2020年税制改正大綱、住宅購入・売却への影響は軽微

税制改正大綱に関するトピックス

この記事の概要

  • 2020年の税制改正大綱が発表されました。企業や個人に対して投資を促す改正項目が目立つ中、住宅の購入や売却に直接大きな影響を及ぼす項目は盛り込まれませんでした。その中でも、いくつかある不動産関連項目を解説。さらに、2020年の住宅購入・売却で覚えておきたい特例や制度を再確認します。

2020年税制改正大綱、住宅購入・売却への影響は軽微

2020年の税制改正には、持続的な経済成長の実現に向けて、企業に対して投資や賃上げを促すための措置や、連結納税制度の抜本的な見直しをなどが盛り込まれています。また個人の投資をより拡大するため、NISA (少額投資非課税)制度の見直しが含まれています。

ただ、不動産関連では、一般的な住宅の購入・売却に大きく影響する項目はありませんでした。それでも、行き過ぎた節税を防ぐ見直し、所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応、配偶者居住権に関する課税の明確化など、いくつかの不動産関連項目はあります。今回、それらを解説するとともに、これまでの税制改正の結果、2020年の住宅購入・売却に適用される重要な項目をまとめます。

行き過ぎた節税を防ぐ項目が目立つ

2020年税制改正大綱の不動産関連で目に付くのは、行き過ぎた節税を防ぐ項目です。例えば次のような項目が挙げられます。

居住用財産の譲渡特例等を適用した場合における住宅ローン控除の適用要件の見直し

住宅ローン控除は、マイホームを取得して、その後6か月以内に居住した場合において、返済期間10年以上の住宅ローンがある等の一定の要件を満たすときは、居住年から10年間(諸条件を満たせば13年間)、各年末の住宅ローン残高に応じて毎年一定額を所得税から控除できる制度です。

新規住宅に居住した年から3年目に従前住宅等を譲渡した場合においても、下記の特例の適用を受けるときは、住宅ローン控除の適用が受けられないこととなります。従来から、1年目、2年目は特例の適用と住宅ローン控除の適用を併用することはできませんでしたが、3年目は併用が可能でした(4年目以降はもともと特例が適用できないので住宅ローン控除だけでした)。それを狙って3年目に売却するケースがあったので、その穴をふさいだわけです。この取り扱いは、2020年4月1日以後に従前住宅等の譲渡をする場合について適用されます。

  1. 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例
  2. 居住用財産の譲渡所得の特別控除
  3. 特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例
  4. 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例

国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例

国外中古建物を賃貸し、不動産所得を有する場合に、不動産所得の金額の計算上、損失の金額が生じたときは、その国外中古建物の減価償却費に相当する金額は、生じなかったものとみなされます。2021年以後の各年において、国外中古建物から生ずる国外不動産所得の損失について適用されます。この特例は、海外不動産投資の行き過ぎた節税を防止する目的があると思われます。

国外財産調書制度の見直し

現行の報告義務に加えて、海外にある預金の入出金、不動産の購入売却、賃貸借などの取引実態のわかる情報の保管が求められます。保管は義務ではありませんが、提出を求められた時に、提示できなければ厳しい調査をうけ、以下のように税負担が重くなります。これも海外不動産投資による節税の対策といえるでしょう。

  1. その国外財産に係る過少申告加算税等の軽減措置は適用しない
  2. その国外財産に係る過少申告加算税等が従来の5%から10%に割増加重される

居住用賃貸建物の所得等に係る消費税の仕入れ税額控除

「居住用賃貸建物」の課税仕入れについては、仕入税額控除の適用を認めないことになります。ただ、居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については引き続き仕入税額控除制度の対象になります。これは国内の不動産投資において、この税額控除を節税に利用するケースが目立つことから、大綱に盛り込まれた項目です。

未利用土地、所有者不明土地への対応を盛り込む

行き過ぎた節税封じ以外の不動産関連項目には以下のようなものがあります。

低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除

所有期間が5年を超える都市計画区域内にある低未利用土地等を500万円以下で譲渡した場合、その年中の低未利用土地等の譲渡に係る長期譲渡所得の金額から100万円(当該長期譲渡所得の金額が100万円に満たない場合には、当該譲渡所得金額)を控除することができます。土地基本法等の一部を改正する法律(仮称)の施行の日又は令和2年7月1日のいずれか遅い日から令和4年12月31日までの間に譲渡した場合について適用する。

配偶者居住権等に係る譲渡所得の取扱い

配偶者居住権及び配偶者敷地利用権が合意解除や放棄によって消滅等をし、配偶者がその対価を受け取る場合、譲渡所得として課税されることが明確化されました。また、配偶者居住権等が設定されている土地や建物を相続人が譲渡した場合、譲渡所得の計算上控除する取得費の計算方法が明確化されました。2020年(令和2年)4月1日以後に消滅等又は譲渡から適用されると思われます。

所有者不明土地等に係る課税上の課題への対応(現に所有している者の申告の制度化)

登記簿上の所有者が死亡している場合、市町村長は条例によりその土地や家屋を所有している者に固定資産税の賦課徴収に必要な事項を申告させることができるようになります。なお、固定資産税における他の申告制度と同様の罰則が科されます。2020年(令和2年)4月1日以後の条例の施行日後に現所有者であることを知った者について適用されます。

使用者を所有者とみなす制度の拡大

調査をしても固定資産の所有者が1人も判明しない場合、その土地や家屋の使用者に通知をしたうえで使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課せられるようになります。2021年(令和3年)度以後の年度分の固定資産税に適用されます。

登録免許税などの軽減措置や買替特例の延長

以下のような税金の軽減措置や買替特例の延長が大綱に盛り込まれています。これらは住宅取得・売却時のメリットを与えてくれます。

登録免許税の軽減措置

  1. 住宅用建物の所有権保存登記等、抵当権等の設定登記の軽減
  2. 特定認定長期優良住宅の所有権保存登記等の軽減
  3. 認定低炭素住宅の所有権保存登記等の軽減

現行のまま2022年(令和4年)3月31日まで2年間延長。

印紙税の軽減措置

不動産譲渡の契約書に係る印紙税の軽減

現行のまま2022年(令和4年)3月31日まで2年間延長。

固定資産税の軽減措置

  1. 新築住宅の税額が2分の1となる軽減。
  2. 新築認定長期優良住宅の税額が2分の1となる軽減
  3. 耐震改修を行った住宅の軽減
  4. バリアフリー、省エネ改修を行った住宅の軽減

現行のまま2022年(令和4年)3月31日まで2年間延長。

不動産取得税の軽減措置

  1. 住宅用土地取得後、住宅新築までの経過年数要件を「2年以内」に代えて「3年以内」とする特例
  2. 新築認定長期優良住宅の控除額を1200万に代えて1300万とする特例

現行のまま2022年(令和4年)3月31日まで2年間延長。

買替特例(特定の居住用財産の買換特例、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除、特定事業用資産の買換特例)

  1. 特定の居住用財産の買換特例
  2. 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除
  3. 特定事業用資産の買換特例

①及び②は2021年(令和3年)12月31日まで2年間延長

③の特定事業用資産の買い替え特例に関する規定は1号から8号まであり、 それぞれ一部見直しの上、適用期間が延長されます。主に活用される7号 ついては、2023年(令和5年)3月31日まで延長。1号、2号、4号、5号、8号 は2023年(令和5年)12月31日まで延長。3号、6号は2021年(令和3年)3月31 日まで延長されます。

現状の税制は住宅取得に追い風に

最後に2020年の住宅取得で利用可能な主な優遇措置や助成制度などをまとめました。

住宅取得等資金贈与税の非課税枠は最大3,000万円

<契約締結期間別の非課税枠>

住宅用家屋の取得に係る
契約の締結期間
①消費税10%で取得 ②①以外
良質な
住宅用家屋
左記以外 良質な
住宅用家屋
左記以外
~2015年12月 1500万円 1000万円
2016年1月~2019年3月 1200万円 700万円
2019年4月~2020年3月 3000万円 2500万円 1200万円 700万円
2020年4月~2021年3月 1500万円 1000万円 1000万円 500万円
2021年4月~2022年3月 1200万円 700万円 800万円 300万円

住宅ローン減税の控除期間(10年間)が3年延長(最大、建物税抜購入価格の消費税2%分減税)

2019年(令和元年)10月1日から2020年(令和2年)12月31日までに入居する住宅

※ 建物対価等の額に含まれる消費税率が10%の場合に限ります。

すまい給付金の対象者と金額の拡充

  • ・所得制限の緩和による対象者の拡充
    (収入額(目安)で、現行の510万円以下が775万円以下に)
  • ・給付額が現行の最大30万円から最大50万円に引き上げ

消費税率10%が適用される新築・中古住宅の取得で、2021年(令和3年)12月末までに引渡を受け、入居した方が対象となります。

※ 住宅ローン利用・現金取得のいずれの場合も対象

次世代住宅ポイント制度の創設(新築最大35万円相当・リフォーム最大30万円相当)

  • 〇一定の省エネ、耐震性、バリアフリー性能を満たす住宅や家事負担の軽減に資する住宅の新築やリフォームに対し、商品と交換可能なポイントを付与
  • 〇若者・子育て世帯がリフォームを行う場合にポイント特例あり

消費税率10%が適用される新築住宅の取得、リフォームで、2020年(令和2年)3月までに契約締結等をした方が対象となります。

協力・監修

東京シティ税理士事務所:不動産を所有する方の相続と不動産税務を専門とする多数の税理士が所属する税理士事務所。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※内容につきましては、「令和2年度税制改正大綱」に基づき、一般的な概要をまとめたものです。
そのため、今後国会に提出される予定の法案等において本記事に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。