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2018年度の一棟賃貸マンションの売買取引の動向

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 5月号

この記事の概要

  • 2018年度に公表された一棟賃貸マンションの売買件数は145件、売買額は2,633億円となり、いずれも前年度(249件、6,670億円)に比べて大幅に減少した。
  • 前年度の大幅増加の要因となった大型ポートフォリオ案件6件(3,552億円)を除いても、売買額は約500億円の減少となった。

1)2018年度の一棟賃貸マンションの売買取引額は2012年度以来6年ぶりに3千億円を下回る

株式会社都市未来総合研究所の「不動産売買実態調査※1」によると、2018年度に公表された一棟賃貸マンション※2の売買取引件数※3は145件で、前年度(249件)に比べて42%減少した。売買取引額も2,633億円となり、2012年度以来6年ぶりに3千億円を下回った。前年度は、米国や中国の投資セクターが取得した大型ポートフォリオ案件※4の取引が成立したことが大きく寄与して、売買額はこれまでの最高水準(6,670億円)まで増加した。前年度のポートフォリオ案件6件(3,552億円)を除いても、売買額は約500億円の減少となった[図表1]。

投資対象物件が品薄の状況が続いていることや、低い取引利回りが定着化する中で売主と買主の価格目線が折り合わず取引が成立しにくい環境が続いていることなどが背景と考えられる。

2)J-REITは取得件数と取得額がともに減少したものの、買主としての存在感を示す

買主セクター別では、前年度増加したSPC・私募REIT(J-REIT以外の国内投資セクター)や外資系法人の取得件数は、前々年度の水準に戻り、建設・不動産(内訳をみると、ほとんどが不動産事業者)も減少が続いた。取得額ベースでは、前年度の大型ポートフォリオ案件6件のうち5件の買主であった外資系法人が約4千億円から大幅に減少して、2018年度は446億円となった[図表2、3]。

一方、J-REITは堅調な投資口価格を背景に資金調達が良好であること、スポンサーやブリッジファンドからの取得ルートを確保していることなどから、取得件数と取得額いずれも他のセクターを上回り、買主としての存在感を示した。ただし、取得件数と取得額ともに逓減しており、取引利回りの低下が物件取得の足かせになっている様子がうかがえる[図表2、3]。

3)建設・不動産の売却件数が前年度から半数以下に減少

売主セクター別では、J-REITのスポンサー企業として物件を供給する事例が多い建設・不動産の売却件数は増加傾向で推移していたが、2018年度は47件となり前年度(98件)の半数以下に減少した。外資系法人は、ポートフォリオ案件の売買額が多かった2014年度と2015年度、2017年度は大幅に増加したが、大型ポートフォリオ案件のなかった2018年度は256億円にとどまった[図表4、5]。

4)都心5区の売買件数が減少傾向で推移

物件所在地別の売買件数は、いずれの地域(地域区分は[図表6]の注を参照)も前年度に比べて減少した。特に、前年度大幅に増加した周辺18区とその他東京圏の売買件数は大幅に減少した。都心5区の売買件数は減少傾向で推移しており、2013年度には73件が2018年度は15件にとどまり、全体に占める割合も1割程度まで縮小した[図表6]。都心部において、低い取引利回りの定着化や投資対象物件の品薄状態の影響がより顕著に現れていると考えられる。

[図表1]1棟賃貸マンションの売買取引件数と取引額の推移

[図表1]1棟賃貸マンションの売買取引件数と取引額の推移

注:売買件数は大型ポートフォリオ案件も含む

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

※1:不動産売買実態調査は、「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)」に基づき東京証券取引所に開示される固定資産の譲渡または取得などに関する情報や、新聞などに公表された情報から、上場企業等が譲渡・取得した土地・建物の売主や買主、所在地、面積、売却額、譲渡損益、売却理由などについてデータ(概数の事例も含む)を集計・分析したもの。情報開示後の追加・変更等に基づいて既存データの更新を適宜行っており、過日または後日の公表値と相違する場合がある。また、本稿の集計では、海外所在の物件は除いている。

※2:主として一棟の賃貸マンションで、寮・社宅等を含む。

※3:複数物件を一括した取引で各物件の詳細が不明である取引は、1取引を1件として集計している。買主セクター別、売主セクター別、物件所在地別の集計についても同じ。

※4:本稿では、10物件以上かつ100億円以上の一括取引を大型ポートフォリオ案件として集計した。

[図表2]買主セクター別取得件数の推移

[図表2]買主セクター別取得件数の推移

[図表3]買主セクター別取得額の推移

[図表3]買主セクター別取得額の推移

注:図表2、図表3とも買主セクターが不明の取引は除く。

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

[図表4]売主セクター別売却件数の推移

[図表4]売主セクター別売却件数の推移

[図表5]売主セクター別売却額の推移

[図表5]売主セクター別売却額の推移

注:図表4、図表5とも売主セクターが不明の取引は除く

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

[図表6]物件所在地別売買件数の推移(左)と件数割合の推移(右)

[図表6]物件所在地別売買件数の推移(左)と件数割合の推移(右)

注:所在地の区分は次のとおり
・都心5区:東京都 千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区
・周辺18区:東京23区から都心5区を除く18区
・その他東京圏:東京23区を除く東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)
・大阪圏:大阪府、京都府、兵庫県、奈良県
・名古屋圏:愛知県、三重県、岐阜県
・その他(国内):東京圏、大阪圏、名古屋圏を除く国内各地域、複数物件の取引や所在地不明(国内)も含む。

データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成: 株式会社都市未来総合研究所 研究部

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