賃貸契約者の動向調査から入居者ニーズの変化を考える

「不動産投資」管理の重要なポイント(第11回)

この記事の概要

  • 賃貸経営は、そこを借りてくれる入居者がいればこそ成り立つ事業です。入居者ニーズは変化が早いので、その動向を知ることは重要です。賃貸住宅を借りたばかりの入居者に対して行われた調査結果(リクルート住まいカンパニー 2018年度 賃貸契約者動向調査)から、今の入居者がどうやって物件を決めているのかを知り、賃貸経営に役立てる方法を考えたいと思います。

賃貸契約者の動向調査から入居者ニーズの変化を考える

1.空室の内見者が減り続ける時代

調査結果データによると、部屋探しに際しての不動産会社への訪問数は年々減り続けており、今回は平均1.5社で過去最少となっていました。同様に、部屋探しの際に見学する物件の数も年々減少し続けており、平均2.8件と、これも過去最少となっています。

このデータから、今の時代のお部屋探しのお客さまの具体的な行動を想像してみましょう。住み替えたいと思い立ったら、お部屋探しサイトで物件の条件検索を繰り返し、掲載されているたくさんの写真や動画を元に良さそうな物件を絞り込み、見学したい物件を決めて、それを扱っている不動産会社だけに連絡。内見の予約をして、2~3件現地を見てみて気に入ったら申し込み、契約、そしてお引っ越し。

日々お部屋探しのお客さまの対応をしている不動産会社から見ても、実際にお部屋探しはこのようにお手軽になってきていると感じています。個々の物件情報が充実しているのでスマートフォンでいつでもどこでもお部屋探しが可能ですし、お客さま自身のITスキルも高いので、最寄り駅の周辺情報や駅から物件までの道の様子も、自分である程度調べられてしまいます。物件の現地へは、自分で調べた情報の確認だけに来ているようなお客さまも増えているのです。

この状況に対応していくには、「問い合わせしてきた人、見に来た人を逃さないで、一発必中で申し込みしてもらう」ことが大切です。共用部の清掃や室内のリフォームを疎かにせず、それを伝えるための写真や動画の質にもこだわり、いざ現地をご案内となったならばしっかりと接客し、物件の良いところをきちんとアピールする。オーナー様と不動産会社が力を合わせなければ、入居申し込みを勝ち取ることは出来ない時代なのです。

2.実際に引っ越してみて満足度の高い設備とは?

お部屋探しの際に欲しいと考えている設備と、実際に暮らしてみて満足度の高い設備は実は少し違います。満足度の高い設備の調査によると、24時間出せるゴミ置場が第1位となりました。

働き方改革が進み、フレックスタイム制の導入やリモートワークなどで、「朝8時までにゴミを出してください。ただし、夜中には出さないで下さい」などというルールに不満を持っている人が増えています。燃えるゴミの日、燃えないゴミの日、瓶・缶・ペットボトルの日など、分別が進めば進むほど指定日が増えて、ほぼ毎日が何らかのゴミの日だという地域も少なくありません。決められたゴミ出しの時間と自分の生活時間帯が合わない人にとっては、早起きしなくてはならなかったり、うっかりゴミを出し忘れたりすることなどが大きなストレスになっているのです。24時間出せるゴミ置き場を引っ越し先で初めて経験した人はその便利さに満足を覚え、このような調査結果に繋がっているのでしょう。

24時間出せるゴミ置き場は世帯数の多いマンションでないと導入が無理だと思われがちですが、自力で解決したオーナー様もいます。敷地の道路側に大きめのゴミストッカーを設置し、ゴミ収集を行っている清掃事務所に相談してそこから直接ゴミを収集してもらうようにしたケースや、近くに住んでいるご親族に頼んで、敷地内に作ったゴミストッカーから指定日に合わせて集積所に出してもらっているケースなどが成功例です。後者の場合は、入居者さんに便利を享受してもらうかわりに分別を徹底し、一時的にゴミを置く場所も種類ごとに指定しているとのことで、オーナー様の工夫が光ります。

その他に注目したいのは、満足度が急上昇した室内物干しで、特に二人暮らし世帯の方に支持されているという結果が出ました。共働き世帯が多くなり毎日仕事が忙しいため、留守中や就寝中に室内で洗濯物を乾かしたい人が増えているのだと思われます。これは比較的安価に導入できる設備ですので、リフォーム時に優先的に設置するのも良いでしょう。

ゴミストッカー

3.ターゲットとする入居者世代の実家に注目

今回契約した部屋と以前住んでいた実家との満足度比較では、10代、20代は「今回契約した賃貸物件」よりも、「実家」のほうが満足度が高いという結果になりました。これは遮音性、断熱性、耐震性などについて聞いたものなので、賃貸住宅に引っ越したら実家に比べて「音がうるさい、寒い、もしくは暑い、地震で揺れる」と感じる人が多いということを表しています。特に実家の建築年が2001年以降の層は、2000年にスタートした住宅性能表示制度の影響もあるのか、実際の調査でもより実家の満足度が高いという結果が出ています。彼ら彼女らは、住まいについて当たり前だと感じるレベルが高いことが予測されます。

実家の築年数が新しければ設備も新しいのは当たり前で、これらの世代の入居者さんの中には古い仕様の設備は見たことがないという方もいます。20代の新婚カップルに、新品に交換したバランス釜を「爆発しそうで怖くて使えない」と言われてしまったオーナー様もいらっしゃいました。ここまで極端でなくても、実家の水回りが全てシングルレバーなのでツーハンドル混合水栓を使ったことが無いという方も実際に多いです。この世代がターゲットの物件であれば、時代にマッチした仕様の設備を設置しなければならないと思います。

4.DIY・カスタマイズのニーズも増加傾向

お部屋のDIY・カスタマイズについては、実施経験があるという回答が3年前と比べて約2倍となりました。実施した理由は、収納不足や内装デザインへの不満、間取りの使い勝手が悪いなど、「お部屋の不満を解消する」ことが動機になっているという結果が出ています。

そして、今回初めての調査項目で判明したのが、DIY・カスタマイズを実施した人のうち、オーナー様や管理会社に無断で施工を行ったという人がなんと63.9%にも上るということです。これを読んだオーナー様は「自分の物件も勝手に壁に穴を開けられたりしているの?」と不安になると思いますが、そうではありません。原状回復が出来る範囲なので連絡しなかったという人がそのうちの多くを占めています。石膏ボードに細いピンで取り付けられる棚や、貼って剥がせる壁紙などが流行しているので、退去時にはきれいに原状回復出来るのです。

この結果を見てもったいないと感じるのは、入居者がお部屋に不満があって手を加えたのに、退去時に跡形もないとなれば、オーナー様や管理会社がその不満に気付くことが出来ないということです。お部屋の使い勝手を一番知っているのはそこで暮らす人なのですから、入居中の要望を汲み取ったり、退去後に不満だった点をヒアリングすることが出来れば、お部屋をより良く改善することが出来ると思います。

賃貸経営を長く続けているオーナーほど賃貸物件の入居者層と年齢が離れていくため、今の入居者世代の暮らしの実態が分からなくなっていくのは当然です。入居者の動向やニーズがどのように変化しているのかを知ることは、賃貸経営の未来を読むことに繋がります。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2019年12月26日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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