コロナ禍による下落も落ち着きつつある傾向に〜2021年地価公示〜

不動産エコノミストが解説 2021年地価公示

この記事の概要

  • 2021年3月、国土交通省が地価公示を発表しました。世界的な広がりを見せる新型コロナウイルス感染拡大の影響が分かる調査として注目されます。結果は、すべてのエリアで下落または上昇率が縮小しました。こうした数字を、私たちはどう読み解けばよいのでしょうか。日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに、2021年の地価公示のポイントについて解説していただきました。

吉野薫さん

2020年の前半と後半とで様子が一変することに注意

今年(2021年)の地価公示は新型コロナウイルスの影響もあって、大きく様変わりしたかと思います。まずは全体の動向からお話いただけますか。

吉野:2020年の地価公示は全ての圏域・用途の平均とも上昇していましたが、2021年は軒並み下落または上昇率が縮小し、全用途での全国平均としては6年ぶりに下落に転じました。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発出されたことで、日本全体であらゆる経済活動がストップしてしまい、これが地価にも影響を与えた恰好です。

表1 地価変動率の推移のとおり、三大都市圏・地方圏ともに下落傾向を示しました。住宅地だけでなく、商業地も含め、全用途で同様の傾向が見られます。下表の青地の数字は「前年より下落率拡大・上昇率縮小」した項目ですが、今年はすべての地域・用途が青となっており、名古屋圏を除き上昇基調にあった昨年までと一変しています。

表1 地価変動率の推移(令和2年/3年比較)

全用途 商業地 住宅地
令和2年 令和3年 令和2年 令和3年 令和2年 令和3年
全国 1.4 ▲0.5 3.1 ▲0.8 0.8 ▲0.4
三大都市圏 2.1 ▲0.7 5.4 ▲1.3 1.1 ▲0.6
東京圏 2.3 ▲0.5 5.2 ▲1.0 1.4 ▲0.5
大阪圏 1.8 ▲0.7 6.9 ▲1.8 0.4 ▲0.5
名古屋圏 1.9 ▲1.1 4.1 ▲1.7 1.1 ▲1.0
地方圏 0.8 ▲0.3 1.5 ▲0.5 0.5 ▲0.3
地方四市 7.4 2.9 11.3 3.1 5.9 2.7
その他 0.1 ▲0.6 0.3 ▲0.9 0.0 ▲0.6

(単位:%)

※数字の色は前年よりも下落率縮小・上昇率拡大、は下落率拡大・上昇率縮小

出典:国土交通省「令和3年地価公示」

全地域・全用途での下落率拡大・上昇率縮小と、まさにコロナ禍一色といった様相ですね。

吉野:ただ昨年の変動率について、1月から7月1日までの前半と7月1日以降の後半とでは、数字に大きな差が出ていることに私たちは注目しています。前半は、緊急事態宣言による全国的な経済活動が停滞したことなどから地価も大きく下落し、コロナショックの影響が見て取れますが、後半は少しずつですが数字が回復していることが分かります。社会が徐々に冷静さを取り戻し、様子を見ながらも経済活動を日常に戻そうと不動産マーケットも動き出したものと考えています。

表2 半年ごとの地価変動率の推移(令和2年)

住宅地 商業地
前半 後半 前半 後半
全国 ▲0.4 0.2 ▲1.4 0.0
三大都市圏 ▲0.6 0.1 ▲1.9 0.0
東京圏 ▲0.6 0.1 ▲1.5 0.0
大阪圏 ▲0.4 0.0 ▲2.2 ▲0.6
名古屋圏 ▲1.2 0.3 ▲2.6 0.9
地方圏 ▲0.1 0.3 ▲0.7 0.0
地方四市 1.0 1.5 0.7 2.2
その他 ▲0.2 0.1 ▲0.9 ▲0.3

(単位:%)

出典:国土交通省「令和3年地価公示」

なるほど、ただ下落するばかりでなく、回復の兆しもあるということですね。

吉野:確かにコロナショックの影響は大きなものですが、一方でダメージを受けていないマーケットもあり、実際はどの分野も均一で下落しているわけではありません。商業地を例に取ると、用途によってビジネス活性度の“濃淡”があるのです。2021年の地価公示について、私は大きく3つのストーリーで説明できるものと考えています。

1つ目の傾向としては、コロナ禍の影響によって全体的に下落傾向にあったこと。これは疑いようがなく、マクロ経済の全体的な停滞を背景とした基調的な傾向です。

2つ目の傾向としては、商業地の中でも「宿泊」や「飲食・夜の街」といった用途の施設が中心となるエリアはコロナ禍による直接的な打撃を受けました。その一方、オフィスが主体となるエリアについては、コロナ禍の影響は相対的に軽かったといえます。

そして3つ目の傾向ですが、食品スーパーやホームセンター、家電店などに代表されるような、私たちの生活に密着した商業施設については、「ステイホーム」や「巣ごもり消費」などによってむしろ好調であったと振り返ることができます。

こうした傾向は、大都市圏でも地方圏でも似た動きを示しています。エリア別というより、その土地土地の用途や特性によって影響の受け方に差が生じているものと思われます。

地価公示回復の兆しのイメージ

住まい選びの選択肢を広げていこう

では住宅地の公示地価についてはどのような傾向がありますか。地域やストックの種別などによって、大きな違いはあったのでしょうか。

吉野:三大都市圏についてはこれまで長年上昇を続けてきましたが、今年は全てのエリアで下落に転じました。東京圏では8年ぶり、大阪圏は7年ぶり、名古屋圏は9年ぶりの下落となります。

地方圏では、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)が8年連続の上昇となっていますが、上昇率自体は小さなものになりました。他の地方圏については、昨年28年ぶりに上昇に転じたのですが、今年は再び下落に転じています。

大都市圏の住宅地まで下落すると聞くと、やはり今回の影響の大きさを感じずにいられません。

吉野:東京でいうと、千代田区や中央区といった都心部の住宅地も平均値としては下落していますが、赤坂や青山(ともに港区)、中目黒(目黒区)など、人気エリアはプラスを維持しています。

商業地で、銀座や丸の内(ともに中央区)といった都心エリアが軒並み下落しているのとは好対照です。反面、同じ23区でも練馬区や板橋区など中心部から少し離れたエリアで住宅地地価の下落率が高くなっています。一律に地価が下がっているわけではありません。

地方圏でも、交通インフラの整備などを契機に都市の利便性が高まっている住宅地では地価の上昇が続いています。また、熱海(静岡県)や軽井沢・白馬(ともに長野県)の公示地価が上がるなど、一部ですがリゾートエリアの人気がうかがえました。

東京の人口が減少に転じたというニュースもあり、都心部から郊外や地方への住み替えや移住の動きが出てきているようにも思います。

吉野:比較的安価で豊かな住環境を求めて、郊外や地方部に移住や二地域居住を検討する方は確かに増えているかと思います。ただこれが「都心脱出・地方回帰」といったマクロな動きとは考えていません。リモートワークによる新しい働き方は生まれましたが、都市部のオフィス需要がなくなるわけではなく、多くのビジネスパーソンが通勤から解放されて郊外への移住・転出を目指すような状況には至っていません。

23区全体、あるいは東京都全体でみれば、確かにコロナ禍以降人口の流出がみられますが、区別にみれば中央区や江東区で人口増加が続いています。また、リゾート人気も、例えば熱海なら駅近、軽井沢なら高級別荘エリアといった具合に、利便性やブランド価値が求められているようです。

地方部は都心部よりも人口が少ないため、小規模なマーケットの変化でも、不動産市場にその影響が現れやすい傾向があることには注意しないといけません。

ズバリ、今回の地価公示の下落を受け、今後住宅価格が下がっていく可能性はありますか。

吉野:短期での値下がり傾向というのは、表面には出にくいのではないでしょうか。商業地と異なり、住宅の需要は短期に大きく変動するものではないからです。現在の状況を「リーマンショック以上」という方もいますが、現在は金融システム自体が大きく揺らいでいません。経済活動が復調すれば、不動産市場が回復に向かうのもそう先のことではないと思います。

一方で、これまでの家選びでは通勤時の利便性を重視する風潮が強かったところですが、コロナ禍以降はライフスタイルに合った“住み心地”の良い家が求められる傾向が強まるとはいえそうです。

先にお伝えしたように、都市部・郊外部・地方部とも、1つのエリアでも立地や利便性などによって価格の上下が生じていますが、これは多彩なエリアに多彩な価格のストックが存在する状況にあるといえます。私たちの暮らしや価値観は今後ますます多様化していきますので、ご自身の生活スタイルにかなう住宅を上手に検討していくことが大切ではないでしょうか。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年4月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。