきちんと反映せずに甘くなっているケースがあるのです。こうした審査に通り購入できても、実際には返済ができなくなり苦しむことになります。ライフプランや将来の収入見込みを考えて、ローン返済が可能かどうかをシビアに試算することが重要です。物件価格が上がった時期には無理なローンを組みがちなので気をつけてください。

賃貸から持ち家に変える一次取得者が陥りがちなのは、「現在の家賃=月々のローン返済額なら大丈夫」という思い込みです。持家になると固定資産税や都市計画税といった税金など、賃貸にはない出費が必要なことを忘れてはいけません。

マンション購入者ならでは注意点として、修繕積立金の問題があります。以前から修繕積立金不足が社会問題となっていたために、最近の新築マンションは、将来の値上げを決めて管理規約等に盛り込むケースも増えています。購入当初は数千円だった修繕積立金がしばらくすると数倍に上昇する規定があるケースも珍しくありません。こうした確実に予想される出費は盛り込んで返済計画を立てないと後で後悔するかも知れません。

—住宅ローンを選ぶときのポイントをアドバイスしてください。

平井:以前は、住宅ローンの種類は少なくあまり選択の余地はありませんでした。最近は、各金融機関が多様な住宅ローンを用意しているので、自分にマッチしたものを選ばないと損をします。ローン金利も決して横並びではありません。金融機関の体力や戦略によって設定にはばらつきがあります。ほんの僅かの金利の違いでも総返済額は大きく変わってきますから、手間をかけて選ぶ意味は大きいのです。

大きな選択のポイントとして、固定金利にすべきか、変動金利にすべきかということが挙げられます。これについては、私はリスク許容度によると考えています。

基本的には、金利が上がらなければ変動金利を選んだほうが総返済額は少なくなります。金利が上がれば固定金利ローンのほうが総返済額は少なくなります。変動金利ローンは、金利が上昇するリスクを許容したハイリスク・ハイリターン選択ということになるのです。収入や預貯金が多く、万一金利が上がったときにも返済に支障がなく、場合によっては繰り上げ返済で金利上昇のダメージを減らせるなら、変動金利という選択肢もありでしょう。

しかし、現実には住宅ローンの負担は重く、それほど家計に余裕がないケースが多いでしょうからこうしたリスクは取れない方が多いと思います。そのため、低金利である現在はなおさら固定金利をお勧めしています。

固定金利といっても金利の固定期間を選ぶことも可能です。35年間すべてを固定するのではなく、当初の5年、10年、20年といった期間だけ固定するタイプが用意されています。2016年から2017年にかけて、基本的には35年固定タイプを第一候補に挙げてきましたが、借入開始時期や、定年や退職金の予定などによっては20年固定タイプを推奨するケースもありました。35年と20年では金利に違いがあり負担はそれなりに小さくなります。購入後20年程度で定年を迎えて、ローン残高が退職金で賄えるケースならリスクも少なくメリットがあると判断したためです。

解説

平井美穂さんのプロフィール

大学卒業後、マンション販売会社に勤務。その後、金融機関に転職をし、都市銀行およびモーゲージバンクにて融資業務および資産運用相談を専門とする企業系ファイナンシャルプランナーの仕事に携わる。出産を機に退職し、独立系ファイナンシャルプランナーとして住宅ローンのアドバイスを中心に活動。

  • ※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
    2017年3月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編内容が変更となる場合がございます。

バックナンバー

おすすめ・関連記事