自宅や実家を賃貸するときの3つのポイント

「不動産投資」管理の重要なポイント (第28回)

この記事の概要

  • 最近増えているのが、自宅や実家を貸したいという相談です。遠方に転勤になった、実家が空き家になった、親の家に同居することになった、など、家族を含めた生活の変化がその理由の多くを占めています。いざ自宅や実家を貸そうとしたときに遭遇しがちな問題と対策を整理しましょう。

自宅や実家を貸すときの3つのポイント

1.本当に賃貸するのか

「急な転勤になり住み慣れた自宅を貸したい」、「親世代が高齢者施設に移るため、空き家になった実家を貸したい」というご相談が増えています。特に実家を貸したいご相談については、子世代が全員持家で将来引き継ぐ人がいない場合でも、思い出の詰まった実家をすぐに売却することには抵抗があり、「とりあえず賃貸に出したい」と言われるケースが多いものです。

実家の土地を代々引き継いで守っていこうというお考えであれば良いのですが、親世代の生活費等のためにいずれ売却するという場合には、本当に賃貸でいいものか考え直した方がよいかもしれません。居住用の不動産を売却した場合に一定要件を満たせば、譲渡所得の金額から3,000万円の特別控除が受けられますが、期間の条件があり、「居住の用に供しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却」しなければ受けられなくなってしまうからです。その間に不動産の名義人に認知症が発症して意思能力が無くなってしまうと、思いのほか売却準備に時間がかかり、期間の条件を満たさなくなることも考えられます。

「とりあえず賃貸」という考えで貸し続けていると、このような問題もあるので、家族で「本当に賃貸するのか」をよく話し合っておくことが大切です。

2.リフォームはどこまで必要か

自宅・実家を賃貸したいというお客さまのご相談を受ける際に、多くの不動産会社が難しいと感じるのが、リフォームの提案についてです。自宅・実家として使われていた一戸建てや分譲マンションの一室は広めのファミリータイプであることが多く、壁紙貼り替え一つとっても高額になるため、なるべくお金をかけないで入居者募集をしたいと考えるオーナー様は少なくありません。

自宅・実家を賃貸に出す場合、ライバルとなるのは賃貸用に建てられた一戸建てや、ファミリータイプの広めの賃貸マンションです。それらは賃貸市場で戦い続けてきているだけあって、不動産ポータルサイトを見ても壁も床もきれいで写真映えするものが多いです。特に、汚れが目立ちやすい壁紙は頻繁に貼り替えられています。

一般的に自宅・実家用の物件は、賃貸用のものと比べて設備も仕様もグレードが高い場合が多いのですが、借り手目線で考えると、設備や仕様のグレードの前に「清潔感」が求められます。お部屋を借りようとする方は、不動産ポータルサイトでエリアや間取り、賃貸条件を入力し、候補物件を絞っていきます。昨今のお部屋探しでは、実際に現地を見に来る前に写真で物件を絞り込むので、前の居住者の痕跡が感じられる物件は、実際に見学を申し込む候補から外れてしまうことが多いのです。

自分や家族が生活する上で少しずつ付いてしまった汚れは見慣れてしまうものですが、借りる人にとっては気になるものです。ましてや比較する他の物件がきれいであれば尚更です。実際に、リフォームをあまりしなかったことで入居者が決まるまでに時間がかかってしまい、空室期間を考えるとリフォームしたほうが良かったなどということも起こっています。想定していたより家賃を下げなければならなくなる場合もあります。そんな事にならないよう、リフォームをどこまでやるかについては借り手目線で客観的に判断する必要があります。

賃貸物件のイメージ

3.普通借家か定期借家か

自宅・実家を人に貸そうとしているお客さまの中には、「数年経ったら売りたい」「転勤から戻ってきたらまた住みたい」という方もいらっしゃいます。しかし、標準的な「普通建物賃貸借契約(普通借家契約)」で貸した場合は、賃貸人側の都合で簡単に退去してもらうという訳には行きません。2年契約などと期間を定めていても、賃借人側から解約の意思表示が無い限りは更新が前提となるため、数年間だけ自宅を貸したいと考える方には向かない貸し方となります。

このような場合には、「定期建物賃貸借契約(定期借家契約)」で期間を定めて契約する方法があります。しかし、例えば「何度も更新が可能な物件」と「3年間しか借りられない物件」を比較した場合、借りる側の人はどう考えるでしょうか。もともと2、3年借りるつもりで探している方ならばどちらを選んでも問題ありませんが、何度か更新するつもりでお部屋探しをしている方にとっては、3年間しか借りられない物件は引っ越しの手間と費用が余計にかかることになります。

定期借家契約にして貸し出す場合には、このような方にもメリットを感じてもらえるように、近隣相場より少し家賃を安くするのが一般的です。ニーズがあれば、自宅を建て替える方の仮住まい用にして、半年くらいの賃貸を繰り返すのも良いでしょう。仮住まいの方がターゲットであれば、あまりリフォームをしない代わりに、原状回復費用を無しにするという貸し方も考えられます。

自宅・実家を賃貸に出すという行為を比較的簡単に考えている方が多いと思いますが、実は借りる側のニーズや物理的な問題、ご家族それぞれの考え方の相違など多くの注意すべき点が含まれています。ご家族だけでは判断がしにくい場合は、専門家の意見も参考にしながら決めて頂きたいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年5月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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