新型コロナで変わる住宅ローン、ネットの活用が必須に

ファイナンシャルプランナーが解説、住宅ローン金利の動向(第6回)

この記事の概要

  • 新型コロナウイルスの感染拡大は多くの分野に甚大な影響を与えました。もちろん住宅ローン分野にも大きな影響があり、それに対応する動きが出て来ています。ファイナンシャルプランナーの平井美穂さんに、新型コロナウイルスが住宅ローン分野に及ぼした影響と、それを受けて今後、住宅ローンを利用する際に、意識すべきポイントを解説していただきました。平井さんは、インターネット活用の重要性と、ローン利用者自身の自習の重要性を指摘します。

平井美穂さん

6月、本コラムにてファイナンシャルプランナーの平井美穂さんに、新型コロナウイルス感染拡大への対応として、住宅ローン見直しを提案していただきました。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、住宅ローン分野がどのような影響を受けたのかを解説していだだくとともに、アフターコロナをにらんで、今後、住宅ローンをどのように利用していけばいいのか、そのポイントを説明していただきました。

7月以降、住宅ローン需要は回復を見せている

まず、2020年、これまでの住宅ローン分野の動向を教えていただけますか。

平井:新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した3月以降、一気に住宅ローン需要は減りました。そして、4月~6月くらいまでは、新規に住宅ローンを借りる方は少なく、既に住宅ローンを返済中の方が、返済額を減らすための見直しなどについて考えるケースが目立ちました。その後、ようやく7月に入って動きが回復し始め、8月はほぼ例年の状況に戻ってきたイメージです。このコラムでも、何回も説明していますが、住宅取得は、結婚や出産など「ぜひこの前後のタイミングで」という時期が必ずあります。3月以降、一旦、検討をストップした方も、我慢しきれなくなって動き始めているようです。

そうした住宅ローン利用者の動向に対して、事業者側の動きはどのようなものでしたか。

平井:事業者側も、自分たち自身がテレワークなど新しい働き方に対応しなくてはならいこともあって、6月くらいまでは、既存の住宅ローン利用者へのフォローに力を注ぐだけで手一杯でした。クラスターの発生を抑えなくてはいけませんから、従来のように住宅ローンセミナーや相談会といったイベントを開くわけにはいきません。信用を第一に考えるメガバンクが行ったイベントでクラスターが発生したら、それこそ大問題ですから、積極的な営業は極力避けなくてはならなくなったのです。

ただ、このように借り手や貸し手の動きが大きく変わる中で、住宅ローンの金利自体は、8月まで、それほど動いていません。住宅ローン金利に影響を及ぼす短期プライムレートなどが、安定しているからです。この点については、現在、住宅取得、住宅ローンの活用を検討している方も多少、気分が楽になるのではないでしょうか。

ようやく回復しつつある住宅ローン需要ですが、その動向に何か変化はありますか。

平井:昨年あたりから、ネット銀行の住宅ローンの動きが注目されていますが、最近は、メガバンクもネット専用の住宅ローンに力を入れています。さきほども説明した通り、メガバンクなど金融機関は、従来は支店ごとにセミナーや相談会を開催して集客をしてきました。その方法が新型コロナウイルスの影響により、まったく実行できなくなったことを、カバーする目的があるのは確かですが、金融機関にとってはそれだけが動機ではなく、もっと大きな事業戦略の一部と考えられます。

金融機関は収益確保が難しくなる中、店舗を減らし、人員を削減するケースが目立っています。そんな中で、各支店に、住宅ローンに詳しい従業員を配置するのは重荷になります。その対策として住宅ローンの相談受付は、住宅ローンセンターなどを設けて集約し、コストを削減する動きがありました。今後、ネットの活用を進めていけば、さらにコスト削減が図ることができます。したがって、メガバンクなども今後、ネットを活用した住宅ローンの提供に、さらに力を入れていく可能性が高いと思います。

ネット住宅ローンと従来の住宅ローンの違いとは

そうなると、住宅ローンを検討する場合、どういう対応が必要になりますか。

平井:ネット専用の住宅ローンは、事業者がコストを切り詰めることによって、金利を安く設定しているケースが多いので、利用者にとっては魅力的です。返済額を少しでも減らしたい場合、ぜひ活用を検討すべきです。ただし、現状では、ネット専用の住宅ローンの利用を検討する場合、いくつか注意点があります。

まず、ネット専用の住宅ローンは対象者を絞っているケースが多く、審査が厳しい場合も少なくないということです。個人事業主を対象とせず、給与取得者(サラリーマン)でなければ利用できない場合が少なくありません。審査も「スコアリング」という一律の基準による手法が基本になるため、利用者の個別事情が考慮なされないケースも目立ち、私が相談を受けたローン希望者でも審査で落ちてしまうケースが、一般的な住宅ローンよりも多くなっています。今後、ネット専用の住宅ローンのシェアが上昇していけば、こうした対応も変わる可能性がありますが、しばらくは利用にはそれなりのハードルがあることを覚えておきましょう。

そうした条件を満たし、利用できそうな場合、ほかに注意点はありますか。

平井:とにかく注意点していただきたいのは、ネット専用住宅ローンを使う場合には、住宅ローンに関する“自習”をあらかじめしっかりやり、表示された情報を面倒がらずにしっかり確認して契約していく必要があるということです。

従来のような住宅ローンの基礎知識を教えてくれるセミナーや相談会は激減しています。住宅ローンの基礎知識を自分で勉強し、「変動金利と固定金利の違いは」などといった情報を身に着けなければ、自分に合った住宅ローンは選べません。

また、対面で説明を受けながら借りる場合、説明員は「この方は、この点について分かっていなそうだ」と敏感に察知し、のちのちトラブルにならないようにくわしく説明してもらえました。それがネットだと、表示された説明をしっかり読まずに適当にチェックして進めて、後で後悔することになりかねません。とにかく契約条件をしっかり読んで、少しでも疑問があればメールなどできちんと問い合わせるべきです。その疑問を持つためにも、一般的な住宅ローンの基礎知識の自習が欠かせないのです。

もう一つ非常に注意しなくてはならいのが審査期間です。一般的にネットを活用したサービスは、従来型のサービスよりもスピーディーな対応をしているケースが目立ちます。しかしネット専用住宅ローンの場合は、従来型の住宅ローンよりも審査に時間がかかり、いくら「急いでいるから短くして」と依頼しても短縮できないケースが少なくありません。それなりに余裕を持った期間設定が必要になります。

やはり、従来型の住宅ローンを借りる必要がある場合でも、ネットの活用が不可欠です。従来型の住宅ローンを扱う金融機関でも、ネットを利用したセミナーを開催したり、WEB会議システムやチャットを使った個別相談を実施していたりするケースが増えています。外出を控えつつ、多くの情報を集め、比較するにはこうした機会を生かすべきです。ですから、今後、住宅ローンを借りるに当たって損をしないためには、ある程度のネット・リテラシーが必須になると思われます。

解説

平井美穂さんのプロフィール

大学卒業後、マンション販売会社に勤務。その後、金融機関に転職をし、都市銀行およびモーゲージバンクにて融資業務・資産運用相談を専門とする企業系ファイナンシャルプランナーの仕事に携わる。出産を機に退職し、独立系ファイナンシャルプランナーとして住宅ローンのアドバイスを中心に活動。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年9月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。