地価上昇の勢いが加速、地方圏も27年ぶりに上向きに

不動産エコノミストが解説 2019年公示地価

この記事の概要

  •  3月に2019年の公示地価が公表されました。注目されるのは、地方圏の住宅地平均が、バブル期以来27年ぶりに上昇に転じたことです。また、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)や、地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)は上昇基調が強くなっています。こうした動きの中、不動産エコノミストの吉野薫さんは、地域内の格差に注目しています。

国土交通省が3月、2019年の公示地価を公表しました。土地取引の指標にすることなどを目的に、2019年1月時点の標準地の正常な価格を公示したものです。不動産市場の動向に詳しい、日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに、2019年の公示地価のポイントについて解説していただきました。

不動産エコノミストを務める吉野薫さん

地域でひとくくりにするのではなく、その中でも動向の違いに注目すべきと語る吉野氏

3月に国土交通省が2019年の公示地価を公表しました。まずは全体動向から解説してください。

吉野:2019年の最大のトピックは、地方圏の住宅地平均が、27年ぶりに上昇したことです。対前年平均変動率はプラス0.2%。2018年はマイナス0.1%、2017年はマイナス0.4%でしたから、徐々に回復し、ついにプラスに転じたことになります。これにより、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)も加えた住宅地の全国平均はプラス0.6%になりました。

全国全用途の平均はプラス1.2%。これまで2015年のマイナス0.3%から、2016年に上昇に転じてプラス0.1%になり、2017年プラス0.4%、2018年0.7%と上昇基調が続いてきました。その勢いがさらに加速していることが分かります。中でも地方四市の上昇は非常に高くなっています。

表1 最近5年間の地価変動率のエリア別推移

(単位:%)

全用途 2015 2016 2017 2018 2019
全国 ▲0.3 0.1 0.4 0.7 1.2
三大都市圏 0.7 1.1 1.1 1.5 2.0
東京圏 0.9 1.1 1.3 1.7 2.2
大阪圏 0.3 0.8 0.9 1.1 1.6
名古屋圏 0.9 1.3 1.1 1.4 2.1
地方圏 ▲1.2 ▲0.7 ▲0.3 0.0 0.4
地方四市 1.8 3.2 3.9 4.6 5.9
その他 ▲1.5 ▲1.1 ▲0.8 ▲0.5 ▲0.2

(単位:%)

住宅地 2015 2016 2017 2018 2019
全国 ▲0.4 ▲0.2 0.0 0.3 0.6
三大都市圏 0.4 0.5 0.5 0.7 1.0
東京圏 0.5 0.6 0.7 1.0 1.3
大阪圏 0.0 0.1 0.0 0.1 0.3
名古屋圏 0.8 0.8 0.6 0.8 1.2
地方圏 ▲1.1 ▲0.7 ▲0.4 ▲0.1 0.2
地方四市 1.5 2.3 2.8 3.3 4.4
その他 ▲1.3 ▲1.0 ▲0.8 ▲0.5 ▲0.2

(単位:%)

商業地 2015 2016 2017 2018 2019
全国 0.0 0.9 1.4 1.9 2.8
三大都市圏 1.8 2.9 3.3 3.9 5.1
東京圏 2.0 2.7 3.1 3.7 4.7
大阪圏 1.5 3.3 4.1 4.7 6.4
名古屋圏 1.4 2.7 2.5 3.3 4.7
地方圏 ▲1.4 ▲0.5 ▲0.1 0.5 1.0
地方四市 2.7 5.7 6.9 7.9 9.4
その他 ▲1.8 ▲1.3 ▲0.9 ▲0.4 0.0

全国的に地価が上昇しているということでしょうか?

吉野:残念ですが、全国津々浦々が上昇しているわけではありません。例えば、今回、地方圏の住宅地平均が上昇に転じたと説明しましたが、それは地方圏の中でも地方四市の上昇の影響が大きいのです。地方四市の住宅地平均はプラス4.4%と大幅に上昇しました。一方、その他の地方圏の住宅地平均はマイナス0.2%と下落が続いているのです。全用途平均も、その他の地方圏はいまだ下落が続いています。

ただ、その他の地方圏も、すべてで下落が続いているわけではありません。その他の地方圏の調査地点1万2202カ所のうち、4分の1以上の3283地点は上昇しています。さらに横ばいの地点を除くと、下落しているのは約半分の6378地点なのです。

エリアでひとくくりに語ることはできないということですね

吉野:東京圏の全用途平均の2019年の変動率はプラス2.2%にまで上昇しています。しかし、調査地点6731カ所のうち17%(1114地点)では下落しています。下落地点の比率は2018年が18%、2017年が19%ですから、少しずつしか減っていません。つまり、勝ち組と負け組が固定化され、格差が開いていると分析できます。

地方四市の商業地では下落地点の比率が1%にまで減っています。今後、地価上昇が続けば、全国全用途の下落地点は減っていくとは思いますが、そうなった場合、上昇地点の変動率は大幅なプラスになっているでしょうから、格差としては今よりも拡大しているでしょう。

新しいライフスタイルに適応した場所なのか?

格差の要因として何が考えられますか?

吉野:住宅地に関しては利便性でしょう。従来のイメージにとらわれず、生活習慣も柔軟に考える層が増えています。ある程度の都市には昔からの“御屋敷町”とか“高級住宅街”と呼ばれるイメージの良い地域が必ずあります。その中には、実は現時点では、交通や生活の利便性がそれほど高くはない地域も存在します。そうした場所よりは、現時点で利便性が高い場所の方が選好され、地価上昇率が高い傾向があります。

例えば、地方圏では従来は自動車ありきの生活が当たり前で、駅から多少離れていても一戸建てに暮らすのが一般的なライフスタイルでした。それによって駅近くの繁華街がすたれて「シャッター商店街」が生まれた都市も少なくありません。しかし、最近は駅近くの高層マンションで暮らすほうが、利便性が高いと気付いた住民が増えているように思います。特に自分たちの親世代が高齢になり、駅から離れた広い一戸建てを持て余しているのを見ている若い層は、公共交通を利用しやすい場所を選ぶケースが増えると思います。

商業地は、“稼げる”場所かどうかポイントです。2019年の商業地の変動率上位は、北海道の倶知安町、大阪市の中央区、京都府の東山市など、インバウンド需要が見込める場所が並んでいます。

東京、大阪といった大都市の動向はいかがでしょうか?

吉野:大都市においても利便性が重視される傾向が顕著になっています。東京23区で住宅地の上昇率が高かったのは、荒川区(8.6%)、台東区(7.2%)、北区(7.1%)といったように北東部の区が多くなっています。その一方で、世田谷区、目黒区といった南西部の区の上昇率は相対的に低位にあります。これらは環境よりも利便性が選考された結果でしょう。

また昨年の公示地価において、23区の住宅地の最高価格地点が千代田区六番町から港区赤坂に代わっています。今年も赤坂の上昇率が番町を上回り、その差が拡大しました。千代田区番町エリアの需要は、旧来の富裕層が中心です。一方、港区赤坂の超高層マンションは、IT企業の経営陣、医師・弁護士といった新興富裕層にも人気があり、需要のすそ野が広いことが要因とされています。やはり、新しいライフスタイルを作りつつある層に人気の場所ほど、地価の上昇が目立つということです。

大阪も同様の傾向があると思います。大阪の富裕層は従来、中心部は働く場所で、少し離れた場所に立派な一戸建てを構えることを良しとする傾向がありました。しかし、最近は、中心部の超高層マンション暮らしの方が便利に暮らせるという考えが広まりつつあります。ですから、大阪の中央区の商業地の上昇が大きい要因として、インバウンド需要に加え、マンション需要の影響も大きいと考えています。こうした傾向は今後、さらに強くなると考えられるので、大阪圏の動向に注目しています。

上昇の勢いは加速が続く、景気の影響をウオッチしよう

2019年は、全体平均では上昇基調で、それも前年よりも拡大しました。この傾向は続くのでしょうか?

吉野:公示地価調査には、毎年7月1日に実施される都道府県地価調査と共通の調査地点があります。それを比較すると1年間の前半と後半の変動率の傾向が分かります。例えば、三大都市圏の住宅地の変動率は前半がプラス0.6%、後半プラス0.7%です。商業地は前半プラス2.7%、後半プラス3.3%でした。

さらに2018年公示地価を調べると、住宅地の前半プラス0.4%、後半プラス0.5%、商業地の前半がプラス2.2%、後半2.4%でした。つまり最近は、ずっと変動率が上昇し続けているのです。最近、地価が上がりすぎて、「これ以上は上がらないのではないか」という見方もありますが、公示地価をみる限り上昇は鈍化ではなく、加速していることが分かります。こうした傾向が急に変わるとは思えません。

表2 半年ごとの地価変動率の推移

(単位:%)

2016 2017 2018 2019
前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半
全国 住宅地 0.4 0.4 0.4 0.4 0.5 0.5 0.6 0.8
商業地 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.8 1.9 2.4
三大都市圏 住宅地 0.5 0.4 0.4 0.4 0.4 0.5 0.6 0.7
商業地 1.8 1.7 2.0 2.0 2.2 2.4 2.7 3.3
地方圏 住宅地 0.3 0.3 0.4 0.3 0.5 0.5 0.7 0.8
商業地 0.3 0.5 0.4 0.7 0.8 1.0 1.1 1.4

(都道府県地価調査との共通地点における集計)

2019年は消費税の税率アップ、2020年は東京オリンピックが控えています。こうしたことが地価にどのような影響を与えるでしょうか。

吉野:まず、消費税率アップの影響はあまりないと見ています。住宅ローン減税の期間延長といった政府の対策が充実しているからです。ただ、家計に向けての対策は手厚い一方、企業に向けた対策は、それほどでありません。消費税の仕組みから企業活動に与える影響は小さいと見ているのかもしれませんが、投資が減少するといった恐れがあります。それが大きいようなら、景気が悪化し、地価にも悪影響が及ぶ可能性を考えておくべきでしょう。

東京オリンピックに関しても同様です。基本的には影響は少ないと思いますが、開催後、一時的に建設や土木の公共投資が減り、それが景気悪化につながり、地価にもインパクトを与えるというシナリオはありえます。

前にも説明しましたが、現状では地価の動きに悪い影響を与える指標はあまり見られません。しかし、地価は上がり続けるわけではなく、いつか調整局面を迎えます。それがどんなタイミングになるのか、景気が大きく影響することは間違いありません。景気は様々な要因で変動します。例えば、米国と中国の摩擦、日本と韓国の摩擦といった見通しのつけにくい国際問題が発生しています。地価の動向を考える上で、こうした問題の動向もウオッチしておく必要があるでしょう。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。