- 2020年4月1日、改正民法が施行。約120年ぶりに、契約に関する規定が大幅に見直されました。住まいを手に入れる際には、様々な契約行為が欠かせません。中でも、今回、大きな影響がありそうな建物を建築する際に結ぶ契約について、注意すべきポイントを契約関連にくわしい弁護士に解説していただきました。
2017年5月、「民法の一部を改正する法律」が成立しました。改正された民法(以下:「新法」)が、2020年4月1日に施行。民法のうち契約などの債権関係の規定は1896年に制定されて以来、約120年間ほとんど改正がされていませんでした。今回の改正は、民法の中で債権関係の規定について、最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行ったものです。
民法は契約に関するルールなどを定めた法律です。住まいを手に入れる際には、いろいろな契約を結ぶことになりますが、今回は、土地を買って住宅を建てる際に締結する「建築請負契約」について、民法改正による注意点を見ていきたいと思います。住宅の建築は多額の費用がかかります。長期にわたって使用することになります。施工ミスがあったり、修繕が必要になったりすることもあります。こうしたことから慎重に契約を結ぶことが大切です。
建築請負契約とは、簡単に言うと「建築工事を依頼する契約」で、通常は施主とハウスメーカー、建設会社、工務店などとの間の契約になります。建築請負契約においては、建築工事を依頼する人(施主)を「注文者」、建物を建てるハウスメーカー、工務店、建設会社などを「請負人」といいます。
瑕疵担保責任から契約不適合責任へ
従来、建築請負契約において、請負人の仕事の内容に不具合や問題がある場合は、注文者は請負人に対してそれらの修繕や損害賠償を求めたり、契約の目的を達成できない場合は契約の解除をしたりすることができるものとされており、「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。
新法では、この瑕疵担保責任は「契約不適合責任」という責任に整理されました(新法562条1項、559条)。「契約不適合」とは、建物が通常有しているべき品質や性能を欠いていたり、契約で特に定めた品質・性能・仕様を満たしていなかったりする場合などを指します。いわゆる欠陥住宅であった場合や、注文者の要望を無視した建物が建築された場合が典型例です。このような建物が建てられてしまった場合、新法の下では、注文者は請負人に対して「契約不適合責任」を追及することになります。
この点、従来の瑕疵担保責任と同じように、契約不適合責任においても「何が契約に適合するか」という点でトラブルになることが想定されます。よくあるトラブルとして、注文者としては「契約当初に取り決めた仕様と違う。」と主張するのに対し、請負人は「そのような取り決めはない。注文者が主張しているのは、契約当初に決めた仕様とは異なる仕様だ。」というものがあります。このようなケースで、請負人側の主張が認められてしまう場合、契約不適合責任が認められないばかりか、却って追加工事代金を支払わなければならない可能性もあります。
こうしたトラブルを防止するためには、注文者が要望する品質、性能などについて、建築請負契約を締結する際にできるだけ詳細に書面化しておくことが重要です。建築請負契約では仕様書や設計図などが添付されることが通常ですから、これらの書面がきちんと要望を反映したものとして明確になっているかチェックすることが必要でしょう。
契約不適合責任を追及する方法は
上記のとおり、従来の瑕疵担保責任でも損害賠償、修繕の要求(これを新法では「履行の追完」といいます)、契約の解除ができましたが、それに加えて新法の契約不適合責任では、代金減額請求(新法563条1項、2項)もできるようになりました。注文者としては、建築請負契約でこれらの責任追及手段が全て可能かどうかチェックしましょう。
建築請負契約を結ぶ際、独自の契約書を用意している大企業以外は、「民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款」という契約書の雛型が使うのが一般的になっています。この契約書を民法改正に対応させる形に変更する「民間(旧七会)連合協定工事請負契約約款」では、上記のすべての責任追及手段が規定される予定ですが、特約を入れて一部の手段が除外される可能性はあるので一応、注意をしておきましょう。
責任追及手段のうち、履行の追完について、修繕の方法や程度についてトラブルになることが考えられます。例えば、建物に漏水が発生した場合に、注文者が「請負人の修繕方法では不十分だ。漏水を完全に防ぐには別の工法で修繕する必要がある」と修繕方法を主張するのに対して、請負人は「漏水を防ぐにはそこまでやる必要がない。」と主張するような、注文者と請負人で修繕方法を巡って対立するケースです。
こうしたトラブルに対して、請負人側で契約書に「請負人の指定する方法による修繕を行う」といった内容の、請負人が一方的に修繕方法を決めることができる旨の特約や、修繕費用の金額に上限を設ける旨の特約を入れている可能性もありますので、注文者としてチェックしておきましょう。
契約不適合の追求期間制限の注意点
新法の契約不適合責任を追及するには、注文者が契約不適合を知った時から1年以内に契約不適合の事実を通知する必要があります(新法637条1項)。これに合わせて建築請負契約で今後多く用いられるであろう「民間(旧七会)連合協定工事請負契約約款」では、契約不適合責任を追及できる期間を原則として引渡しから2年に限定する形で改正される予定です。
もっとも、“新築住宅”の建築請負契約については「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、一定の瑕疵についての担保責任に関して、建物の引渡した時から10年とされており、これに反する特約で注文者に不利なものは無効とされているため(民法改正整備法による改正後の住宅の品質確保の促進等に関する法律94条1項及び2項、2条5項)、契約書で引き渡しから2年に限定されていても諦める必要はありません。
住宅の建築に関して、トラブルが生じた際に拠り所になるのは、「契約書がどうなっているのか」ということです。上記の通り、建築請負契約においては業界団体のひな形を利用しているケースが多いので、注文者に極端に不利な項目が入っている恐れは少なくなります。しかし、場合によっては、請負人に有利な特約を盛り込んでいるケースもあるため、きちんとチェックしておく必要があります。業界団体のひな形はインターネットで公開されていますから、それと比較して特約をチェックしたり、地方公共団体が主催している弁護士の相談会などを活用して見てもらったりしてもいいでしょう。面倒がらずに、契約の内容をしっかりと確認した上で契約を締結することが重要です。
辻河綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。
平成27年弁護士登録。主な著作として、『会社法実務Q&A』(ぎょうせい、共著)、『民事弁護ガイドブック(第2版)』(ぎょうせい、共著)、『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房共著)などがある。
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※ 2020年3月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。