不動産取引で活用されるハザードマップについて学ぶ

初めての不動産購入で知っておきたいことvol.8

この記事の概要

  • 2020年7月に、宅地建物取引業法施行規則の一部が改正され、不動産事業者は物件の売買などの取引時において、洪水、雨水出水、高潮といった水害ハザードマップを利用して、そのエリアに潜む水害リスクを説明しなければならなくなりました。義務化はされていませんが、エリアによっては土砂災害、地震防災、火山などの自然災害リスクにも十分注意が必要です。

不動産取引で活用されるハザードマップについて学ぶ

防災対策はリスクの把握から

ここ数年、自然災害が激甚化しています。『国土交通白書2020』によると、日本はもともと台風・低気圧・梅雨前線・秋雨前線などの活動時や夏季の不安定時に大雨が発生しやすい。その上、世界各国と日本の降雨量を比較すると、世界平均が1065mmであるのに対し、日本は約1.6倍の1668mmにものぼります。

既にそこで暮らしている人、これから暮らそうと考えている人に対して、防災意識を高めるために必要なことは何か、国土交通省に話を聞きました。

「日本という国は、火山があり、地震や台風など災害がいつでもどこでも起こり得る環境にあります。そんな場所に住んでいるのですから、自分には関係ないと考えるより、いつかどこかで被害に遭うかもしれないと考えていただくことが、まず防災意識を高めることにつながります。身の回りにどんなリスクが潜んでいるかを知ることで、ご自身だけでなく、ご家族やご近所の方と助け合う機会には役立つことも多いでしょう。常に災害と隣り合わせにあり、リスクを自分事として捉えていただくことを目的にして私たちは活動を行っています」(国土交通省 水管理・国土保全局 防災課)

住まうエリアの災害リスクにも興味を持ってもらい、日頃の防災意識を高めてほしいと国土交通省は説明します。

このような背景もあり、国土交通省は省令改正を行い、不動産取引を行う際にその物件があるエリアの水害リスク情報をキチンと伝えることを義務化しました。

そのエリアに潜むリスクを見える化しているのがハザードマップ

では、不動産取引時の重要事項説明で説明が義務化された「水害ハザードマップ」とはどんなものでしょうか。「水害」とあるので、水防法に基づき作成された水害(洪水、雨水出水、高潮)の3種類です。重要事項説明時に用いられるのは、各市町村が公表しているハザードマップです。これを顧客に提示し、対象物件の概ねの位置を示すことが求められています。

各市町村が公表するハザードマップは、河川や海岸など施設ごとの管理者が作成した浸水想定区域(想定しうる最大規模/洪水災害の場合は1000年に一度程度のレベル)を基にして洪水予報などの伝達方法や避難場所などを記したものです。

※洪水浸水想定区域……避難区域や浸水防止に役立てていただくために、平常時から浸水や浸水継続時間が想定される区域と、その浸水深を事前に周知し、国または都道府県が公表している。想定し得る最大の降雨が起こった場合の計算・試算に基づいている。具体的には、河川に対して複数カ所での決壊を想定、それぞれの最大浸水域を計算し、それぞれの浸水域を重ね合わせることで、そのエリアのリスクの全体像を見える化している。(国土交通省の資料より)

つまり、各市町村が公表しているハザードマップは、浸水想定区域を示した地図に、災害時の避難に役立つ情報(例えば避難所の場所、事前通行規制区間、道路の冠水想定箇所など)が盛り込まれていると考えると分かりやすいのです。

ハザードマップは、前提として『さまざまな前提条件下での予測結果の一つに過ぎない』ということを理解した上で、防災対策についての有力な参考情報の一つとして活用することが重要』です。

この予測結果という部分ですが、例えば洪水ハザードマップは1000年に一度のレベルの想定しうる最大規模の洪水に対しどんな被害が起こるかを試算したものです。降雨によって河川が決壊した場合にどの範囲で浸水するかの最大値を地図化しています。

降雨の継続時間、強度、分布など、さまざまな要素が組み合わさるため、これらを完全に予測することは不可能でありますし、またどこで堤防が決壊するかにより浸水の範囲や規模が大きく変わることもあり、あくまでも防災対策についての有力な参考情報の一つとして活用することとなります。

重ねるハザードマップの具体的な利用方法

重要事項説明で使われるのは水防法に基づき市町村が作成したハザードマップ。国土交通省が整備する『ハザードマップポータルサイト』(https://disaportal.gsi.go.jp)にある「重ねるハザードマップ」は個人にとっても便利に使えるツールです。

■重ねるハザードマップの使い方

ハザードマップの検索画面

調べたい市町村名を入力すると、白地図が表示される。

調べた市町村の白地図

白地図が表示されるので、調べたい災害種別を選択する。

「洪水」の災害リスクが表示された地図

災害種別「洪水」にすると、黄色から赤にかけて色が出て、災害リスク情報が分かる。「洪水」ボタンをクリックすると白地図に戻る。

「土砂災害」の災害リスクが表示された地図

「土砂災害」の災害リスクが表示される。「洪水」と「土砂災害」両方のボタンを押すと、災害リスク情報が重ね合わさったマップが表示される。

洪水・土砂災害の災害リスクが表示された地図

マップを重ね合わせることで、このエリアの洪水・土砂災害についての災害リスク情報が見渡せる。

ハザードマップ上で見ることができるその他の情報例

この他にも、右肩にあるボタンを押すとさまざまな情報を見ることができる。地図上の吹き出しは「リスク検索」ボタンを押した際に表示されるもので、さらにクリックすると「わがまちハザードマップ」から各市町村のハザードマップを探すこともできる。

このポータルサイトでは、2種類のハザードマップを調べることができます。「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」です。

重ねるハザードマップは、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを地図や写真に自由に重ねて表示できます。特に便利な点は「全国のハザードマップを同一の内容、使い方で参照できる」こと。白地図上に「洪水による災害リスク」と「土砂災害による災害リスク」など複数のマップを重ね合わせて表示することができます。

わがまちハザードマップは、各市町村が公開しているハザードマップを調べることができます。避難所の場所など、詳細な情報が盛り込まれたものになり、最新の情報として利活用できます。注意したいのは、この2つのハザードマップは必ずしも内容が一致しない場合があること。なぜなら、更新のタイミングが異なったり、市町村で詳細な情報を追加している場合などがあるからです。

「重ねるハザードマップ」では、関係各機関が作成した防災情報をまとめて閲覧できるようにしています。掲載されている個々の情報の引用・利用については、作成した機関が利用規約等を定めている場合がございますので、下記URLより各機関の規約等をご参照ください。
https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/copyright/copyright.html

また、利用する際に特に気を付けたいのは、一つひとつの建物ごとの災害リスク情報を調べることはできないという点です。あくまでもそのエリアの災害リスクがどんな箇所に潜んでいるかの全体像をつかむためのツールですので、細部にこだわってはいけません。

詳細な使い方は、ハザードマップポータルサイトの「使い方」や「使い方を動画で見る」などを参考にしてください。

著者

日経BPコンサルティング

企業のブランド力向上をコンテンツとデジタルソリューションでお手伝いする制作会社。日経BPグループとして培ってきたノウハウで広報誌・会員誌・書籍などの企業出版、Webサイト制作、ブランド戦略、調査・コンサルティングを提供する。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年8月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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