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この記事の概要
投資用不動産を購入の際には、部屋ごとに家賃や契約期間が書かれている収支表(レントロール)を見て利回り計算などを行い検討すると思います。しかし、購入後に引き継がれた賃貸借契約書を隅々までチェックされている方は、なかなかいらっしゃらないのが現実です。賃貸借契約書は普段あまり使いませんが、何か問題が起きた時のためにも、拠り所となるその内容は把握しておきたいものです。
しかし、内容を把握すると言っても、かなりの労力を必要とする場合があります。前所有者がずっと同じ不動産会社に客付け(借りる人を探すこと)を頼んでいた場合は別ですが、色々な不動産会社が客付けをしていた場合は、様々な書式の賃貸借契約書が混在しているのが一般的だからです。
そこで今回は、管理会社が他社からの管理引き継ぎや、自主管理物件を新たにお預かりした際に実際に起こる問題点から、賃貸借契約書の確認のポイントについてお伝えしたいと思います。
途中から物件管理をする際に管理会社がとても困る問題点の一つ目は、最初に締結した賃貸借契約書の原本が無いときです。更新時の書類だけがあるというケースもありますが、期間の更新の情報のみで内容が簡略化されている場合は、肝心な契約内容の詳細が分かりません。
この場合一番困るのが退去時です。一般的には原状回復費用の負担に関し、「畳の表替え・襖の張替え・室内クリーニングは入居者負担」という特約が付いていることが多いのですが、その内容が分からないと、「経年劣化や自然損耗は貸主負担」という原則に則って精算が行われるため、オーナー様に不利な結果になってしまうことがあります。もし同じ不動産会社が仲介したお部屋が他にあれば、賃貸借契約書は同じだろうと予測できますが、100%正解とは言えません。また、万一訴訟になった場合に契約書の内容が分からないと、不利になる可能性が大いにあります。賃貸借契約書の原本がなくコピーだけがあるというケースでは、契約内容は分かるため管理上はそこまで困りませんが、万一訴訟になった場合は、改ざんや偽造の可能性があるとして証明力が落ちてしまいます。このように、賃貸借契約書の原本はとても大切なものなのです。
また、契約書に綴じ込まれているその他の書類にも、重要な情報が詰まっています。入居申込書にはメールアドレスや年収や引越し理由等、契約書にはない情報が記載されています。身分証明書として運転免許証の写しが添付されていれば、入居者の顔や雰囲気が分かります。住民票にも様々な情報が記載されています。不動産を購入されたら、契約書に何が綴じ込まれているのかをチェックしておくことをお勧めいたします。
問題点の二つ目に挙げたいのは、連帯保証人関係です。今は連帯保証人を立てずに家賃債務保証会社を使用することが増えましたが、長くお住まいの方の契約には、連帯保証人がついていることも多いです。
賃貸借契約が更新されても連帯保証人の責任は引き継がれるのですが、最初に賃貸借契約を締結したのがかなり前だと、いざという時に連帯保証人に連絡が取れないということが起こりがちです。電話番号が変わっただけ、転居されただけなら良いのですが、既に他界されている場合もあります。契約更新の書類には連帯保証人の署名捺印をもらわないことも多く、ましてや更新時の書類を交わさずに自動更新が長く続くと、このようにいつの間にか連帯保証人の意味が無くなってしまうということがあります。また、連帯保証人の印鑑証明書の原本が添付されていないこともあります。賃貸借契約書に、連帯保証人の実印の押印と印鑑証明書の添付をお願いしている不動産会社が多いのですが、「なぜ契約者本人の印鑑証明書はいらないのに、連帯保証人の印鑑証明書はいるのですか?」と時々聞かれます。それは、本人が連帯保証人になることを認めたという意思確認をしたいからです。連帯保証人は通常契約に同席しないので、直接お会いすることができません。印鑑証明書の原本が無いと、万一の訴訟の時に「実印を勝手に持ち出されて押印されたので、自分は連帯保証人にはなっていない」と言われた時に対抗しにくくなってしまうのです。
三つ目に挙げたいのは、家賃債務保証会社の書類関係です。家賃債務保証会社の利用が一般的になるにつれてその数も増え、2024年9月30日時点で国土交通省に登録している家賃債務保証会社数は108社となっています。各社が様々な商品プランを出しているので、オーナー様としては「入居者がどの家賃債務保証会社のどのプランに加入し、保証内容はどうなっているのか」を知ることがとても重要です。しかし、賃貸借契約書類の中にそれが分かるものが入っていなかったり、時には家賃債務保証会社と契約している事が分かるものが何も入っていないこともあります。
どの家賃債務保証会社を選ぶかは不動産会社が決めることが多いので、普段あまり関心を持っていないオーナー様も多いと思います。しかし、入居者が滞納した時に代わりに支払われる家賃等はオーナー様の賃貸経営にとって、とても重要ですので、いざというときに慌てないで済むように、その内容を詳しく知っておいて欲しいです。家賃債務保証契約は、会社ごと、商品プランごとに契約内容や保証の範囲が違うだけでなく、万一の滞納などが発生した時の申請方法や期限も違います。申請が遅れると滞納家賃を代わりに支払ってもらえなくなるので注意が必要です。
新築からずっと同じ管理会社が管理していて、購入後も引き続きその管理会社に管理を依頼しているならば、家賃債務保証会社の内容は管理会社が全て把握しているので問題ありません。しかし、自主管理であったり、過去に色々な不動産会社が賃貸借契約に関わっていた場合には、オーナー様もその内容をきちんと確認しておく必要があると思います。前管理会社や前所有者の記憶が薄れる前にチェックして、不明点を問い合わせるのがお勧めです。
契約は相手があることなので、賃貸借契約書類に問題があってもすぐに解消できない場合もあります。しかし、そもそも入居者との関係が良ければ、契約書に多少問題があっても退去時まで平穏に過ぎることも多いのです。もし何か不足があったとしても、リスクを把握し、その部屋の入居者との良好な関係維持に努めるというのも、一つの問題解決方法になります。まずは、貸借契約書に興味を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。
伊部尚子
公認不動産コンサルティングマスター、CFP® 独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。
※ 2024年10月28日本編更新時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。 ※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
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