新型コロナウイルスから入居者の暮らしを守るためにオーナーが出来ること

「不動産投資」管理の重要なポイント(第15回)

この記事の概要

  • 猛威を振るう新型コロナウイルスは、国民生活を直撃しています。
  • 今の状況が収束せずに長く続いた場合、収入が減少したり、仕事を失う人が増えるかもしれません。収入が減れば、賃貸住宅に住んでいる人が真っ先に心配するのは、毎月支払わねばならない家賃のことです。
  • 生活の基盤である住まいを失う人を増やさないために、居住用不動産のオーナーが知っておくべき国の制度について学んでおきましょう。

新型コロナウイルスから入居者の暮らしを守るためにオーナーが出来ること

管理会社には、新型コロナウイルスに起因した家賃についての相談が来つつあります。

「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」というのは江戸落語でよく聞く言葉ですが、令和の今も、賃貸経営は人々の暮らしを守る大切な仕事であることに変わりありません。今回は、国交省や厚労省が推進する住まい確保の制度を中心にまとめています。

1.リーマンショックの時にできた、住まい確保のための制度

新型コロナウイルスの影響が広がるにつれ、リーマンショックの影響と比較して語られることが増えてきました。リーマンショック時の対応策が、今後の参考になりそうです。

2008年9月に起きたリーマンショックは日本経済にも多大な影響を及ぼしました。

賃貸住宅の管理の現場でも、入居者からの家賃支払いに関する相談が増えていました。当時は家賃債務保証会社の利用も今ほど進んでおらず、連帯保証人に支払って頂くことも多かったのですが、何か月も肩代わりし続けるのは無理があるため、別の方法を考えなければならなかったのです。

そのような状況を受けて、住む場所を失った人や失う恐れのある人を救済するため、2009年10月に厚生労働省が「住宅手当緊急特別措置事業」を創設、全国の市区町村を窓口にして最長9ヵ月間の住宅手当を支給開始しました。

住宅手当は入居者に直接支払われるのではなく、管理会社やオーナーに代理納付されるため、当時の管理会社には申請書類に印鑑を求める入居者が何人も訪れました。家賃が支払えない入居者から相談が来ると、管理会社も積極的にこの制度のことを伝え、物件所在地の自治体の福祉担当部署に相談に行くように勧めていたのです。

2.今使えるのは「住宅確保給付金」制度

新型コロナウイルスの影響で大変な今、当時の「住宅手当緊急特別措置事業」と同様に使える国の制度があります。それは、厚生労働省の実施している「住居確保給付金」です。この制度は、職を失ったことが原因で生活保護受給者になってしまう人を減らし、自立を支援するためのものであり、一時的に家賃が支払えなくなった人に、家賃相当額を一定期間助成するものでした。しかし、今回の新型コロナウイルスによる感染拡大の防止策のために、休業したことが原因で収入が減少した人や、仕事が減ったフリーランスの人が同様の状況に至った場合も対象になるよう支援が拡大されています。

実は、リーマンショックに端を発して創設された「住宅手当緊急特別措置事業」は4年間継続したのち2013年10月に「住宅支援給付制度」に変更され、2015年4月に生活困窮者自立支援法が施行されたときに、それに基づく制度の一つである「住居確保給付金」として位置付けられたという経緯があります。「緊急特別措置」という名称にも関わらず、その制度はずっと続いていたのです。

そして厚生労働省は、今回の新型コロナウイルスの影響による国民の困難を克服するために、生活困窮者自立支援制度を活用することを推進しています。各自治体の関連部署に事務連絡を出し、就労環境が変わったことで収入が減少し生活が困窮する人々の相談を幅広く受け止め、本人に寄り添った支援を進めることに加え、特に住まいに関する不安を抱える人には「住宅確保給付金」の利用を積極的に進めることを呼びかけたのです。

家族と住宅のイメージ

3.具体的な制度の内容について

申請から給付金を受給できるまでには時間がかかるため、なるべく早めの申請が必要です。

本当に経済的に困窮している人に支援が届くようにするため、世帯収入や預貯金の額、本人が主たる生計維持者であること等、住宅確保給付金の支給についてはいくつかの要件があります。

給付金の額は、各自治体の生活保護の住宅扶助特別基準額に準拠した上限額があり、世帯の人数や収入等によって調整され、給付金の額が家賃額に満たない場合は差額を入居者が負担します。その場合、管理会社は各自治体からと入居者からの二口の入金を合算してオーナーに支払います。

本来この給付金を申請するためには、月4回以上の自立支援相談機関の職員による面談と月2回以上のハローワークでの職業相談、週1回以上の応募又は面接が必要なのですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、当面の間は各自治体ごとの判断で要件が緩和できるとのことです。

支給期間は原則3ヵ月、状況により最長9ヵ月まで延長可能となっていますので、この制度を利用すれば多くの人がその間に就職活動をしたり、安い物件に引っ越したり、実家に帰るなどして生活を立て直すことが出来るでしょう。

状況に応じて制度の変更や新設がなされる可能性もあるため、今後の国の動きにも注目しておきましょう。

オーナーも、ご自分の所有物件がある地域での相談窓口を調べておき、万一入居者が緊急事態に陥ってしまった場合に、暮らしを守るための情報がすぐに伝えられるように管理会社と連携しておきたいものです。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年4月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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