「投資用不動産の賃貸契約」の連帯保証に関して~民法改正を踏まえて~

「不動産投資」管理の重要なポイント(第4回)

この記事の概要

  • いよいよ来年の民法改正に伴い連帯保証の範囲が制限されることとなります。オーナーとしてどのような対応が必要か?関連する改正点ごとの賃貸借契約書の変更方法や、注意するポイントを検証してみたいと思います。
    (本記事は2019年5月10日時点の情報であり、今後変更となる場合があります)

この時期だからこそ空室対策を考える!

1.連帯保証人関連の民法の改正点を確認しておきましょう

投資用不動産をお持ちのオーナー様が注意しておくべき、連帯保証人関連の改正点は四つあります。順番に見ていきましょう。

一つ目は、「保証の極度額設定の義務化」です。改正民法では「個人の連帯保証人の場合、万一のことがあった場合に最大限いくらまで保証すれば良いのかを、極度額として契約書に記載がなければ保証契約は無効」(改正民法465条の2)と定められます。

二つ目は、「保証額の元本確定事由の規定の改正」です。改正民法では、「借主が死亡した場合、その時点で連帯保証人の保証すべき額が確定され、それ以後に発生する損害等は保証対象外」(改正民法465条の4)と定められます。

三つ目は、「連帯保証人からの問い合わせに対する賃貸人の回答義務の新設」です。「連帯保証人から問い合わせを受けたときは、賃貸人は賃借人の家賃の支払状況について遅滞なく回答すること」(改正民法458条の2)が義務づけられます。

四つ目は、事業用物件だけに関係があり、しかも賃借人の義務なのですが、「連帯保証人に対する自らの財産状況等の情報提供義務の新設」です。「店舗やオフィス等の事業用物件の賃貸借契約の際、賃借人は連帯保証人に財産状況等の情報提供をすること」(改正民法465条の10)が義務づけられます。賃借人がこれを怠った場合、連帯保証人に連帯保証契約を取り消される可能性があるので、賃貸人も注意しなければなりません。

2.賃貸借契約書はどのように変更すれば良い?

次に、改正民法に沿って賃貸借契約書をどのように変更すれば良いかを、国土交通省から出されている賃貸住宅標準契約書「連帯保証人型」に合わせて見ていきましょう。
【「甲」賃貸人(オーナー様)、「乙」賃借人、「丙」連帯保証人】

一つ目の「極度額設定の義務化」については、頭書に連帯保証人の極度額を明示するとともに、
第17条2項「前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。」
となっています。極度額については規定がありませんが、あまりに高額だと連帯保証人のなり手がいなくなるという問題が出てきます。ちなみに国土交通省から参考のために「極度額に関する参考資料」が公表されており、これを見てみると過去の賃料の24か月分程度が目安になりそうです。

二つ目の「保証額の元本確定事由の規定の改正」については、
第17条3項「丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。」
と記載されています。賃借人が亡くなった際は、事後対応を今まで以上に速やかに行う必要が出てくるでしょう。また、賃借権は相続の対象になるため、例えば賃借人が亡くなった後に同居人の配偶者が住み続けた場合、その引き継がれた賃貸借契約に対しては連帯保証人の責任を問えなくなってしまうので注意が必要です。

三つ目の「連帯保証人からの問い合わせに対する賃貸人の回答義務の新設」については、
第17条4項「丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。 」
とされています。今までは、連帯保証人から家賃滞納状況について問い合わせがあった場合、賃借人の同意がなくては情報提供がしにくいケースがありました。滞納額が高額になる前に連帯保証人が何らかの手を打てるようにするため、改正民法では義務として規定されました。改正後は連帯保証人から家賃滞納状況についての問い合わせを受けたときに、個人情報だからと情報提供を断るようなことがあれば義務違反となります。

四つ目の「連帯保証人に対する自らの財産状況等の情報提供義務の新設」については事業用物件だけが該当するため、国土交通省の賃貸住宅標準契約書には記載がありません。しかし、賃借人が自身の財産上の問題点を隠して連帯保証人を立てたような場合に保証契約が取り消しになる可能性があるため、オーナー様にとっても重要な改正です。対策としては、賃貸借契約書に情報提供が義務付けられた項目について賃借人に記載してもらい、連帯保証人にそれを確認した旨の署名捺印をもらうなどが考えられます。

連帯保証人のイメージ

3.改正民法の注意点と影響について

2020年4月以降の新規契約は当然改正民法が適用されますが、ここで問題になるのが「改正民法施行前に締結された賃貸借契約が施行後に更新される場合、どちらが適用されるのか?」ということだと思います。これに関して賃貸不動産管理業界では、
◆更新時に契約書を作成し連帯保証人に署名捺印を頂く場合は合意更新となるため、改正民法が適用される。つまり、極度額設定をしなければ保証契約は無効となる。
◆更新時に連帯保証人に署名捺印を頂かなければ、引き続き旧民法が適用されるため、極度額の設定は不要。
との解釈がされています。管理会社に依頼しているオーナー様は更新時の対応が統一できますが、自主管理で複数の会社に更新を依頼しているオーナー様は注意が必要です。「更新時の契約書に連帯保証人に署名捺印頂いたのに、極度額の設定がなかったため保証契約が無効になってしまった」という事態に陥らないようにして下さい。

また、既に新規の賃貸借契約の7割以上が家賃債務保証会社を利用していると言われていますが、民法改正の影響で更に利用が加速すると思われます。極度額が示されることで連帯保証人になって欲しいと頼みづらくなるでしょうし、引き受ける側も抵抗感が増すことが予測されるからです。では、どの家賃債務保証会社を利用すればよいのでしょうか?保証の内容は各社異なりますので、比較検討して選ぶ必要があります。家賃債務保証の業務の適正化を図る目的で国土交通省が去年10月より家賃債務保証会社の登録制度を開始しているので、それも参考にすると良いでしょう。また、家賃債務保証会社の中には入居者の自殺や夜逃げに伴う損害額を保証対象外としているところが多くあります。そこが連帯保証人を立てる場合と大きく違うところですので、今後はオーナーリスクを保証する保険の利用も検討すべきでしょう。

賃貸借契約においての連帯保証人の存在は、家賃滞納があった際のリスクヘッジとして無くてはならない重要なものです。今回の民法改正に対応しないまま放置すると、家賃の回収に重大な支障が生じるおそれがあります。管理会社に依頼しているオーナー様はどのような対応になるかを問い合わせ、改正民法に備えましょう。自主管理のオーナー様も、新規の賃貸借契約や更新手続きについて、今後の対応を検討しておかれると良いと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2019年5月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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