コロナ禍の今こそ、将来をにらんで住宅ローン見直しを

コロナ禍における住宅ローンの見直しポイント解説(第1回)

この記事の概要

  • 新型コロナウイルスによって、生活や収入に影響が避けられなくなっています。一方、外出自粛などの影響で、時間に余裕が生じている方も少なくないでしょう。そんな時間の有効な活用法として、家計への影響が大きい住宅ローンの見直しがあります。ファイナンシャルプランナーの平井美穂さんに、借り換えや金利引き下げ交渉などのポイントを解説していただきました。

平井美穂さん

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、外出を控え気味にしたことによって、多少、時間に余裕が生じている方も少なくないと思います。ファイナンシャルプランナーの平井美穂さんは、そんな時間を活用して、住宅ローンのチェックをすることを提案します。具体的なポイントをくわしく説明していただきました。

住宅ローンの見直し方はたくさんある

–なぜ、いまこのタイミングで住宅ローンをチェックすべきなのでしょうか。

平井:新型コロナウイルスによって、生活や収入が今後、変わってくることが予想されます。それを考えれば、多少でも時間に余裕がある今の時期に、家計への影響が多い住宅ローンの適正化を検討することは非常に意味があります。すでに住宅ローンを借りている方は見直しをすることによって、総返済額を減らしたり、毎月の負担を減らしたりすることができるかもしれません。

–具体的にどのように住宅ローンを見直せばいいのですか

平井:一口に住宅ローンを見直すといっても、様々な方法があります。大きく分けると現在、借りている金融機関と条件交渉をする方法と、金融機関そのものを変更する方法の二つです。どちらが得になるのか比較検討してみるといいでしょう。

それでは借りている金融機関と条件交渉する方法から説明しましょう。その中でもいくつかのやり方がありますが、代表的なのは「金利引き下げ」交渉です。具体的には、まず、借り入れ中の金融機関のホームページで現在の金利水準を確認します。自分が借りたときよりもだいぶ下がっているようであれば、金融機関に金利を下げてもらえないかお願いしてみましょう。

このやり方のメリットは後で説明する「借り換え」よりも、費用があまりかからず、手続きも簡単なことです。一方、借り換えと比べるとどうしても金利の下げ幅が小さくなる傾向があることがデメリットです。もちろん、金利の引き下げには審査があります。現在の金利水準は金融機関にとっては利ザヤがとれず歓迎する水準ではありません。そうしたこともあり場合によっては断られる可能性もあります。それでも“ダメもと”で聞いてみるといいでしょう。

–金利引き下げ以外の見直し方にはどんな方法がありますか

平井:「繰り上げ返済」や「返済条件の変更依頼」があります。それぞれポイントを解説しましょう。まずは「繰り上げ返済」です。金利引き下げ交渉を断られた場合、返済負担を軽減する方法として、繰り上げ返済の実行が考えられます。繰り上げ返済する金額は全額元金に充当されるため、通常の返済と比べていっきに元金が減り、支払利息を削減することができるからです。

繰り上げ返済は「期間短縮型」と「返済額減額」の2つの方法がありますが、利息削減効果が高いのは期間短縮型です。月々の返済額は変わりませんが、総返済額を減らすことができるので、繰り上げ返済する金額によっては借り換えする以上の効果がでます。手元に余裕資金があり、住宅ローン控除が終了している人などが向いている見直し方法です。

次に「返済条件の変更依頼」。これは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、収入が減少する可能性があり、返済額を減らしたい場合には、必ず検討したい見直しの方法です。

–どのような条件変更を依頼すればいいのでしょうか。

平井:条件変更のポイントとしては主に次の3つが考えられます。

<条件変更その1>ボーナス返済の見直し

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今後、多くの企業でボーナスが減る可能性があります。応急措置として特別定額給付金をボーナス返済に充てるといった方法もあるかもしれませんが、それでは対応しきれない可能性もあります。そうした場合、ボーナス返済を取りやめることやボーナス時の返済額を減らすこと、ボーナス返済月を変更することを金融機関に打診することもできます。ただし、ボーナス時の返済を減額した分、月々の返済額が増える点には注意が必要です。

<条件変更その2>一時的な返済猶予

新型コロナウイルスの感染拡大による収入減など、相当な理由がある場合、半年から3年間程度の一時期間、元金の返済を据え置き、利息の支払いだけにしてもらうよう交渉する方法です。ただし、猶予期間が終了した後は、月々の返済額や総返済額が以前よりも増える点には注意が必要です。家計を立て直した後には、繰り上げ返済するなどの手段も組み合わせることが大切です。

<条件変更その3>返済期間延長(リスケジュール)

住宅ローンの返済期間は最長35年ですが、返済が困難であると判断された場合、35年を超えて延長してもらえることがあります。ただし、最終返済時の年齢は80歳とする金融機関が多くなっています。返済期間を延長したことで月々返済額やボーナス時返済額を減らすことができますが、総返済額は増える点に注意が必要です。

返済猶予や返済期間延長(リスケジュール)を一度すると他の金融機関での借り換えは非常に難しくなります。応急措置としてはやむを得ないかもしれませんが、金利引き下げ交渉や後に述べる借り換えで対応できるなら、そちらを優先することをお勧めします。また、返済を延滞したことがあると、借り換えや条件交渉ができなくなる可能性が高くなります。返済に行き詰まって遅滞してから交渉するのでなく、早い段階で金融機関に相談することが重要です。

–次に新しい金融機関に「借り換え」の交渉を行う場合について説明していただけますか。

平井:2020年6月現在、変動金利は0.3%台、35年固定金利は1.2%前後で借りられるほど金利が下がっています。10年以上前に借り入れした人や、借入時には、事情があって金利優遇を受けられなかった人などは、他の金融機関で借り換えをすることによって、返済額を減らすチャンスかもしれません。

ただ、借り換えにはそれなりの費用がかかります。預貯金で準備しなくても、諸費用分もあわせて金融機関から融資を受けることができますが、その場合は借り換え直後にローン残高が増える点に注意が必要です。また、最終返済日まで予定通り返していくわけではなく、途中で一括返済する予定という人はそうしたことも織り込んで、現在のローンを返済し続けた場合と借り換えた場合の総返済額を比較する必要があります。このように、諸費用を含めて総支払額が減るかどうか、シミュレーションをきちんとして実行を判断する必要があります。また、借り換えする時には、新たな金融機関で団体信用生命保険に加入し直すことになります。健康状態に問題がなく、保険に加入できるかどうかも判断材料にしてください。

借り換えた場合、金利の見直しルールやその他の返済ルールなどが、これまでの金融機関と同じとは限りません。例えば、当初10年間固定金利を選択した場合、固定期間が終了した後は特段手続きをしなければ自動的に変動金利に切り替わる金融機関もあれば、満了後もまた10年固定金利になる金融機関もあります。このように、金融機関によってローンの内容はまちまちなので、誤解によるトラブルが生じないよう、借り換え先の規定をしっかり読み込むようにして下さい。

また、せっかく借り換えをするならば、セットできる保険の見直しについても検討してみるといいでしょう。このところ住宅ローンにセットできる保険はかなり充実してきています。ガンになった場合や自然災害時に返済負担を減らせる保険など、人によってはニーズにマッチするものもあります。

–こうした住宅ローンの見直しをするためには、各金融機関の規定をしっかり把握する必要がありそうですね。

平井:住宅ローンというと金利ばかりを気にして、金融機関ごとに異なる規定についてチェックしていないケースも少なくありません。さらに金融機関は、たびたび規定を見直していますから、新しく借りる場合には、既定の変更にも注意すべきですね。例えば、2020年4月にもフラット35の規定が多少変更されました。

住宅ローンでは、年間収入に対する年間返済額の比率の上限が定められているのですが、従来、フラット35では、賃貸予定または賃貸中の住宅に係る借入金の返済額は年間返済額の対象となっていませんでした。これにより、住宅ローン返済中の自宅を人に貸してしまえば、他に住宅を購入する場合、フラット35を使えば借入額を一般的な民間金融機関のローンよりも増やすことができました。しかし4月以降は賃貸予定または賃貸中の住宅に係る借入金の返済額も年間合計返済額の対象に追加されましたから、こうした使い方はできなくなりました。

また、ローンの目的が、セカンドハウスの取得の場合、従来は軒数に制限はなかったのですが、1軒だけになりました。このように、4月のフラット35の規定変更は、一般的な住宅の一時取得者への影響はあまり大きくないものでしたが、複数の住宅を所有する人にとっては大幅な見直しとなっていますから注意してください。

解説

平井美穂さんのプロフィール

大学卒業後、マンション販売会社に勤務。その後、金融機関に転職をし、都市銀行およびモーゲージバンクにて融資業務・資産運用相談を専門とする企業系ファイナンシャルプランナーの仕事に携わる。出産を機に退職し、独立系ファイナンシャルプランナーとして住宅ローンのアドバイスを中心に活動。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年6月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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