インスペクション(住宅診断)と保険で中古がより安心に

理想の住まいのために知っておくべきトピック

住宅購入の選択肢として大きく分けると、新築と中古があります。誰も使ったことがない新築には大きな魅力がありますが、様々な分野でリサイクルが進む中で、中古住宅をより生かしていくことは、非常に大きな意味があります。

中古住宅を購入する際の大きなポイントが、品質をどう判断するかです。多くの住居購入希望者は中古住宅の品質を適切に判断する術を持っていません。壁紙や床など目に見える部分ですら難しいのに、基礎や構造部までの性能チェックとなるともうお手上げです。

 立地や広さ、設備や仕様等、求めている条件にマッチした好みの中古住宅が手頃な価格で見つかったとします。しかし、販売会社や仲介業者から「買うのは自己責任です。性能は自分で判断してくださいね」などと言われれば不安になってしまいます。

診断と保険で安心度が大幅アップ

人生で最も高い買い物の1つである住宅を自己責任で選ばなくてはいけないのでは、中古に二の足を踏むのも当然です。こうした住宅購入希望者の不安解消を目指し、国や不動産業界では安心して中古住宅を購入できるよう各種制度の充実に努めています。中古住宅購入のセーフティネットにもつながる、インスペクション(住宅診断)と瑕疵(かし)保険制度について説明しましょう。

安心ポイント(1) インスペクションで住宅性能が明確に

過去にどんな使い方をされてきたか分からない中古住宅だからこそ、購入の際には新築以上に現状の性能を正しく知りたいものです。そこで事前に第三者が建物のコンディションをチェックし、ユーザーが安心して住宅購入できる判断材料にするというのが、インスペクション(住宅診断、ホームインスペクションなどとも呼ばれます)の主旨です。

インスペクション調査の方法や範囲は戸建住宅とマンションとで違ってきます。戸建住宅の場合、建築士などの資格を持つ調査員が建物内外や床下に入り、目視や触診・打診を中心に調査を行います。また水平器やセンサー等を使い、計器を使った非破壊による検査も実施します。マンションの場合、検査は主に室内専有部が対象となります。国土交通省が2013年に「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を発表していますから、その内容を一部紹介します。

*戸建て住宅の共通検査対象

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検査の観点 対象部位等 検査対象とする劣化事象等 検査方法
① 構造耐力上の安全性に問題がある可能性が高いもの 小屋組、柱・梁、床、土台・床組等の構造耐力上主要な部分
• 構造方式に応じ、木造にあっては蟻害・腐朽が、鉄骨造にあっては腐食が、鉄筋コンクリート造にあっては基礎において検査対象とする劣化事象等が生じている状態
• 著しい欠損や接合不良等が生じている状態
目視、触診、打診、計測
床、壁、柱 • 6/1,000 以上の傾斜が生じている状態(鉄筋コンクリート造その他これに類する構造を除く) 計測
基礎 • コンクリートに幅0.5 ㎜以上のひび割れ又は深さ20 ㎜以上の欠損が生じている状態
• 鉄筋コンクリート造で鉄筋が腐食している可能性が高い状態(錆汁の発生)や腐食する可能性が高い状態(鉄筋の露出)
目視、計測
② 雨漏り・水漏れが発生している、又は発生する可能性が高いもの 外部 屋根、外壁 • 屋根葺き材や外壁材に雨漏りが生じる可能性が高い欠損やずれが生じている状態
• シーリング材や防水層に雨漏りが生じる可能性が高い破断・欠損が生じている状態
目視
屋外に面したサッシ等 • 建具や建具まわりに雨漏りが生じる可能性が高い隙間や破損が生じている状態
• シーリング材や防水層に雨漏りが生じる可能性が高い破断・欠損が生じている状態
目視
内部 小屋組、天井、内壁 • 雨漏り又は水漏れが生じている状態(雨漏り・漏水跡を確認) 目視 目視
③ 設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの 給排水 給水管、給湯管 • 給水管の発錆による赤水が生じている状態
• 水漏れが生じている状態
目視、触診(通水)
排水管 • 排水管が詰まっている状態(排水の滞留を確認)
• 水漏れが生じている状態
目視、触診(通水)
換気 換気ダクト • 換気ダクトが脱落し、又は接続不良により、換気不良となっている状態 目視

*共同住宅の共通検査対象(専有部分)

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検査の観点 対象部位等 検査対象とする劣化事象等 検査方法
① 構造耐力上の安全性に問題がある可能性が高いもの 壁、柱、梁 • 構造方式に応じて、鉄筋又は鉄骨が腐食している可能性が高い状態(錆汁の発生)や腐食する可能性が高い状態(鉄筋又は鉄骨の露出)
• 6/1,000 以上の傾斜が生じている状態(鉄筋コンクリート造その他これに類する構造を除く)
• コンクリートに幅0.5 ㎜以上のひび割れ又は深さ20 ㎜以上の欠損が生じている状態
目視、計測
② 雨漏り・水漏れが発生している、又は発生する可能性が高いもの 内部 天井、内壁 • 雨漏り又は水漏れが生じている状態(雨漏り・漏水跡を確認) 目視
③ 設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの 給排水 給水管、給湯管 • 給水管の発錆による赤水が生じている状態
• 水漏れが生じている状態
目視、通水
排水管 • 排水管が詰まっている状態(排水の滞留を確認)
• 水漏れが生じている状態
目視、通水
換気 換気ダクト • 換気不良となっている状態 目視

*共同住宅の共通検査対象(専用使用部分)

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検査の観点 対象部位等 検査対象とする劣化事象等 検査方法
① 構造耐力上の安全性に問題がある可能性が高いもの 壁、柱、梁 • 構造方式に応じて、鉄筋又は鉄骨が腐食している可能性が高い状態(錆汁の発生)や腐食する可能性が高い状態(鉄筋又は鉄骨の露出)
• コンクリートに幅0.5 ㎜以上のひび割れ又は深さ20 ㎜以上の欠損が生じている状態
目視、計測
② 雨漏り・水漏れが発生している、又は発生する可能性が高いもの 外部 外壁 • シーリング材や防水層に雨漏りが生じる可能性が高い破断・欠損が生じている状態 目視
屋外に面したサッシ等 • 建具や建具まわりに雨漏りが生じる可能性が高い隙間や破損が生じている状態
• シーリング材や防水層に雨漏りが生じる可能性が高い破断・欠損が生じている状態
目視

(国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」)

このように、中古住宅購入の際のインスペクションは、構造部のほか、外皮と呼ばれる屋根、壁、開口部、そして配管や換気系統など、建物の基本的なインフラ部分が対象となっています。これは、住まいを長期にわたって使用するために欠かせない部位といえます。

 実施メニューや費用は、検査会社によって多少違っていますが、概ね5万円程度というのが現在の相場のようです。現在は買主側で費用を負担し、購入前に実施するケースが多いようですが、今後はユーザーに安心して購入を検討してもらえるよう、売主側が実施するケースが増える可能性もあります。

安心ポイント(2)住宅瑕疵担保責任保険制度

公的なインスペクションと、その後の保証をセットにしたものが「既存住宅売買瑕疵保険」です。これは、中古住宅の購入、引渡し後、建物の保険対象部分に瑕疵が見つかった場合に補修費用を保険でまかなえるというもの。インスペクションだけでは単なる性能チェックですが、瑕疵保険を加えることで補修工事費用の保証が加わり、住宅購入者にとってより安心できる制度といえます。

保険の範囲は、基礎や柱・梁など構造耐力上主要な部分や、屋根や外壁、窓まわりなど雨水の浸入を防止する部分。保険期間は5年間または1年間で、補修や修理費用のほか、調査費用や一時的な仮住まい費用等が支払われます。

*住宅瑕疵担保責任保険の範囲

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  木造(在来軸組工法)の
戸建住宅の例
※2階建ての骨組(小屋根、軸組、床組)などの構成構造耐力上主要な部分
鉄筋コンクリート造(壁式工法)の
共同住宅の例
※2階建ての骨組(壁、床組)などの構成
構造耐力上
主要な部分
小屋組 屋根版
屋根版 床版
斜材 外壁
横架材 基礎
基礎杭
床版  
土台  
基礎  
雨水の侵入を
防止する部分
屋根 排水管
(屋根もしくは外壁の内部または屋内にある部分)
開口部 屋根
外壁 開口部
  外壁

(一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会の資料より作成)

2018年からは意向確認が義務化

中古住宅購入希望者にとって、インスペクションは住宅の事前の性能が正しく把握でき、購入の際の安心材料となります。瑕疵保証制度は、万一購入後に瑕疵が見つかっても保険会社が保証してくれるため、より安心感が広がります。

現在のインスペクション利用率は5%程度ですが、今後、増加する可能性が高いでしょう。購入者が中古住宅を安心して選ぶポイントになることはもちろんですが、売主にとっても売買後の要らぬトラブルを回避することができるサービスだからです。

2016年5月、宅地建物取引業法の一部を改正する法律案が可決、成立しました。この中で、新たに建物状況調査の説明義務などが規定されました。2018年に建物状況調査を利用するか、利用しないかの意向を確認することが義務化されることになります。瑕疵保証に関しても、購入後に実施するリフォームについて保証するタイプなど、メニューを広げるなど、利用を増やす工夫が始まっています。

少子高齢化が進む中、東京都内でさえ空き家が増加しているといわれています。また、中古住宅の活用は地球環境を考えてもかなり重要な課題です。住宅購入希望者にとって、中古住宅を安心して選べるようになれば、かなり選択肢が広がります。建物状況調査および瑕疵保証は、今後、一般化していく可能性が高いでしょう。

執筆

谷内信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)