意外と知らない?家賃債務保証会社についてのポイント

「不動産投資」管理の重要なポイント(第16回)

この記事の概要

  • 賃貸経営のリスクヘッジとして利用されている家賃債務保証会社ですが、その詳細を知らないという方も多いのではないでしょうか。今や賃貸経営に必要不可欠となった家賃債務保証会社について、オーナーが知っておくべきポイントを確認していきましょう。

意外と知らない?家賃債務保証会社についてのポイント

1.家賃債務保証会社と連帯保証人との違い

賃貸住宅を借りる際、かつては連帯保証人を立てるのが当たり前でした。連帯保証人には契約者本人と同等以上の支払い能力がある親族を要求されるケースが多いのですが、日本社会の少子高齢化や核家族化が進むにつれて、賃貸住宅を借りる側の事情が変化していきました。親が高齢で収入が不足していたり、連帯保証人をお願いできるような親族がいないなどの事情を抱える人が増えたため、「お金を払って連帯保証人の代わりになってもらう」という、家賃債務保証の仕組みが生まれたのです。

家賃債務保証会社を利用することで、入居者にとっては連帯保証人がいなくても賃貸住宅が借りやすくなり、オーナーにとっては保証能力が弱い連帯保証人を立てるより家賃滞納リスクが軽減され、管理会社は滞納督促の仕事をアウトソーシングすることが出来るため、それぞれのニーズが相まって利用が増加していったという背景があります。

家賃債務保証会社が連帯保証人と違うのは、保証してくれるのは金銭に関してのみというところです。入居者の生活態度に問題があり注意してもなかなか改善されない場合、連帯保証人がいれば相談して注意してもらうことが出来ますが、家賃債務保証会社にはそのような役目は望めません。安定した賃貸経営のために入居者に求めたい資質は支払い能力だけではないため、家賃債務保証会社の審査とは別に、入居者が住まい手としてふさわしいかどうかの判断も忘れてはなりません。

2.家賃債務保証会社の審査とは

家賃債務保証会社は、申し込みのあった入居者の家賃滞納リスクを審査し、審査が通った場合にのみ家賃債務保証契約を引き受け、その対価として保証料を受け取ります。保証料は契約時のみ支払うものもあれば、契約時と更新時に支払うもの、家賃の数パーセントを毎月支払うものなど様々です。

家賃債務保証会社の収入源は入居者から受け取るそれらの保証料であり、審査を緩くすれば保証料は多く集まりますが、入居後に滞納が発生すればその分をオーナーに支払わなくてはならないため、審査基準と滞納リスクのバランスを上手く取る必要があるビジネスモデルと言えます。

審査方法は会社によって異なり、信販会社系の家賃債務保証会社は過去のクレジットカードの延滞などの履歴で判断するため比較的審査が厳しく、その分保証料は安価です。一般社団法人全国賃貸保証協会(LICC)という業界団体に加盟している家賃債務保証会社は、この団体で共有されているデータベースを元に審査しています。そういった団体に属していない独立系の家賃債務保証会社は、審査も独自で行っています。

このように会社ごとに審査の方法や基準が異なるために、ある家賃債務保証会社では審査に落ちたのに、別の会社に変えたら審査が通ったなどということが実際に起こります。問題ないだろうと思った人が審査に落ちてしまうと家賃債務保証会社にその理由を尋ねたくなりますが、管理会社やオーナーに対しても理由は開示してもらえないのです。

審査のイメージ

3.家賃債務保証の仕組みは2種類ある

家賃債務保証には、家賃の支払い先や滞納発生時の手続きで「収納代行型」と「代位弁済型」の2種類に分けられます。

「収納代行型」は、その名の通り「家賃の収納(集金)を代わりに行う」仕組みのことです。入居者と家賃債務保証会社で家賃のやりとりが完結し、管理会社やオーナーがすることはあまりありません。もし滞納が発生したとしても、家賃債務保証会社から期日通りに家賃が支払われます。入居者が家賃を振り込むのは家賃債務保証会社の口座なので、万一滞納が発生したら家賃債務保証会社にはすぐに分かるため、管理会社やオーナーが滞納を知る前に督促が開始されることになります。家賃の変更や解約などの際は遅滞なく家賃債務保証会社に連絡しないと、間違った情報で督促がなされてしまうので注意して下さい。

「代位弁済型」は、収納代行型と比べると管理会社やオーナーの仕事が多くなります。入居者が家賃を振り込むのは管理会社、自主管理の場合はオーナーの口座になります。入居者の家賃滞納が発生しても家賃債務保証会社には分からないので、口座を管理している側が毎月きちんと家賃入金の有無を確認し、万一滞納があったら家賃債務保証会社に報告し、滞納家賃分を代わりに払ってもらえるように請求しなければなりません。

この請求はいつまでもできるものではなく期限が設定されていますので、自主管理の場合は期限をしっかり把握して、滞納が発生したら期限に間に合うように手続きする必要があります。「代位弁済型」で気を付けたいのは、何らかの事情で家賃が支払えなくなった入居者の相談に直接応じてしまうことです。預かり敷金を家賃に充当するなど契約条件を勝手に変更してしまうと、家賃債務保証契約が終了してしまう場合があるので気を付けましょう。

4.知っておきたい契約内容

家賃債務保証契約の内容は様々であり、会社ごとに数種類のプランが用意されています。

基本となるのは家賃、共益費や管理費、駐車場代などです。その他、水道代や町会費などの家賃と一緒に毎月支払われる費用や、更新時に支払われる更新料、滞納がかさんで明け渡しとなった際の訴訟費用、退去後の原状回復費用、残置物撤去費用、鍵交換費用など、様々な項目があります。保証の項目に入っていても、支払いに上限額が設定されている場合もあるので注意が必要です。ご所有の物件で利用されている家賃債務保証契約の内容を知らないという方は、確認しておくことをお勧めします。

5.家賃債務保証会社の信用リスクに注意

最後に家賃債務保証会社自身の信用リスクにも触れておきます。そもそも論として、保証会社自身が倒産してしまう可能性もゼロではありません。もちろん倒産すれば「賃貸経営のリスクヘッジ」についても元も子もなくなってしまいます。信用リスクの判断は難しいものがありますが、日頃、家賃債務保証会社とやりとりしている管理会社などの専門家に相談をしながら、進めていく必要があります。

なお、利用されている家賃債務保証会社自体がどのような会社なのかを知るには、家賃債務保証業者登録制度を確認してみると良いでしょう。この制度は国土交通省が家賃債務保証業務の適正化を図ることを目的として2017年に任意の登録制度を創設したものです。登録するには基準に適合する必要があり、基準等の情報も公開されているので家賃債務保証会社の内容を知るための参考にすることができます。

今後ますます利用が増えるであろう家賃債務保証会社についてしっかり理解し、賃貸経営の安定に繋げましょう。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年5月29日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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