戸建てを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第5回)
- 戸建てを手に入れれば、それで一生快適に暮らし続けられるわけではありません。時間経過により建物は老朽化しますから、定期的なメンテナンス(維持管理)が不可欠です。いつ、どんなことをやるべきなのでしょうか。戸建てのメンテナンスについて解説します。
持ち家の形態として、マンションと戸建てがあります。両方とも建設後、経年劣化などにより、建物の老朽化が進むことは同様ですから、いずれにしろ所有者は適切にメンテナンスをする必要があります。それを怠ると、さまざまなデメリットが生じます。建物の老朽化が早く進んだり、建物の耐久性や美観が悪化したりするなど、快適性や利便性を損ないかねません。将来、売却する際、査定額が低くなることもあります。
適切にメンテナンスを実施するメリット
- 建物の耐久性を守り、長く暮らせる
- いつまでも安全・快適に住み続けられる
- 早期の点検と補修でメンテナンスコストを下げられる
- 資産価値の維持につながる
ただ、マンションと戸建ての所有者ではメンテナンスに大きな違いがあります。所有者単独で実行すべき範囲が異なるのです。マンションでは、建物共用部のメンテナンスや大規模修繕などは管理組合が中心となり、長期修繕計画に基づいて定期的に行います。区分所有者単独では、専有部のメンテナンスを行うだけで済みます。そして、共用部のメンテナンス費用については、基本的に修繕積立金で賄われます。
一方、戸建ては、共用部、専有部という区分はありませんから、所有者が建物全体のメンテナンスを行う必要があります。つまり、単独で行うべき範囲は広くなります。修繕積立金もありませんから、コストもすべて自分で用意しなくてはなりません。
このように説明すると戸建てのメンテナンスは、マンションよりも大変そうですが、長所もあります。マンションの場合、共用部のメンテナンスに関して、所有者は意見を述べ、議決権を行使することはできますが、基本的には管理組合で決めることになります。つまり、「まだそれほど汚れていないので、壁を塗り替えるのは早い」と思ったり、「違う事業者に、違うやり方で維持管理を任せたい」と考えたりしても、その意見が通るとは限りません。一方戸建てでは、すべてに関して所有者が意思決定を行うことが可能ですから、メンテナンスのタイミングや事業者の選択も思い通りにできます。
雨や湿気から建物構造部を守る「外皮」
戸建ての建物を構造面から整理すると、大きく「スケルトン」と「インフィル」に分けられます。スケルトンとは、基礎や柱、梁といった、建物の構造部のことです。建物を長期にわたって使い続けていくためには、スケルトンの性能維持が欠かせません。インフィルはマンションでいえば専有部のことです。こちらのメンテナンスも、暮らしの変化により適宜、修繕、リフォームなどを実施する必要がありますが、今回は、マンションでは考える必要はなく、戸建てだからこそ必須のスケルトンのメンテナンスについて解説します。
木造・RC(鉄筋コンクリート)造問わず、建物の最大の敵は水分や湿気です。木材は水分の付着や浸透によってカビや腐食、蟻害(シロアリ)を引き起こします。RCも水分の侵入によって鉄筋のサビやコンクリートの中性化といった劣化が進行します。こうした水分や湿気の構造部への付着や侵入などを食い止める役割を果たすのが、屋根や外壁、開口部など、建物の外側の部位になります。建築業界では「外皮(がいひ)」と呼んでいます。外皮は一年中太陽の日射や風雨にさらされるため、どうしても劣化しやすい部位のため、定期的なメンテナンスや更新が必要です。
大切な構造部であるスケルトンは、屋根や外壁、窓等の外皮で覆うことによって、水分や湿気等から守られ、耐久性を維持していることを理解してください。ですから、外皮の性能を定期的に維持し、スケルトンの耐久性を守ることが、戸建てメンテナンスの一番のポイントといえるのです。
どこを、どれくらいの間隔でメンテナンスすればよいのか
では、戸建てのメンテナンスとして、どの部位をどの程度の間隔で実施していかなくてはいけないのか具体的に解説しましょう。
日本の新築戸建てには「長期優良住宅」という、耐久・耐震・省エネなど高い住宅性能を有する住宅の仕様があります。既存住宅も性能向上リフォームによって一定水準の住宅性能を獲得すれば、認定を取得できます。この長期優良住宅の認定基準には、維持保全の期間や方法が定められており、個々の建物の仕様に応じた維持保全計画をつくることが義務づけられています。
(表1)は、新築の長期優良住宅におけるメンテナンス計画の基本的なガイドラインです。部位が大きく「構造躯体」「屋根・外壁・開口部等」「設備」に分かれていますが、「構造躯体」がスケルトン、「屋根・外壁・開口部等」が外皮に当たります。定期的に点検し、不具合があったら補修や更新等を行っていきます。赤字部分が具体的なメンテナンス内容になります。
(表1)戸建て住宅のメンテナンス例
留意事項等:
- ★は地震時や台風時の後、当該点検の時期にかかわらず臨時点検を行うものとする。
- 各点検の結果を踏まえ、必要に応じて、調査、修繕又は改良を行うものとする。
- 各点検において、劣化の状況等に応じて適宜維持保全の方法について見直すものとする。
- 長期優良住宅建築等計画に変更があった場合、必要に応じて維持保全の方法の変更を行うものとする。
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅に係る認定基準技術解説」より作成
まとめてみると、以下の3点に整理できます。
- 1)スケルトン・外皮とも、定期的な点検を行い、不具合を見つけたら修繕する
- 2)外皮については、部位ごとにメンテナンスや更新が必要
- 3)スケルトンも、土台や床組みについては防蟻処理(シロアリ予防)のメンテナンスが必要
表の中には、「○年で全面取替を検討」という表現があります。これは、点検をして劣化が進んでいなければ、必ずしも指定の時期に更新するのでなく、先延ばししても大丈夫ということです。ふだんからまめな点検やメンテナンスを行っていくことで、大がかりな更新時期を遅らせることが可能になります。その結果、トータルのメンテナンス費用を抑えられることができます。
次はメンテナンスのコスト。建物の劣化度合いや、既存の建材の種類や性能等によっても大きく異なり、なかなか具体的な数字を出しにくいのですが、住宅リフォーム推進協議会が、外皮に関するメンテナンス費用の目安を挙げているので、参考になります(表2)。前述の一覧表とは作成団体が違うので、多少分類は違いますが、絶対に実行すべき外皮のメンテナンスコストについては、一応の目安にはなるかと思います。
30年間では、これ以外に(表1)の通り、土台の防腐・防蟻処理や配管設備の取り換えの費用も必要になってきます。加齢や家族構成の変化に伴い、インフィルも修繕やリフォームの必要が出てくることでしょう。長期の住宅ローンを借りている場合、その返済中にこうしたコストが発生するのですから、あらかじめ用意をしておかないと計画通りのメンテナンスが難しくなります。住まいの快適性を維持するためにも、マンション同様、戸建てでも修繕やリフォーム費用を月々積み立てていく意識が大切かと思います。
(表2)戸建て住宅の外皮のメンテナンス例
※各メンテナンスの時期と費用は、延べ面積145㎡の2階建て住宅を基準とした目安
出典:一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会「屋根、外壁 リフォームの留意点」より作成
住まいの「かかりつけ医」を持ちましょう
以上のように、戸建てのメンテナンスは点検と併せて定期的に実施していくことが必要です。自動車の車検制度のように、必ず実施しなくてはならないものではありませんが、建物と資産を守る大切な行為であること、日常のこまめなメンテナンスが維持管理コストを下げることから、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいものです。しかし、その管理が個人では大変であることも確かです。
そうなると大切なのが、建築のプロを味方に付けるということです。点検の中には、屋根や天井裏、床下までのチェックが必要です。新築やリフォームを依頼した店や、維持管理サービスを行う事業者など、自宅の困りごとに対処してくれる工務店やビルダー、リフォーム店などの事業者を見つけることが大切です。ぜひ、小さな困りごとでも面倒がらず、親身になってくれる「住まいのかかりつけ医」をつくり、相談相手になってもらいましょう。
これからリフォームを依頼する予定のある方は、工事後も親身になってくれるかを業者選びのポイントの1つにしてください。建物調査や診断を受け、建物の現状性能に応じた長期メンテナンス計画をつくってもらい、定期的な点検とメンテナンスを行っていくのがベストです。
建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
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