テーマ:マーケット

J-REIT保有物件の動向からみる中小オフィスビルの概況

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 5月号

この記事の概要

  • 一般に、J–REITは、中・長期的に物件を保有することを基本としつつも、築後年数の経過などの理由から収益力が低下したと判断した物件を売却したり、また、保有物件に関して、収益向上を目的とするリニューアル工事などの取組も多く行っており、その結果、J–REIT保有物件は一定以上の市場競争力を有している面がある※1。
  • 本稿では、こうした性格を持つJ–REIT保有物件の動向を参考に、中小ビル※2の空室率や市場競争力の維持・向上に関する取組事例等について考察する。

1)東京23区の中小ビルの空室率は低下基調が継続しており、賃貸収入は増加局面

J–REITが東京23区に保有するオフィスビルに関して、2008年度以降連続してデータ取得可能な物件の空室率を物件規模別にみると※3、世界金融危機に伴う景気後退の影響などから2008年度上期以降上昇傾向が続き、2011~2012年度のピーク時の空室率はすべての規模で6%台であった[図表1]。その後、景気回復に伴うテナント需要の増加などを背景として空室率の低下が進み、2017年度上期の中型ビルの空室率は2.1%と低水準である。また、三幸エステートの公表データによれば、中小ビルの空室率は低下基調が継続し、前回の最低水準と同程度である[図表2]。このデータは、広範な賃貸オフィスビルを対象とし、賃貸オフィス市場全体の動向を示しているといえ、賃貸オフィス市場全体の空室率も低水準にある。

J–REIT保有物件においては、空室率の低下などを背景として、J–REIT保有の中小ビルの貸室賃料収入単価と賃貸収入、NOIはいずれも2014年度以降増加基調にある[図表3~5]。景気回復の進行などを背景にテナント需要が堅調であるなか、一定以上の市場競争力を有する中小ビルにおいては、賃料水準の上昇が始まって相当程度経過し、賃貸収入は増加局面にあるとみられる※4。

2)中小ビルにおける共用部リニューアルや一部の床の用途変更などの工夫が市場競争力に寄与

J–REITが公表する資料において、中小ビルのテナント誘引力向上のために実施した取組事例が開示されている場合があり、こうした情報から、保有物件の市場競争力の維持・向上に関する取組内容を知ることができる。

保有物件に対する取組として、テナント退去後に退去フロアの共用部(エレベーターホールやトイレ、給湯室など)のリニューアル工事を実施する事例がある。こうした取組は以前から比較的多くみられてきたもので、保有物件のテナント誘引力を高め、一定以上の市場競争力の維持・向上に寄与している面があると考えられる。

こうした取組に加えて、最近では、中小ビルの保有割合が高いJ–REITにおいて、テナントの退去に伴い、これまで賃貸床としていたスペースの一部をテナント専用の共用ラウンジに変更し、打合せスペースや飲料を提供する取組もみられ、当該取組においては投資効果として50%強の賃料単価の上昇が見込まれている。また、地下1階のオフィステナントの退去後、共用部を飲食店舗に見合う内装に改修し、エリア特性を反映した飲食店舗を入居させ、賃料アップ(従前賃料と比べて約28%増加)を図った事例もみられる。

※1:総体としての特徴を述べたものであり、J–REIT保有物件のすべてがこれに当てはまるという趣旨ではない。

※2:本稿では、1フロア面積が200坪以上を大規模ビル、100坪以上200坪未満を大型ビル、50坪以上100坪未満を中型ビル、20坪以上50坪未満を小型ビルとし、中型ビルと小型ビルを総称して中小ビルという。

※3:変動賃料の物件を対象とし、追加取得があった物件は対象外としている。図表3~5においても同様。

※4:一定以上の市場競争力を有する中小ビルの総体的な傾向として述べたものであり、すべての物件がこれに当てはまるという趣旨ではない。

[図表1]J–REITが保有するオフィスビル(東京23区)の平均空室率

[図表1]圏域別・用途別の地価変動率(平成30年地価公示)

[図表2]東京23区に所在するオフィスビルの規模別空室率

[図表2]圏域別の対前年地価変動率の推移(住宅地)

[図表3]J–REITが保有するオフィスビル(東京23区)の貸室賃料収入単価(2008年度上期=100)

[図表2]圏域別の対前年地価変動率の推移(商業地)

[図表4]J–REITが保有するオフィスビル(東京23区)の直近1年間賃貸収入(2008年度上期=100)

[図表3]圏域別公示価格の変動指数の推移(2005年公示価格=100)(住宅地)

[図表5]J–REITが保有するオフィスビル(東京23区)の直近1年間NOI(2008年度上期=100)

[図表3]圏域別公示価格の変動指数の推移(2005年公示価格=100)(商業地)

データ出所:図表2は三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」、その他は都市未来総合研究所「ReiTREDA」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成: 株式会社都市未来総合研究所 研究部

※本コンテンツは参考情報の提供を目的とするものです。

※当社は、読者に対し、本資料における法律・税務・会計上の取り扱いを助言、推奨もしくは保証するものではありません。

※本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成していますが、その正確性と完全性、客観性については当社および都市未来総合研究所は責任を負いません。本コンテンツに掲載した記事の無断複製・無断転載を禁じます。