懸念材料はあるが「適温相場」の継続がメインシナリオ

不動産エコノミストが解説 2019年不動産市場展望

この記事の概要

  •  2018年も残り少なくなりました。消費税の税率アップが予定されている2019年不動産市場はどうなるのでしょうか。不動産エコノミストの吉野薫さんに展望を語っていただきました。吉野さんは、2018年と同じく「適温相場」が続く可能性が一番高いと見ていますが、2017年末よりも懸念材料が増加していると指摘します。

2018年も終わりも迎え、2019年の不動産市場の行方が気になる方も増えているでしょう。国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に詳しい、日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに、2019年の日本の不動産市場の展望を解説していただきました。

不動産エコノミストを務める吉野薫さん

マクロ経済のデータから見る限り、2018年の状況と大きく変化する可能性は少ないと分析する吉野氏

まず、2018年の日本の不動産市場の状況を振り返っていただけますでしょうか?

吉野:2018年の状況は「適温相場」という表現がふさわしいと思っています。市場は過熱もしませんでしたし、冷え込みもしませんでした。若干の上昇傾向は、いうなれば「ちょうどいい湯加減のお風呂」のイメージです。

実は、この状況は2012年ころから続いています。マクロ経済の視点でみると、日本経済の好景気が続いていることが反映しています。好景気の要因をデータで分析すると世界同時景気回復の影響で、日本の輸出が好調なことが大きく寄与しています。それに最近は、インバウンド需要が大きくなっていることも要因になっています。

「適温相場」ということですが、最近の不動産価格の水準は、かなり高くなっている気がしますが?

吉野:確かに、東京の都心部や大阪の商業地など地価上昇が顕著な地域はあります。しかし、それは実需がある限られたエリアだけの現象です。バブル期のように日本全国すべてが上昇しているわけではありません。

例えば、東京都心の地価動向は、オフィス需要の影響を強く受けます。現状、オフィス空室率は下落していますから、スペース不足から賃料が上昇し、オフィスビルの建設意欲が高まり、地価上昇につながるという、“健全”な動きなのです。それに加えて、海外からの旅行者の急増によるホテル需要の拡大もあるのですから、東京都心の地価は上昇するわけです。とはいえ、これらは事業収支を踏まえた投資になるので、過熱しているとはいえません。

東京都心などは住宅価格もかなり上がってしまいました。

現在の東京の高級住宅地のマンションの価格を見ると高くなりすぎたように感じるかもしれません。それでも世界の大都市の高級住宅地のマンション価格と比較すると、けっして高い水準ではありません。だからこそ海外からの投資も行われます。このように視野を広げると、東京都心などの地価がバブル期のようなおかしな価格形成にはなってはいないことが分かります。

世界主要都市の高級住宅街におけるマンション単価の比較(元麻布=100、2018年)

世界主要都市の高級住宅街におけるマンション単価の比較(元麻布=100、2018年)

データ出所:日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」

またマンション事業者も、値付けを間違えると売れ行きが悪くなることを熟知しています。事業採算がとれる地価での用地取得が難しくなっていることから、高額でも需要が見込める都心部や、利便性の割にまだ地価が比較的安い場所での供給に傾斜しています。そうした物件なら、まだ「売れる価格」で販売できるからです。

そうした流れをうけて2019年の日本の不動産市場はどうなるのでしょうか?

吉野:マクロ経済の多くのデータを見る限り、一番可能性が高いのは、「適温相場」の持続です。

2019年、日本経済の基調が大きく変わる兆しは、現状では表れていないからです。

2018年同様の緩やかな上昇基調というのがメインシナリオといえるでしょう。

もちろん、このシナリオを崩す懸念材料がないわけではありません。その材料は前年同期、つまり2017年末よりも増えています。それらは基本的に日本の景気悪化を招き、不動産市場に影響を及ぼすことがらです。

まず、一番に挙げられるのは、米国と中国の貿易摩擦の深刻化です。それによって世界の貿易、そして世界経済が変調をきたせば、「適温相場」の一番大きな要因であった、日本の輸出が落ち込んでしまいかねません。次に考えられる懸念材料は金融面です。しばらくは低金利が続くと思いますが、その中で金融機関は経営の健全性の確保と収益力のアップに力を入れています。その手段として不動産市場向けの融資を絞れば影響は避けられません。3番目はインバウンド需要の落ち込み。これも中国の変調や国際的な緊張などがあれば起こりかねません。

懸念材料には挙げられませんでしたが、2019年、気になるのはなんといっても消費税の税率アップです。その影響は?

吉野:消費税率アップの不動産市況のへの影響はあまり大きくないと分析しています。前回2014年の税率アップの時にデータを見ると、前倒し需要が発生し、税率アップ後の需要の減少が見られますが、通算すると概ねイーブンになります。税率変更前の建築着工件数を見ても、一戸建て持家や貸家の件数は減少が顕著でしたが、分譲の一戸建てや共同住宅の減少は目立つほどではありませんでした。

税率アップ分、不動産取得に必要な費用が上昇するのは避けられませんが、景気への悪影響を緩和するため、住宅関連の減税などが行われる可能性も高くなっています。そうしたことを考えると、消費税の税率がアップするからといって必ずしも不動産購入を急ぐ必要はないと思われます。

2019年を乗り切ると、その先には東京五輪が控えています。

吉野:東京五輪後、不動産価格が下落するのではないかという見方があります。私は、前回の東京五輪後の東京の住宅地価格や、最近五輪を開催したシドニー、アテネ、ロンドンの住宅価格をチェックしましたが、開催前後で住宅価格に目立った落ち込みはありませんでした。ただ、五輪直後は、その国の経済成長が一時的に鈍化する傾向がみられましたから、その影響は一定程度あったかもしれません。

東京五輪後、建設需要が激減して景気に悪い影響を与えるという意見もありますが、私はその可能性も低いと思っています。東京都心を中心に五輪後に工事が行われる大規模プロジェクトが相次いでいます。開催前の施設建設がピークになる時期と比べると、人手や資材の需要は減少するかもしれませんが、著しい構造変化をもたらすほどの需給バランスの変化はないと考えるのが自然でしょう。

最後に2019年の展望を踏まえて、住宅購入希望者へのアドバイスをお願いします。

吉野:まずメインシナリオから外れず「適温相場」が続く場合、住宅価格は大幅上昇もしませんが、下落もしません。高止まりが続くイメージです。その場合、東京都心を中心としたマンション用地の取得難は続き、新築マンションの供給戸数は多くはなりません。

そうした状況でも、人生のステージによっては持家を取得したいと強く考えることがあるかもしれません。その際には、人気エリアの新築にこだわるべきではないと思います。

利便性は高いにもかかわらず、従来それほど注目されていないので手に届く範囲の価格で供給される物件を探したり、中古物件を購入してリフォームしたりすることを積極的に考えるべきでしょう。

また、できればメインシナリオから外れる兆候もチェックしておきたいものです。バブル期と大きく違うのは、日本の不動産市場が世界経済の一部に組み入れられていることです。米国と中国の貿易摩擦の行方など、世界経済の動向にも注目してください。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。