2019年は新築マンションの供給が低迷 2020年も回復の可能性は少ない

アナリストが分析、マンション市場の展望(2020年)

この記事の概要

  • 2019年の新築分譲マンションの供給戸数は、首都圏、近畿圏ともに前年を下回る模様です。それにもかかわらず、首都圏では初月契約率も好調の目安となる70%を下回り低迷しています。こうした状況を受けた2020年のマンション市場の分析と展望をアナリストに語ってもらいました

2019年の新築分譲マンションの供給は、2018年より減少し、非常に低い水準になりそうです。さらに、首都圏では初月契約率が好調の目安となる70%を大きく下回るなど販売面も苦戦しています。2019年を振り返るとともに、2020年のマンション市場はどうなるのかについて、日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに分析、展望していただきました。

吉野氏

「2020年も新築マンションの供給低迷は続く」と話す吉野氏

2019年首都圏のマンション市場動向はいかがでしたか。

吉野:2019年1月から11月までの首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築マンション供給戸数は2万4846戸でした。2018年の同期は2万9670戸でしたから、20%近くも減少したことになります。例年12月は供給が多い時期ですが、それを考えても多くても年間3万戸程度になる見通しです。2018年の供給戸数は3万7132戸ですから、15%以上の減少になりそうです。これは、バブルが崩壊後の1991年、1992年に3万戸を割り込んで以来の低水準です。その後、供給が回復して2000年には9万5000戸を超えたことを考えると、3分の1以下になったわけです。

これだけ供給が減れば、初月契約率が上昇しそうですが、そうはなりませんでした。1月から11月の平均は63%。好調の目安となる70%をかなり下回っています。2018年の平均は62.1%ですから、ほんのわずかだけ改善しただけです。しかも、消費税率アップの影響があったのか、9月~11月は特に低く、それぞれ56.8%、42.6%、55.2%の低水準が続いています。12月もこの調子なら年間の初月契約率は2018年並みになります。

供給戸数20%以上も減ったのに、初月契約率が改善しなかった原因はなんでしょうか。

吉野:一番の要因は価格の高止まりでしょう。2018年の平均分譲価格は5871万円でした。それに対して、2019年1月から11月は6006万円です。ここまで上昇してしまえば、一般的な収入ではなかなか購入できないでしょう。ちなみに先ほど最も供給戸数が多かった2000年の首都圏の平均分譲価格は4034万円でした。ですから、当時は、それほど無理なく購入できる需要者層が厚かったのです。

値下げをせずにじっくりと売るデベロッパー

ここまで供給戸数が減り、初月契約率も低迷しているとマンションデベロッパーの経営もかなり苦しそうです。そうなると値引きも期待できるのではありませんか。

吉野:残念ですが、そうはならないと思います。その主な理由は2つあります。一つは超低金利が続き、マンションの開発資金の手当てが非常に容易なことです。多少、販売が遅れても金利がそれほどかさむわけではありませんから、マンションデベロッパーは値引きなどはせずにじっくり売る戦略をとります。

もう一つの理由は、2000年ころと比べると、マンションデベロッパーの寡占が進んで、大手不動産会社が供給の主役になっていることです。例えば、2018年の全国マンション供給戸数ランキングでは上位5社中、4社が財閥系です。こうした大手不動産会社は、マンション開発以外にもさまざまな不動産事業を手掛けています。その中で例えば、ホテル事業や店舗事業はインバウンド需要の盛り上がりを背景に好調です。物流施設事業もネット通販の拡大によって、好調が続いています。オフィス事業も東京都心の再開発を中心に盛り上がりを見せています。こうした別の事業に、人員を移して稼ぐ戦略がとれるので、かならずしもマンション事業を無理して拡大したり、値下げして利益率を落としてまで急いで売ったりする必要はないのです。

近畿も供給は減ったが、契約率は好調

2019年近畿圏のマンション市場動向はどうだったのでしょうか。

吉野:2019年1月から11月では1万4812戸になりました。それでも前年同期は1万8198戸ですから約20%減という状況です。

このように供給戸数については、首都圏と同様にかなり減少したのですが、大きく違うのは初月契約率です。2018年の初月契約率は好調の目安である70%を超える74.5%でした。その好調が2019年も続き、1月から11月の初月契約率は74.8%になっています。3月、7月、8月には80%を超えました。契約率で明暗が分かれた要因は、価格の違いでしょう。参考としたデータでは、ワンルームなどの投資用物件を近畿圏では含み、首都圏では含んでいないので、単純に比較はできませんが、近畿圏の1月から11月の平均分譲価格は3781万円になっています。

本コンテンツの過去の記事で何回か説明していますが、首都圏、特に東京都心では地価が上がりすぎた結果、デベロッパーとしては、需要層の厚い価格帯でのマンション供給がかなり難しくなっています。その点、近畿圏も含めたそれ以外の地域では、それほど難しくないので、そこにビジネスチャンスを求めるケースも増えています。実際、2018年の全国マンション供給戸数ランキングにおいて、財閥系以外でベスト5に入ったのは、近畿、東海エリアに強いデベロッパーでした。こうした供給を追い風に、従来は戸建て志向の強かった地域でも、今後はマンション志向が強まるかもしれません。

2020年も供給は低迷、価格は下がらない

こうした2019年の動向を受けて2020年の展望はいかでしょうか。

吉野:2019年は消費税率アップがあり、マンション市場への影響が注目されました。しかし、前倒しの需要はほとんどなく、アップ後の買い控えもそれほど目立ちませんでした。このように影響が非常に軽微だった要因は、政府の消費税率アップのリスク緩和政策の充実もあると思います。マンション購入を真剣に考えている消費者は、住宅ローン減税の拡充などをきちんと調べて、急いで買わないでも損はしないと判断したのでしょう。

そして2020年。東京オリンピックが開催され、その後の不動産市場の変化が関心を集めています。一部には、開催後マンション価格の下落を予想する向きもあるようです。ただ、それを期待しているマンション購入希望者には申し訳ありませんが、私は、その可能性は非常に低いと考えています。これまで繰り返し説明しているように、オリンピック後もマンション市場の基調は変わらないと予測しています。

新築マンションの供給は増加せず、価格も下がらないということですか

吉野:最近の地価は、バブル期と違って、需要が見込める場所は上昇し、需要が劣る場所は下落するというかなり合理的な動きをしています。したがって、オリンピック後も急激に下落する可能性は低いと思います。建設の人件費は人手不足の中で、簡単に下落することも考えにくく、建設の資材費は多少、下落することもあるかもしれませんが、新築マンション価格への影響は軽微でしょう。そうなると限られた需要の奪い合いになるので、デベロッパーは供給戸数を大幅に増やすことはないでしょう。つまり、2019年と同様の動向が続くというのがメインシナリオです。

中古や戸建ても並行して検討したい

そうなるとマンション購入希望者はどのような対応をすべきでしょか

吉野:選択の幅を広げることが大切だと思います。新築マンションにこだわらず、中古マンションや新築・中古戸建ても積極的に検討すべきでしょう。すでにそれを実行している購入者は多く、中古マンションの成約も増えています。2019年1月から11月の首都圏の中古マンションの成約件数は3万5487件。2018年同期の3万4412件を上回っています。2019年の年間では、12月の件数次第ですが過去最高になる可能性が高くなりました。中古戸建の成約件数も増加。1月から11月までの首都圏の成約件数は1万7647件で、前年同期1万6179件よりも10%程度増えています。

ただ、こうした活況によって、中古の成約物件価格も上昇しています。例えば中古マンションの2019年1月から11月の平均成約価格は3433万円となりました。2015年の平均は2892万円でしたから5年間で約540万円上昇したことになります。ただ、新築と比較するとまだ買いやすいことには変わりありません。諸条件をよく比較して、希望物件を見つけてください。

※ コンテンツ中のデータは、不動産経済研究所、東日本不動産流通機構、土地総合研究所の資料による

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。