投資用不動産の新オーナーが前所有者に聞くべき3つのポイント

連載タイトル:「不動産投資」管理の重要なポイント(第22回)

この記事の概要

  • 売買、相続、贈与などで新たに賃貸不動産の所有者になったとき、前所有者や前管理会社に確認しておいた方が良いことがたくさんあります。管理の現場で実際に起こっている事例を元に、注意点を確認していきましょう。

投資用不動産の新オーナーが前所有者に聞くべき3つのポイント

1.契約書類や図面等

賃貸不動産の所有者になったら、まずは目で見てすぐに分かる部分である、書類関係を確認しましょう。

賃貸経営の基本となるのは、賃借人と交わしている賃貸借契約書です。前所有者から引き継いだ賃貸借契約書の中に一部の部屋の原契約書がなく、契約内容の分からない更新契約書だけだったり、それすらないケースが散見されます。これは、前所有者や前所有者が管理や仲介を依頼していた会社に聞いてみると、手に入る場合があります。また、賃借人は当然ながら原本を持っていますので、所有者が変わった旨の連絡と合わせて事情を話すと、コピーさせてもらえる場合があります。後で何か問題が起こったときに手に入れようとしても難しいので、早めに調べて出来ることは対処しておくと良いでしょう。

また、近年よく利用されているのが家賃債務保証会社ですが、契約内容が分かるものが賃貸借契約書に添付されておらず、家賃債務保証会社を利用しているのかどうか分からないケースが頻発しています。入居申込書や賃貸借契約書を精査すると、家賃債務保証会社名を発見できることもありますが、全く分からないことも珍しくありません。本当は家賃債務保証会社を利用しているのに、滞納発生のときに利用できなければ意味がありませんので、前所有者や前管理会社に必ず確認して下さい。

建築確認図面や竣工図面、検査済証なども、あるならば後々の修繕のときや売却のときに助かります。突然の相続のときは前所有者に聞くことは叶いませんが、押入れの奥や物置の中などを家探ししてでも、見つける努力をしたほうが良いと思います。

2.賃貸借契約書から読み取れない入居者情報

賃借人との契約内容は賃貸借契約書に記載してありますが、そこから読み取れない重要な情報が存在する場合があります。

特に後々問題になりやすいのが家賃に関する情報です。毎月必ず支払いが遅れるのに前所有者が真剣に督促していなかったケースが散見されます。待っていれば入金される人、督促しないと入金して来ない人など相手によって状況はそれぞれです。賃貸借契約書の家賃支払い期日を守らず、年金支給日や給与支払日に支払ってくる人もいます。督促すると「前所有者はそれで良いと言ってくれていた」などと言われるのはよくあることです。所有者が変わったことをきっかけに、交渉すれば契約書通りにきちんと支払ってくれる人もいますので、まずは過去の状況を確認してみることをお勧めします。急な相続で前所有者に聞けない場合は、通帳データなどで入金日の傾向を確認し、賃借人に事情を聞いてみると良いでしょう。

生活保護の家賃扶助を受けている賃借人の情報も、契約書からは読み取りにくいものです。前所有者や前管理会社は把握しているはずですので、聞いておきましょう。家賃設定がその地域の家賃扶助の金額未満の物件の場合は、生活保護受給者が入居している場合がよくあります。なにかあったときに役所の担当者と連携出来る場合がありますので、把握しておくとメリットがあります。

また、どこにでも癖のある賃借人はいるものですが、そういった情報は前所有者や前管理会社にしか分かりません。後々の入居者対応のヒントになりますので、可能な限り聞いておきましょう。

3.管理業務関連

賃貸管理業務でも、見落としがちなことがいくつかあります。

ごみの集積場所に関する情報も、既存入居者は分かっていますので当面問題にならないのですが、入居者が入れ替わると問題が発生しがちです。ごみの収集日や分別のルールに関しては自治体がお知らせを作成していますが、集積場所については清掃事務所や町内会に聞かないと分からないことが多く、分かりにくいのです。建物敷地内にごみストッカーが設けてある場合でも、資源ごみだけ地域の共有集積所を利用する地域もあります。また、必ずしも物件近くの集積所が、その物件の入居者がごみを捨てていい場所とは限りません。ごみ捨て問題は近隣トラブルになりやすく、新たに入居してくる人に正しい集積場所をお伝えできないと深刻な問題に発展してしまう場合があります。前所有者や清掃事務所に確認して、正確な情報を把握しておきましょう。

また、消防設備やエレベーター、給水設備などの法定点検の履歴なども、今後の建物管理上、あると助かるものの一つです。前所有者に聞いてみると、過去の点検報告書をどさっと頂けることも多いです。一般的にはそのまま処分されてしまうものなので、聞いてみて損はありません。今後の法定点検を依頼する業者に当てがなければ、報告書を作成している業者に当面の間、依頼するのも良いでしょう。

ごみの集積場所

賃貸不動産の管理について有益な情報が、所有者変更に伴って埋もれていくことは良くあることです。これらの情報は、長い目で見ると将来の売却価格にも影響してきますし、相続するお子様たちにも役立つ情報になるはずです。黙っていては手に入らないそれらの情報を得るためには、新たに所有者になったときにこちらから働きかけることが大切です。物件を購入する方、相続や贈与の可能性がある方は、タイミングを逃さないように心構えをしておいて頂きたいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年11月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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