2020年前半、マンション供給は低水準 供給も需要も回復にはある程度の時間が必要

アナリストが解説 2020年不動産市場、新型コロナの影響と展望

この記事の概要

  • 新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年、日本経済は大きな打撃を受けました、住宅を中心とする不動産市場はどのような状況にあるのでしょうか。日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに2020年前半の不動産市場についてデータをもとに分析していただくとともに、後半以降の展望を語っていただきました。

吉野薫さん

2020年前半は新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本経済は大混乱しました。その中で、住宅不動産市場はどのような状況だったのでしょうか。

吉野:2020年前半の住宅不動産市場は、供給、需要とも非常に低調で、過去を見ても例がないほどの落ち込みとなりました。飲食・サービス分野や旅行分野ほどではありませんが大きな影響を受けたといえます。

例えば、新築マンションは供給が激減しました。1月~6月の首都圏の供給戸数は、前年よりも44%も減り、7497戸に留まりました。1月~3月では対前年35.4%減でしたが、4月~6月は55.5%も減少しました。近畿圏は、首都圏と比べると減少幅は小さかったのですがそれでも1月~6月の供給戸数は前年比29.5%減で、5299戸に留まりました。新型コロナウイルス感染拡大に対応して、予定していた売り出しを延期したマンションデベロッパーが少なくなかったようです。

新築マンションの供給は激減したとのことですが、需要はどうだったのでしょうか。

吉野:需要の動向を見る目安の一つである初月契約率は、首都圏では新型コロナウイルスの影響が小さかった1月と2月がそれぞれ63%、59.3%と振るいませんでした。それに対して、3月以降は6月までずっと70%を超えています。一般的に初月契約率が70%なら、市況は悪くないという評価ができます。ただし、今回は、3月以降、供給戸数が極端に減っています。その70%程度というのは、実際の契約戸数でいうとかなり低い水準です。例えば、5月の契約戸数は284戸に過ぎません。これはバブル期以降、単月のデータとしては最低の戸数です。

不動産は、子育てや結婚などで「このタイミングで絶対に購入したい」という希望者が必ずいます。その底堅い需要と減少した供給戸数のバランスで、今回、初月契約率は7割程度を維持しているのでしょう。ちなみに近畿圏の1月~6月の初月契約率は70.5%で、首都圏と同程度になっています。

マンションデベロッパーは、新型コロナ感染拡大の中、とても通常の営業活動はできませんでした。チラシなどの広告も控えています。外出自粛の中でモデルルームを訪れる購入検討者も激減した中で、少ない需要をとらえて健闘した結果といえるのではないでしょうか。

中古マンションや中古戸建の動向はいかがでしょうか。

吉野:首都圏の中古マンションの成約件数は1月~5月の合計で前年比18.6%減の1万3467件でした。近畿圏は同時期、前年比16.3%減の1万3467件でした。新築マンション市場と比較すると新型コロナウイルスの影響は少なくなっています。

中古戸建市場はさらにダメージが小さくなっています。首都圏の1月~5月の成約件数は前年比9.7%減にとどまっています。1月と2月は前年比プラスで、3月以降、減少に転じました。近畿圏の成約件数は1月~5月で前年比2%減。4月まで前年比プラスで減少に転じたのは5月です。もっとも、5月の成約件数は首都圏が前年比15.5%減、近畿圏が前年比26.5%減とかなりの減少ですから、中古戸建市場の動向も2020年後半は予断を許しません。

こうしてみると、手に届きやすい価格水準の中古マンション市場や中古戸建市場と比較すると、ここ数年の地価高騰の影響などで価格がかなり上がってしまった新築マンション市場のダメージが大きくなっています。日本経済の先行きに不透明感が出ている中で、高額資産の取得をためらった可能性があります。

こうした2020年前半の動向から後半以降の住宅市場について、どのように予測していますか。

吉野:まず、全般的な見通しとしては、新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かうにしたがって穏やかに回復していくというのがメインシナリオです。2020年半ばを底として、徐々に回復していくイメージです。

新築マンションの供給は、急に回復して昨年並みに戻る可能性は非常に低いと思います。このサイトで何回も説明しているように、有力マンションデベロッパーの多くは資金面で困っていません。多少の在庫なら抱える余裕があります。景気動向や現場の売れ行きを見ながら、今後も販売や建設のタイミングを調整していくでしょう。売り急いだり、作り急いだりすることはしないと考えています。結果的に2020年通年の新築マンションの供給戸数は前年よりもかなり減るでしょう。一方、価格はほとんど下がらないのではないでしょうか。

国土交通省では、大手建設会社の受注高を建物の種類別にまとめています。それによると1月~5月の住宅の受注高は前年45.4%減の惨状です。このタイミングで建設会社に発注が激減したのですから、2020年後半以降、しばらく新築住宅の供給は細るということになります。

新築物件の供給が少なくなると、中古マンションや戸建住宅に目を向ける住宅購入希望者が今以上に増えるかもしれません。ただし、首都圏の中古マンションの売り物件登録件数は1月~5月、対前年比6.8%も減少しています。住み替えを一時延期するケースが増えている可能性があり、中古物件の供給にも不安があります。

2020年後半以降の住宅市場を展望するうえで注意すべきポイントはありますか。

吉野:2つの点を指摘しておきましょう。まずは先ほどの穏やかな回復というメインシナリオから外れる可能性です。メインシナリオは少なくとも日本において、遠からず新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、景気が底割れせずに回復に向かうということを前提にしています。今後、感染拡大が長引くことなどにより、雇用や所得に影響が出るほど景気が極端に悪化してしまえば、住宅市場は甚大な影響を被ります。雇用と所得が悪化すれば住宅購入どころではなくなってしまうので、需要は大きく減退してしまいます。

もう一つは、少し前向きな内容です。今回の地価高騰局面における住宅需要の特徴は、とにかく「利便性の重視」でした。少し狭くても交通利便性の高い立地の物件が選ばれるケースが目立ちました。それに対して、今回、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、テレワークを導入した企業が増加した影響などで、交通利便性の高い立地ではなくとも、生活利便性の高い立地もいいのではないかという機運が出て来ています。それも狭い自宅ではテレワークは快適にできませんから、ある程度の広さもほしいというニーズです。

こうしたニーズは、実際にはそれほど大きなものではないかもしれませんが、不動産デベロッパーには無視できないものだと思います。今後は、こうしたニーズなどに応えるべく、多様な商品開発を不動産デベロッパーが進める可能性に期待したいですね。それに対して住宅購入者の側も、自分の人生にもっともマッチした住宅の姿を、今一度根本から考える必要があるでしょう。都心か郊外か、新築か中古をリフォームするのか、広さや設備のレベルは、といった希望は、人それぞれのはずです。新型コロナウイルス感染拡大による市場の変化は、それをもう一度自分に問い直すいいチャンスです。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年8月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。