サブリースについて考える
~成功しているオーナーと失敗しているオーナーの違いとは?~

「不動産投資」管理の重要なポイント(第2回)

この記事の概要

  • アパートなどの賃貸住宅を不動産会社が一括で借り上げて、入居者へ転貸する「サブリース」に関しての注意点を、具体的な事例を交えながら解説。決して「サブリース」そのものに問題があるわけではありません。複雑な契約内容に惑わされることなく、しっかりと理解して活用しましょう。

サブリースについて考える~成功しているオーナーと失敗しているオーナーの違いとは?~のイメージ図

1.サブリース契約の注意点を具体的に解説

近年、サブリース契約を巡るトラブルのニュースが新聞、テレビなどで取り上げられることがありました。その結果、一時的に「サブリース=悪」というイメージが世間に定着してしまったように感じています。しかしながらうまく活用できている方がいるのも事実で、決して仕組みが悪いわけではありません。サブリースをきちんと理解して上手に利用する方法をご紹介いたします。

これらのサブリース関連の事件を背景として、国土交通省は消費者庁と連携し、2018年3月に「サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!」という文章を公表しています。まずはその内容に沿って、サブリース契約の注意点を確認していきましょう。

主な注意点は三項目あり、一つ目の注意点は、『賃料は変更になる場合があります』ということが挙げられています。多くのサブリース契約では、定期的にサブリース賃料の見直しがあります。見直し時期に当たらなくても、「家賃相場の著しい下落」や「入居状況の著しい悪化」により減額となる可能性があります。これらは契約書に記載がされていますので、しっかり確認する必要があります。

二つ目の注意点は『契約期間中でも解約されることがあります』というものです。「30年一括借上げ」でも、契約書に規定があればサブリース業者からの解約申し入れが可能です。サブリース賃料の値下げ交渉が決裂した場合に、サブリース契約自体が解約へと進むケースでのトラブルが多いと思われます。

三つ目の注意点『契約後の出費もあります』というものです。サブリースと言えど一般の賃借人に転貸されるのですから、「借りたい」と思ってもらえる状態を保つ必要があります。思ってもみなかった「設備交換費用」や「外壁修繕費用」を求められ、トラブルになっているケースが見受けられます。

これらの三つの注意点に関する事項は当然サブリース契約書に記載されているのですが、プロの管理会社が見ても難解な表現で記載されているものがあります。非常に大きな買い物ですから、内容が難しいと感じたら契約前に専門家に相談して下さい。

2.サブリースで成功しているオーナー、失敗しているオーナー

私たちのまわりには、サブリースの仕組みを上手く利用して賃貸経営をしているオーナー様がたくさんいらっしゃいます。逆に、サブリースで失敗してしまったオーナー様からの管理の相談も頂きます。成功事例と失敗事例から、どうやってサブリースを利用したら良いのかを考えてみましょう。

サブリースで成功しているO様は、「自分で出来ないところを管理会社にやってもらっている」と仰っています。O様は家業の会社を継いで毎日忙しくされているので、入居者の入退去にまつわる細かな経営判断を迅速にすることが出来ません。空室をご案内して気に入って頂き、申し込みに際して何らかの条件交渉が入ったときのことを考えてみましょう。サブリースでなければ当然O様にご相談が必要なのですが、連絡が付かない場合には入居希望者への返答はすぐには出来ません。そうなると、多くの空室情報が溢れている今の時代には、お客さまは他のお部屋を探しに行ってしまうことが少なくないのです。無事に申し込みになっても、入居審査の返事が遅いと同じ事が起こります。売買と違って賃貸借契約では、部屋探しの方が複数の部屋に申し込みをしてもペナルティを課すことが出来ないため、申し込みから契約までをスムーズに進めないと優良なお客さまを逃してしまいます。O様の物件はサブリース契約を結んでいますので、忙しいO様に代わって管理会社がスピーディーに話しを進めることが出来ているのです。

サブリースで失敗したので状況を改善したいというご相談を受けたT様は、「サブリース賃料の大幅な値下げ交渉があり、耐えられないので解約した」と仰っていました。サブリースを解約して初めて、入居賃料が予想以上に低くなっていること、入居者の質が悪いことが分かったそうです。オーナー様とサブリース業者の契約が解約になっても、入居者との賃貸借契約は当然ながら残りますし、退去して頂くことも急に賃料値上げすることも出来ません。更に悪いことに、新築当初想定されていた入居賃料は周辺相場とかけ離れていた事が判明しました。つまり、新築当初から計画に無理があったのですが、それがサブリース契約に隠れてしまっていたのです。T様は、「契約時にはサブリース賃料は下がらないと説明された記憶があるが、契約書を見たら値下げできると書いてある。サブリースだからと安心してしまい、今空室があるのか、どういう条件で募集されているのかなどを確認したこともなかった。これからはオーナーとしての自覚をもって経営にあたる」と仰っていましたが、大きなマイナスからの再スタートはとても厳しいものになりました。

この成功事例と失敗事例から分かることは、サブリース契約の根本を支えているのは各部屋の賃貸借契約であるということです。入居家賃や入居者の質が賃貸経営を左右するのはサブリースであろうとなかろうと同じことであり、質の高い方になるべく高い家賃で入居して頂くという努力の積み重ねが、将来の収益性に大きく影響するのだということを忘れてはなりません。

サブリースで成功しているオーナー、失敗しているオーナーのイメージ図

3.サブリースのメリット一般管理形態との比較

それでは、どんなオーナー様がサブリース契約に向いているのでしょうか。サブリース契約には、先の成功例や失敗例に出てきた以外にも、メリットとデメリットがあります。

サブリース契約のメリットの一つに、安定した収益が得られることが挙げられます。先に述べたようにサブリース賃料の見直しはありますが、例えばお部屋探しの閑散期に複数の部屋の退去が重なったり長期滞納が起こったりしても、資金計画が狂わなくて済むのです。

メリットの二つ目は、賃貸人として契約当事者にならなくて済むことです。昨今では入居者の要望も多様化し、細かい方も増えています。厳正に入居審査をしていても、経済面で優良顧客に見えた方が所謂モンスター入居者に変身してしまうこともあるので厄介です。

入居中の設備故障に対するクレームも深刻化する傾向があり、退去時の敷金精算での交渉事も増加しています。対応するのは管理会社だったとしても、ご自分の名前が賃貸人として前面に出ることを避けたいという場合、サブリースは便利です。もちろん所有者としての責任はありますが、入居者にとっての賃貸人はサブリース会社ですので、もめ事の当事者になることはなく安心できます。

サブリース契約のデメリットには、オーナー様自身の工夫で収益力の向上が図りにくいことが挙げられると思います。市況が良くなったり物件のある場所の人気が上昇したりして、入居家賃が上げられるチャンスが到来したとしても、サブリース賃料以上の収益を得ることは出来ません。また、リフォーム代を削減するためや、リフォームにこだわりがあって自分で業者を手配したい場合でも、サブリース会社指定の業者での施工が契約で決められている場合には不可能となります。逆を言えば、ご自分で賃貸人としての采配を振って収益向上を図りたい方で、かつその時間が作れる方ならば、サブリースより一般管理を選択することをお勧めします。

ご自身の賃貸経営についての知識量や、どの程度経営に関わりたいかによって、サブリースを活用したほうが良いかどうかは決まります。最近では、既存物件でも途中からサブリースする会社も増えていますので、ご自身の環境の変化によっても、契約内容の変更を検討されると良いでしょう。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

バックナンバー