住居兼事務所という貸し方について、オーナーが知っておくべきこと

「不動産投資」管理の重要なポイント(第25回)

この記事の概要

  • 「居住用の不動産を借りて、住みながら事務所としても使う」というケースはSOHOと呼ばれだんだん増えつつありますが、本来居住用と事業用では用途が違い、税金や法律の扱いも異なります。居住用の投資用不動産に、住居兼事務所として利用したいという入居申し込みがあった際の、実務上の注意点をまとめてみます。

    ※更新日:2024.06.28

住居兼事務所という貸し方について、オーナーが知っておくべきこと

1.消費税や固定資産税への影響

事務所使用可の物件を住居として貸す場合は居住用の賃貸借契約書を使用し、家賃に消費税はかかりません。しかし、同じ物件を事務所として貸す場合は事業用の賃貸借契約書を使用し、賃料には消費税がかかります。「それならば、住居兼事務所で貸す場合の消費税はどうなるのか?」と疑問に思うオーナーは多いと思います。

このことを考える際に比較したいのが、住居部分と事務所部分が区分され、それぞれ独立して利用することができる事務所併用住宅です。「兼用」は一つの区画を住居と事務所という二つの用途に使い、「併用」は住居と事務所が完全に分かれているとイメージすると分かりやすいと思います。事務所併用住宅の場合、独立した事務所として使用されている部分には賃料に消費税がかかります。しかし、「住居として主に使われ事務所も兼ねているスタイルの住居兼事務所」であれば、そこは基本的に住居扱いとなり家賃に消費税が課税されないケースもあります。賃借人側も同様に、事務所に使用している割合の家賃を課税仕入れにできないことになります。(消費税基本通達6-13-8)

土地の固定資産税や都市計画税についても、居住用の建物の敷地として利用されている土地は、「住宅用地の特例措置」で税負担が軽減されています。ここでも、「住居兼事務所で貸す場合は軽減されるのか?」という問題が出てきます。

「住宅用地の特例措置」は、一棟のアパートやマンションに住居として使われている区画と事務所として使われている区画が混じっている場合、事務所として使われている区画が一定割合以上になると軽減される土地の面積が減る仕組みになっています。しかし、「住居として主に使用しつつ事務所を兼ねているスタイルの住居兼事務所」であれば住宅としての実態があるため、その区画に対応する土地の面積は住宅用地として軽減の対象となると考えられます。

住居兼事務所物件

2.建築基準法や消防法の規定、火災保険は盲点

建築基準法・都市計画法では、建築物をその用途に応じて適した場所に配置するためのルールがあり、それを用途地域と呼んでいます。第一種・第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域では、事務所は基本的に建築できないルールになっていますし、居住用として建てられた建物を事務所として賃貸することも出来ません。しかし、「住居として主に使用され事務所も兼ねている住居兼事務所」として賃貸することは、面積の要件はあるものの基本的には問題ありません。

消防法では、用途により防火対象物を細かく分けており、必要な消防設備も変わってきます。アパートやマンションは新築時に共同住宅等という用途で消防検査を受けており、用途を勝手に変えることは出来ませんが、住居兼事務所という用途はないため、「住居として主に使用しつつ事務所を兼ねているスタイルの住居兼事務所」はその利用実態から考えて住居として扱われることになるでしょう。

オーナーが建物に掛ける火災保険では、居住用の建物は「住宅物件」、事業用の区画が1つでもあれば「一般物件」として区別されます。賃借人が加入している火災保険も、住居として借りる場合と事務所として借りる場合では保険の種類が異なります。しかし、「住居として主に使用しつつ事務所を兼ねているスタイルの住居兼事務所」は区画全体が「暮らしの場」として利用されているのであれば住宅扱いとなります。これは保険会社が判断しますので、万一のときに保険金が下りない事態を招かないためにも、必ず確認するようにしてください。

事務所併用住宅 事務所兼用住宅※
概要 事務所と住宅部分がそれぞれ独立している。 一つの区画を事務所と住宅の二つの用途で使用している。
消費税 事務所部分に課税。 ケースバイケースによる。
固定資産税等の住宅用地の特例措置 事務所区画が一定割合以上になると、軽減される土地の面積が減少。 面積要件はあるが軽減の対象。
第一種低層住居専用地域等の用途地域における建築制限 事務所部分は建築できない。 面積要件はあるが建築可。
火災保険 一般物件の扱い。
(詳細は保険会社に確認必要。)
住宅物件の扱い。
(詳細は保険会社に確認必要。)

※主な用途が居住用の場合

3.賃貸借契約上の注意点

「住居兼事務所として利用したい」という入居申し込みがあった場合、賃貸借契約上はどのようなことに注意すれば良いのでしょうか。

まずは居住用の賃貸借契約書を使用し、「主たる用途を居住用とした住居兼事務所」としての使用の承諾を示すことが必要です。その上で、居住用の建物としての利用を大きく逸脱するような行為をして他の入居者に迷惑をかけたり、不信感を抱かせないための特約を付加しましょう。具体的には、不特定多数の来客や業務用の荷物の頻繁な受発送、倉庫利用と見受けられるような量の荷物の保管、家庭ごみに見えないような種類や量のごみ出しなどの禁止が挙げられます。これらの特約を設けることで、自ずと可能な仕事内容も限られてくるでしょう。

また、税金が高くなってしまったり、法律に違反したり、火災保険金が出ないなどでオーナー自身が困らないためには、実際の利用方法だけでなく、外の人から見ても住まいとしての体裁を保ち、あらぬ誤解を招かないようにすることが大切です。具体的には、看板の掲示や、ポストや表札に会社名や屋号を単独で表示することを制限すると良いでしょう。仕事用の郵便は郵便局に会社名や屋号を届け出すれば配達されますので、郵便物のためだけであればポストに会社名や屋号を書く必要はありません。会社名を表示したい場合は、個人名に併記してもらいましょう。
「外から見て目立つ窓に会社名を大きく貼られて困った」というオーナーもいらっしゃいます。賃借人は室内だから良いと考えたのでしょうが、「商業ビルではなくあくまでも住まいである」ということをご理解いただくことが大切です。

また、まれに賃借人から商業登記をしたいと言われることがありますが、住居としての利用が主であるという実態があるのであれば、登記を許可することでオーナーが困ることはほぼ無いと思われます。賃貸借契約が終了して退去する際には、住民票と同じで登記の住所を移動するよう特約に記載しておきましょう。きちんとした賃貸借契約を締結して、いつのまにか事務所用途が主になったり、事務所専用として使用されたりする事態を防がなければなりません。
商業登記以外でも、既にお住まいの入居者から「自宅で仕事もしたいので許可して欲しい」というご依頼が来ることがあります。業種によっては開業手続きの際に賃貸人の承諾書が必要だったり、事業の助成金の申請書類に賃借人の署名捺印が必要になったりするからです。そういった場合にも、賃貸借契約書を作り直し、特約を追加することを忘れずに行ってください。

「住まいを事務所にもしたい」という入居者ニーズは増えていますので、良く分からないからと断っていては、良いお客さまを失うことになるかもしれません。家賃を上げるチャンスとなったり空家対策にもなる一方で、きちんと調べず気軽に承諾してしまうと、ルール違反となりオーナー自身が困ることにもなりかねません。住居兼事務所という貸し方についてしっかりとした知識を身に着け、賃貸経営に役立てて欲しいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年2月26日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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