2019年前半、新築供給と契約は低迷、中古は活況
購入者は、立地や設備などを総合的に判断

アナリストが分析、マンション市場の展望(2019年後期)

この記事の概要

  • 2019年前半の新築分譲マンションの供給戸数は、かつてないほど少なくなりました。それにも関わらず、初月契約率は高くなっていません。一方、中古マンション市場は活況です。そうしたマンション市場の変化の要因を、日本不動産研究所の不動産エコノミストに分析していただき、今後を展望していただきました。

消費税率アップを控えた2019年前半、マンション市場はどのような動きを見せたのでしょうか。さらに2019年後半以降はどのような変化を見せるのでしょうか。日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに分析、展望していただきました。

吉野氏

「東京圏では、立地のいい中古マンションの価値が見直されている」と話す吉野氏

前回、「2019年のマンション市場は凪(なぎ)の状態が続く」と分析していただきました。実際の2019年前半の動向はいかがでしたか。

吉野:2014年に消費税率がアップした際には、駆け込み需要とそれを狙った供給増がありました。それに対して、今回の消費税率アップでは、駆け込み需要はほとんど生じず、それを狙った供給増もないのではないかと私は見ていました。そうしたことから、市場動向はそれほど活況ではなかった2018年と変わらないと考えて「凪」という表現をしました。ところが、2019年前半の新築分譲マンション市場は、2018年前半よりも冷え込んでしまいました。

それが顕著に表れたのが、2019年前半の新築マンション供給戸数です。前年同期よりも13%も減少し13,466戸になってしまいました。これはマンション市場の統計上、最も少ない戸数です。これだけ戸数が少なく、消費税率アップを控えているとなれば、初月契約率は高くなってもおかしくありませんが、東京圏においては好調の目安とされる70%を下回っています。

どうして、このような状況になったのでしょうか

吉野:マンションデベロッパーのビジネススタイルの変化が影響していると思います。かつてマンションデベロッパーは、規模の利益を追い、販売戸数を競っていました。少しでも多くのマンションを建ててようと、無理をして明らかに高めでも用地を仕入れるケースも珍しくありませんでした。その物件で利益がでなくても、マンション事業全体で利益が出ればいいという考え方さえあったのです。しかし、近年は、物件1つ1つで採算を考え、利益が出そうもない物件は手掛けないという姿勢に変わりました。そうなると、地価が高騰して、好立地のマンション用地が少なくなっている今、供給戸数は少なくなって当然です。

しかも、マンション需要の大きい東京都心においては、地価高騰と建築費上昇のダブルパンチで、販売価格は高く設定するしかありません。そうなると購入層が限られてしまいます。親の援助でもない限り、一次取得者には購入は難しいのですから、むやみ供給数を増やすことはできないのです。

初月契約率の低迷の一因は、デベロッパーの資金調達環境が良好なこともあると思います。近年、マンション市場は大手デベロッパーの供給比率が高まっています。そうした大手は、低金利で開発資金を調達できます。つまり、値下げしたり、サービスを増やしたりして、採算性を悪くして急いで売り切る必要がなくなっています。初月契約率にこだわらす、計画通りの利益が上げられるように時間をかけて売っていく余裕がデベロッパーにあるのです。

2019年後半以降も新築供給が少ない状況は変わらない

そうした状況を考慮すると、2019年後半以降の新築マンション供給はどうなるでしょうか

吉野:少なくとも、地価高騰が激しく、用地仕入れも難しい東京都心では、2019年後半以降もそれほど供給は増えないのではないでしょうか。もちろん、東京五輪の選手村などの分譲が始まるといった特殊要因は別の話としてですが。前にも解説していますが、東京五輪後も、東京都心の地価が下落する可能性は少なく、建築コストも大幅に下がる可能性は少ないというのが私の予測です。ですから少なくとも、東京圏においてはデベロッパーの供給姿勢は、あまり変わらないと考えています。かつてのような大量供給は、しばらくはないと思います。

新築の供給戸数は減少していますが、マンション需要はそれほど減っているようには思えません。その需要はどこに向かっているのでしょうか。

吉野:中古マンションに流れていると思います。首都圏では2016年から3年連続して、中古マンションの成約件数が新築マンションの販売戸数を上回っています。2019年も、1月~6月の中古マンションの成約件数は19,947件でしたから、新築マンションの供給戸数をかなり上回っています。この大きな要因は、前にも説明しましたが新築マンションの販売価格が上がりすぎて、一般の購入者には手が届かなくなってしまったことがあります。中古マンションもかなり値上がりしてしまいましたが、新築と比べるとまだ買いやすい水準です。特に立地のいい中古マンションの人気がかなり高くなっているようです。

東京圏においては、立地のいいマンション用地が、近年は非常に少なくなっています。したがって立地を重視すれば、現在分譲中や計画中の新築マンションよりも中古マンションの方が魅力的に感じるのではないでしょうか。設備面では、中古が新築よりも劣るケースがありますが、築10年くらいまででしたら、それほどのレベル差はありません。それ以前の物件でも、耐震性といった基本性能が劣るケースを別にすれば、リフォームによって対応できることが購入検討者には理解されています。「どうしても新築でないといやだ」という心理的なこだわりから抜け出して、立地、設備、価格といった要素を総合的に考えて、合理的な判断として中古マンションを購入する層が増えているのだと思います。

これからは地方で新築マンションが増える可能性も

これまで、ご説明いただいた内容は、地価高騰が激しかった東京圏を念頭においたものだと思います。それ以外の地域のマンション市場の動向はいかがでしょうか。

吉野:2019年前半、東京圏以外のマンション供給戸数は、前年同期とあまり変わっていません。東京圏と比べると、多少の上昇はあっても土地の価格水準がそれほど高くなっていないので、一般の方々も購入できる価格でマンションの企画が成り立つからだと思います。そして、私は今後、東京圏よりも地方圏でマンション供給が活発になる可能性があるとさえ考えています。

これでまで地方圏では、多少、駅から離れていても、土地付きの大きな一戸建てが好まれる傾向がありました。車が一家に一台ではなく、一人に一台といった傾向さえあるのですから、駅からの距離は生活利便性にはあまり関係がなかったのです。しかし。地方圏では高齢化が進む中で、自動車による利便性ではなく、駅前の利便性が見直されるようになりつつあります。いわゆる「コンパクトシティ」のコンセプトです。

高齢者も駅から離れた大きな一戸建てに住むより、駅近くのマンションで暮らしたほうが便利なのではないかと考える層が増えています。そうしたほうが病院や高齢者施設も利用しやすいのは明らかです。若い層も、一戸建てにこだわらず駅近くのマンションを選んだほうが子育てなどの面で便利で、楽しく暮らせると考えるケースが少なくないでしょう。つまり、地方圏におけるマンションの潜在需要は大きく、それがこれから顕在化していくと思われます。

最後に2019年後半以降のマンション市場の展望についてまとめていただけますか。

吉野:消費税率のアップによる景気後退や、東京五輪開催後のインバウンド需要の縮小などの影響で、来年以降、不動産価格が下落する可能性を考えて、現在は様子見をしている方もいらっしゃると思います。ただ、私は、現時点では、来年以降、そういう方の期待通りにはならず、不動産価格が顕著に下落する可能性は少ないと予測しています。現在、不動産価格は、金融市場の状況と密接に関係しています。世界的にみて金融環境が悪化して、日本の市場金利が上昇しない限り、日本の不動産価格も大きな変動は考えにくいのです。

そうなると、マンションデベロッパーのビジネス戦略も大きな変化はないでしょう。地価が高騰しすぎた地域での新築分譲マンションの供給戸数は、低迷が続く可能性が高くなります。そうなると、中古マンションにも目を向けたほうが、選択肢は多くなることは明らかです。ただし、新築マンションと比べると中古マンションは、個別性が強いので注意してください。同じマンションでも、従前の使い方次第で、設備や内装のコンディションが大きく異なるなど、新築マンションよりもチェック項目が増えます。新築マンションなら分譲価格が用意できるかどうかだけが問題ですが、中古マンションでは、リフォーム済みの物件以外は、リフォームの必要性や費用も考えなくてはなりません。信頼のおける不動産会社や建築会社とともに慎重に検討しましょう。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。