アナリストが分析、マンション市場の展望(2019年)
- 2018年の新築分譲マンションの供給戸数は、首都圏、近畿圏ともに前年を上回りました。ただ、首都圏の初月契約率は好調の目安となる70%を大きく下回る62.1%に留まり、74.5%の近畿圏と明暗が分かれました。こうした状況を受けた2019年のマンション市場の分析と展望をアナリストに語ってもらいました
2018年の新築分譲マンションの供給は、2017年よりも増えましたが、長期的に見れば低水準が継続しました。しかも、首都圏では初月契約率が好調の目安となる70%を大きく下回りました。そうした状況を受けて、2019年前半のマンション市場はどうなったのか、そして、後半はどうなるのかについて、日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに分析、展望していただきました。
「2019年のマンション市場に大きな変化は見られない」と話す吉野氏
2019年の新築分譲マンション市場を分析していただく前に、まずは2018年の振り返りをお願いできますか。
吉野:2018年の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築マンション供給戸数は3万7132戸で、2017年を3.4%上回りました。ただ、長期的に見ればかなり低い水準が続いています。近年で4万戸を下回ったのは、リーマンショックの影響を受けた2009年(3万6376戸)と2016年以降の3年だけです。
このように低調な供給が続いたにもかかわらず、初月契約率が好調の目安とされる70%を大きく下回る62.1%になってしまいました。2017年の初月契約率は68.1%でしたから、6ポイントも下落したことになります。11月と12月の供給戸数を合わせると年間の約3割に相当します。その初月契約率が、それぞれ53.9%、49.4%にまで落ち込んでしまいました。そのため、年間の初月契約率がかなり低くなってしまったのです。
契約率が低くなっている要因として、価格の上昇が続いていることが挙げられます。2018年の首都圏の平均分譲価格は5871万円で、前年より0.6%低くなりました。ただ、このデータからマンション価格が下落したと判断するのは早計です。実は1㎡当たりの単価は86万9000円で前年より1.2%上昇しているのです。2018年は1戸当たりの面積が小さくなった結果、平均分譲価格が下がっているだけです。ちなみに東京23区に限ると、1㎡当たりの単価は113万8000円で、前年よりも5.1%も上昇しています。
2018年の近畿圏の新築分譲マンション市場の状況はどうだったのでしょうか。
吉野:2018年の近畿圏の供給戸数は2万958戸でした。2万戸を超えたのは2013年(2万4691戸)以来です。首都圏との大きな違いは、契約率も好調なことです。2018年の契約率は74.5%で、2017年の76.1%を若干下回りましたが、高い水準といえるでしょう。
契約率が高水準を維持している要因として、首都圏と比べると価格水準が低いことが挙げられます。2018年の近畿圏の平均分譲価格は前年比0.2%増の3844万円でした。首都圏平均の約65%の水準です。
2019年1~4月、戸数は減少したが、好立地物件が増加
そうした2018年の新築分譲マンション市場の状況を受けた2019年前半、どのようになりましたか。
吉野:2019年1~4月、首都圏に関しては、分譲戸数が前年同期よりも13.6%も減少しています。そして、契約率が70%を上回ったのは3月だけで、売れ行きも好調とはいえません。価格は上昇傾向が続き、1㎡当たりの単価が2月以降90万円を超えています。
ただし、価格上昇については、考慮すべき要因があります。最寄り駅からのアクセスのよい物件の販売が目立っているのです。最寄り駅からの所要時間は、2019年の1月~4月の分譲物件の月間平均値は、それぞれ6.3分、6.1分、6.3分、6.4分でした。2018年の同期は、6.8分、6.8分、6.5分、6.8分でしたから、比較すると好立地の物件が多かったことは明らかです。こうなると分譲価格は高くなって当然です。
つまり、戸数は減ったが好立地物件の供給が目立ったということですね。それでは近畿圏の2019年の市場動向はいかがでしょう。
吉野:近畿圏も、1~4月の供給戸数は前年同期よりも減っています。減少率は首都圏よりも大きく27.7%に達しています。初月契約率は、ずっと70%を超え3月は80.6%になるなど販売の好調は持続しています。首都圏と異なり、価格の上昇傾向も目立ちません。
ただし、立地に関しては首都圏とは逆の傾向になっています。2019年よりも最寄り駅までの平均時間がかなり伸びています。その意味では、近畿圏では、2018年よりも立地の劣る物件が増えているのに価格水準は変わっていない、つまり実質的には価格が上昇していると見るべきなのかもしれません。
2019年の供給戸数は前年並みに、価格は高水準が続く
こうした前半の動向から今後、2019年、後半、新築マンション市場はどのようになると見ていますか。
吉野:首都圏も近畿圏も、年間で見れば供給戸数は2018年並みになると予想しています。つまり、後半は供給戸数が前年よりも増加傾向になると見ています。価格は上昇傾向が続き、高止まりのまま。現状では下落する要素はほとんどありません。
上昇傾向という弱い風は感じるかもしれませんが、2019年の分譲マンション市場は、ほぼ無風の「凪(なぎ)」の状態が続くと見ています。2018年から大きな変化が起こる可能性はあまりないということです。
マンションデベロッパーが一番力を入れている首都圏で、初月契約率の低迷が続いています。その影響はありませんか。また10月に控える消費税率アップの影響はどうでしょうか。
吉野:現在の金融市場の状況では、資金調達の金利が低くなっているので、マンションデベロッパーに余裕があり、値下げをして利益率を低くしてまで急いで販売する必要がなくなっています。初月契約率が低くても時間をかけて売り切ればいいのです。
首都圏の新築分譲マンション市場では、大手デベロッパーのシェアが上昇傾向です。2018年は上位20社で73%にもなっています。大手デベロッパーは資金調達に困ることが少ないので、あわてて売り切る必要はありません。土地価格も建設費用も高止まりしている中で、そうした大手デベロッパーがあえて価格を下げることは考えられません。
10月の消費税率アップに関しても影響はあまりないと見ています。過去の消費税率アップの時のデータを調べても、分譲マンション市場への影響は、それほど大きくはありませんでした。今回は、税率アップによる景気対策として、住宅購入に対する優遇措置が充実していますから、影響は軽微でしょう。
中古マンションは今後の優良ストック増に期待
最後に中古マンション市場の動向について解説していただけますか。
吉野:首都圏では、2016年、中古マンション成約件数が前年よりも6.9%も伸びて3万7189件となり、新築マンション供給戸数を史上初めて上回りました。しかし、その後、成約件数は伸び悩んでいます。2017年は0.4%増に終わり、2018年に至っては0.3%減少してしまいました。2019年も同水準が続くと予測しています。
こうなっている大きな要因は、中古マンションもかなり価格が上昇してしまったことにあると分析しています。2013年に成約した中古マンションの1㎡当たりの単価は40万円を切っていましたが、2017年には50万円を突破、2018年は51万6100円にまで上昇してしまいました。中古を選ぶ大きな理由は価格が割安なことです。それが感じられなくなれば中古市場は魅力を失います。
とはいえ、最近は、国が中古住宅の流通促進を図り、様々な政策を打ち出しています。それでも、成約件数が伸び悩んでいる要因として考えられるのは、良質なストックが不足していることではないでしょうか。築年数が古いマンションは、耐震性、省エネ性などの基本性能で、最近のマンションに劣るケースが目立ちます。リフォームによって改善できる内装や設備ならともかく、基本性能が劣る中古マンションが売りに出されても、購入希望者は少なくなります。近頃は基本性能が高い良質なマンションの分譲が増加しています。それがストックの主流となれば、もっと中古マンション市場は活性化するでしょう。