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所有者不明土地問題に対する政府の取り組みが本格化

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 2月号

この記事の概要

  • 所有者不明土地や空き家の増加が続いている。増加の主因は相続。
  • 所有者不明土地や適切な管理がなされていない空き家は、建物倒壊の危険性の増大、衛生面や治安の悪化、用地買収が必要な市街地整備の支障になるなどの問題を引き起こすと考えられる。
  • 今後、死亡者数は増加する見込みで、政府は所有者不明土地の適切な管理や利用が行われるよう、各種対策の推進を本格化。

1)所有者不明土地の動向

一般財団法人国土計画協会の所有者不明土地問題研究会によると、2016年度地籍調査を実施した1,130地区(563市区町村)の約62万筆における所有者不明土地(農地や林地含む)の割合は20.1%である※1。この数値を基に同研究会が推計した全国の所有者不明土地面積は約410万haで九州本島の土地面積(約367万ha)を上回る。所有者不明土地となった原因は相続による所有権移転の未登記が66.7%と全体の2/3を占め、今後高齢化によって死亡者数の増加が見込まれるため、所有者不明土地の増加を抑制する新たな取組がなされない場合、2040年には所有者不明土地は約720万haに達し、北海道本島の土地面積(約780万ha)に近づくとしている[図表1]。

※1:同研究会「所有者不明土地問題研究会 最終報告」(2017年12月)による。登記簿上の登記名義人(土地所有者)の登記簿上の住所に、調査実施者から現地調査の通知を郵送し、この方法により通知が到達しなかった場合に所有者不明土地としている。

2)空き家の動向

空き家は必ずしも所有者不明ではないが、所有者不明土地の予備軍となりうる。2018年の総務省「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は846万戸で総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%を占める[図表2]。空き家率は前回調査(2013年)の13.5%から0.1%ptの上昇にとどまったが、住宅の種類別の内訳をみると、賃貸用の住宅の空き家数がほぼ横ばいであったのに対し、その他住宅(賃貸用の住宅、売却のために空き家になっている住宅、別荘などの二次的住宅を除く)の空き家数は増加ペースは低下しているものの前回調査から10%近く増加している[図表3]。また、建て方別では、共同住宅の空き家数はここ10年ほぼ横ばいであったのに対し、一戸建ての空き家数は増加ペースは低下しているものの増加基調が続いている[図表4]。住宅・土地統計調査後に実施される国土交通省「空家実態調査」(最新公表は2014年調査)によると、一戸建ての空き家を取得した経緯は、相続が52.3%と過半を占め、その他住宅に限ると56.4%にのぼる。

[図表1]所有者不明土地面積の推計(全国)

[図表1]所有者不明土地面積の推計(全国)

データ出所:所有者不明土地問題研究会「所有者不明土地問題研究会最終報告」(2017/12)

[図表2]空き家数と空き家率の推移(全国)

[図表2]空き家数と空き家率の推移(全国)

データ出所:総務省「住宅・土地統計調査 2018年」(2019/4)

[図表3]種類別の空き家数の推移(全国)

[図表3]種類別の空き家数の推移(全国)

データ出所:総務省「住宅・土地統計調査 2018年」(2019/4)

[図表4]建て方別の空き家数の推移(全国)

[図表4]建て方別の空き家数の推移(全国)

データ出所:総務省「住宅・土地統計調査 2018年」(2019/4)

3)所有者不明土地問題に対する政府の取り組み

政府は所有者不明土地の適切な管理や利用が行われるよう、2018年6月に「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」を策定し、2020年までに必要な制度改正の実現を目指している。主な取り組みとして、公共事業等の目的で所有者不明土地の所有権の取得や利用権の設定を可能とする「所有者不明土地法」がすでに施行されている[図表5]。また、所有者不明土地の発生を抑えるため、相当努力しても譲渡等ができない一定の要件を満たす土地について、土地所有権の放棄を可能とする方策の検討が進められている[図表6]。

この他、所有者不明土地の固定資産税の賦課徴収を行いやすくするよう、所有者不明土地を使用している者を所有者とみなして固定資産税を課すことを可能とする課税見直しが決定している[図表7]。

※本稿で取り上げた各種措置は所有者不明土地問題に対する対策の一部です。また、本稿で取り上げた各種措置の詳細は各出所をご確認願います。

[図表5]所有者不明土地の利用を円滑化する措置(所有者不明土地法の施行)(施行済)

対策 概要 実施の時期等
所有者不明土地法(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法)の施行(2019/6に全面施行) 所有者不明土地の円滑な利用の促進 ・反対する権利者がおらず、建築物(簡易な構造で小規模なものを除く。)がなく現に利用されていない所有者不明土地について、公共事業における収用手続の合理化・円滑化(所有権の取得)および地域福利増進事業(例:公園、緑地、広場、駐車場)の創設(利用権の設定) 2019年6月1日施行
所有者探索の合理化 ・所有者の探索において、原則として登記簿、住民票、戸籍など客観性の高い公的書類を調査することとするなど合理化を実施 2018年11月15日施行
所有者不明土地の適切な管理 ・所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し財産管理人の選任等を請求可能にする制度を創設 2018年11月15日施行

出所:国土交通省「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年6月6日成立、6月13日公布、平成30年法律第49号)」、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法について(補足資料)」(2019/3)

[図表6]土地所有権の放棄を可能とする措置(民事基本法制の見直し)(現在検討中)

対策 概要(出所の資料が作成された時点の内容) 実施の時期等
土地所有権の放棄を可能とする法改正(2020年の法改正を目指す) ・土地の所有者は、次に掲げるような要件を全て満たすときは、土地の所有権を放棄することができるとする規律を設ける。なお、建物及び動産の所有権放棄の規律は設けない。
  1. ①土地の権利の帰属に争いがなく筆界が特定されていること。
  2. ②土地について第三者の使用収益権や担保権が設定されておらず、所有者以外に土地を占有する者がいないこと。
  3. ③現状のままで土地を管理することが将来的にも容易な状態であること。
  4. ④土地所有者が審査手数料及び土地の管理に係る一定の費用を負担すること。
  5. ⑤土地所有者が、相当な努力が払われたと認められる方法により土地の譲渡等をしようとしてもなお譲渡等をすることができないこと。
2020年に民事基本法制の見直しを行う予定

出所:法務省「中間試案(案)(第1部 民法等の見直し)」(法制審議会民法・不動産登記法部会第11回会議資料(2019/12/3開催))

[図表7]所有者不明土地の固定資産税の賦課徴収を行いやすくする措置(決定済)

対策 概要 実施の時期等
所有者不明土地の課税見直し(2020年度税制改正大綱に盛り込まれ、2019/12閣議決定) 現所有者に固定資産税の賦課徴収に必要な事項を申告させる ・市町村長は、その市町村内の土地又は家屋について、登記簿等に所有者として登記等がされている個人が死亡している場合、当該土地又は家屋を現に所有している者に、当該市町村の条例で定めるところにより、当該現所有者の氏名、住所その他固定資産税の賦課徴収に必要な事項を申告させることができることとする。 2020年4月1日以後の条例の施行の日以後に現所有者であることを知った者について適用
使用者を所有者とみなして固定資産税を課す ・市町村は、一定の調査を尽くしてもなお固定資産の所有者が一人も明らかとならない場合には、その使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができることとする。 2021年度以後の年度分の固定資産税について適用

出所:財務省「令和2年度税制改正の大綱 (令和元年12月20日閣議決定)」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成: 株式会社都市未来総合研究所 研究部

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