賃貸借契約書を確認して、盤石の投資用不動産賃貸経営を

「不動産投資」管理の重要なポイント(第12回)

この記事の概要

  • 投資用不動産の利回りを決める収入の源泉は、入居者が支払う家賃等です。それを規定しているのは賃貸借契約書なのですが、その内容に関心を持っている人は少ないのではないでしょうか。賃貸経営を支える重要な内容が詰まっている賃貸借契約書について、オーナーが確認しておくべきポイントを考えてみましょう。

賃貸借契約書を確認して、盤石の投資用不動産賃貸経営を

1.なぜ今、賃貸借契約書の確認が必要なのか

投資用不動産を購入の際には、部屋ごとに家賃や契約期間が書かれている収支表(レントロール)を見て利回り計算などを行い検討すると思います。しかし、購入後に引き継がれた賃貸借契約書を隅々までチェックされている方は、なかなかいらっしゃらないのが現実です。賃貸借契約書は普段あまり使いませんが、何か問題が起きた時のためにも、拠り所となるその内容は把握しておきたいものです。

しかし、内容を把握すると言っても、かなりの労力を必要とする場合があります。前所有者がずっと同じ不動産会社に客付け(借りる人を探すこと)を頼んでいた場合は別ですが、色々な不動産会社が客付けをしていた場合は、様々な書式の賃貸借契約書が混在しているのが一般的だからです。

そこで今回は、管理会社が他社からの管理引き継ぎや、自主管理物件を新たにお預かりした際に実際に起こる問題点から、賃貸借契約書の確認のポイントについてお伝えしたいと思います。

2.賃貸借契約書の原本の大切さ

途中から物件管理をする際に管理会社がとても困るのは、最初に締結した賃貸借契約書の原本が無いときです。更新時の書類だけがあるというケースもありますが、更新書は内容が簡略化されていることが多いので、肝心な契約内容の詳細が分かりません。

この場合一番困るのが退去時で、敷金精算のための特約事項が分からないと、大家さんに不利な結果になってしまうことがあります。もし同じ不動産会社が仲介したお部屋が他にあれば、賃貸借契約書は同じだろうと予測出来ますが、100%正解とは言えません。また、万一訴訟になった場合に契約書の内容が分からないと、不利になる可能性が大いにあります。賃貸借契約書の原本がなくコピーだけがあるというケースでは、契約内容は分かるため管理上はそこまで困りませんが、万一訴訟になった場合は、改ざんや偽造の可能性があるとして証明力が落ちてしまいます。このように、賃貸借契約書の原本はとても大切なものなのです。

貸室賃貸借契約書

3.連帯保証人は問題発生時の砦となる

問題点の二つ目に挙げたいのは、連帯保証人関係です。最初に賃貸借契約を締結したのがかなり前だと、いざという時に連帯保証人に連絡が取れないということが起こりがちです。電話番号が変わっただけ、転居されただけなら良いのですが、既に他界されている場合もあります。契約更新の書類には連帯保証人の署名捺印をもらわないことも多く、ましてや自動更新が長く続くと、このようにいつの間にか連帯保証人の意味が無くなってしまうということがあります。また、連帯保証人の印鑑証明書が添付されていないこともあります。賃貸借契約書に、連帯保証人の実印の押印と印鑑証明書の添付をお願いしている不動産会社が多いのですが、「なぜ契約者本人の印鑑証明はいらないのに、連帯保証人の印鑑証明はいるのですか?」と時々聞かれます。それは、本人が連帯保証人になることを認めたという意思確認をしたいからです。連帯保証人は通常契約に同席しないので、直接お会いすることが出来ません。印鑑証明が無いと、「実印を勝手に持ち出されて押印されたので、自分は連帯保証人にはなっていない」と言われた時に対抗しにくくなってしまうのです。

4.家賃債務保証会社の内容をチェック

三つ目には、今の時代だからこその問題点を挙げたいと思います。それは、家賃債務保証会社を使用している際に、その内容が分かる書類です。時代とともに、連帯保証人をお願いする代わりに家賃債務保証会社を使用することが多くなりましたが、賃貸借契約書類の中にその内容が分かるものが入っていないことがあります。ひどいケースでは、家賃債務保証会社と契約している事すら分からない場合もあるのです。どの家賃債務保証会社を選ぶかは不動産会社が決めることが多いので、契約内容を詳しく知らないというオーナー様が多いと思います。しかし、家賃滞納が発生した時にその補償を受けるのはオーナー様ですし、入居審査の時も家賃債務保証会社と契約することを含めて審査を承認しているはずなので、関係ないはずはありません。家賃債務保証契約は、会社ごと、商品ごとに契約内容や保証の範囲が違います。また、万一の滞納などが発生した時の申請方法も違い、申請が遅れると補償が受けられなくなる場合もあります。新築からずっと同じ管理会社が管理していて、その管理会社を引き継いでいるならば、家賃債務保証会社の内容は管理会社が全て把握しているので問題ありません。しかし、自主管理であったり、過去に色々な不動産会社が賃貸借契約に関わっていた場合には、オーナー様もその内容をきちんと確認しておく必要があると思います。

契約は相手があることなので、賃貸借契約書類に問題があってもすぐに解消できない場合もあります。しかし、そもそも入居者さんとの関係が良ければ、契約書に多少問題があっても退去時まで平穏に過ぎることも多いのです。リスクを把握し、その部屋の入居者さんとの良好な関係維持に努めるというのも、一つの問題解決方法になります。まずは、貸借契約書に興味を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

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