商業地の上昇基調は継続、利便性とインバウンド需要がポイントに

不動産エコノミストが解説 2019年基準地価

この記事の概要

  • 9月に2019年の基準地価が公表されました。地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)などが大幅に上がった影響により、地方圏の商業地平均が28年ぶりに上昇したことが注目されます。不動産エコノミストの吉野薫さんは、上昇の要因として、利便性を重視する傾向の強まりとインバウンド需要の影響を指摘します。

国土交通省が9月、2019年の基準地価を公表しました。2019年7月1日時点の基準地の正常価格を各都道府県が調査し、国土交通省がとりまとめて公表したものです。日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに、2019年の基準地価で注目すべきポイントを解説していただきました。

不動産エコノミストを務める吉野薫さん

利便性が良く、インバウンド需要の旺盛な場所を中心に地価の上昇基調は強まっていると語る吉野氏

9月に国土交通省が2019年の基準地価を公表しました。全体動向の注目点から解説してください。

吉野:2019年の注目点は、地方圏の商業地が1991年以来、28年ぶりに上昇に転じたことです。2018年はマイナス0.1%でしたが、2019年はプラス0.3%でした。これにより下落が続いているのは、地方圏の住宅地だけになりました。ただし、地方圏の商業地の上昇については、少し割り引いて見る必要があるでしょう。

実は地方圏の中でも、拠点性の強い地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)の商業地は、10.3%という大幅な上昇を見せています。こうした元気のいい地域との平均値でようやくプラスになりました。地方四市を除いた地方圏の商業地はマイナス0.2%です。

このように説明すると地方圏の商業地の低迷が続いていると思われそうですが、都道府県別に商業地平均変動率を見ても2018年よりも悪化しているのは京都府だけでした。全国的に回復基調が続いているのは事実なのです。地方圏の商業地はわずかな下落が続いているものの、あと一息で上昇に転じる状況にはなったというのが正確な見方でしょう。ちなみに京都府の商業地は2018年がプラス7.5%で、2019年は下がったとはいえプラス7.1%ですから、かなり高い上昇が続いています。

それにしても、地方四市の上昇はすごいですね

吉野:札幌市、仙台市、福岡市の商業地の変動率はそれぞれ、プラス11.0%、10.5%、12.8%と非常に高くなっています。2018年もそれぞれプラス10.0%、9.9%、11.1%と高水準でしたが、それをさらに上回りました。住宅地ですら、2019年はプラス6.1%、6.0%、5.3%という非常に高い上昇率です。これらに比べると広島の商業地は、2019年プラス5.7%、2018年はプラス4.8%でしたから上昇率は低めですが、全国的にみると非常に高いレベルです。

この四市の商業地は、非常に拠点性が高く、生活や交通の利便性も優れているケースが多いだけでなく、インバウンド需要も活発で、ホテルなどの需要も大きい割に、三大都市圏の商業地よりも割安だと、不動産事業者などが判断しているのだと思います。

以前のバブルの時期との違いは、不動産事業者が、収益性を重視して投資を行っている点です。すでに三大都市圏の商業地がかなり上昇してしまい、収益性が低下したのに比較すると、地方四市に投資したほうが収益を上げやすいと考えた不動産事業者が少なくないのだと思います。注目は、この先、さらに地方圏の他の都市にこうした上昇傾向が拡大してくかどうかでしょう。

すでにかなり上昇してしまったという大都市圏の動向はいかがでしょうか。

吉野:商業地も住宅地も、地方四市ほどではないのですが全国平均より上昇率は高くなっています。中でも目立つのは、大阪圏の商業地で、上昇率はプラス6.8%と非常に高い水準です。さらに細かく見ていくと、大阪府の商業地は8.7%、大阪市の商業地はプラス13.1%になりました。

基準地点別に見ても、中央区宗右衛門町7-2が、全国商業地で3番目に高いプラス45.2%になっています。さらに5番目にも、淀川区宮原3-5-24が入っています(変動率プラス42.3%)。京都府の商業地の上昇率も高くなっていますが、これらはマンション需要が衰えないことに加えて、インバウンド需要の影響が非常に大きく表れています。

大阪圏と比較するとインバウンド需要の影響が少ない名古屋圏の商業地は、プラス3.8%で、全国平均よりも高いものの、大阪圏と比べると落ち着いています。

東京圏は相変わらず高い上昇率になっているようですが。

吉野:東京圏の商業地の2019年の上昇率はプラス4.9%でした。2015年は2.3%、2016年は2.7%、2017年は3.3%、2018年は4.0%という推移から見ると、上昇傾向は加速していることになります。東京都の商業地に限定すると2019年の上昇率はプラス6.8%、東京区部で見ると8.4%です。

東京区部の商業地でもっとも高い上昇率となったのは台東区でプラス14.4%でした。2018年の9.0%と比較すると5ポイント以上も伸びています。台東区には浅草という外国人に人気の繁華街があります。浅草の高い上昇率が台東区の上昇を牽引しました。交通利便性が高い割に、隣接する中央区、千代田区よりも地価上昇の面では出遅れていた感がある分、高い上昇率になったのでしょう。

商業地が10%以上の上昇率になったのは台東区だけでしたが9%台は6区あります。それをチェックすると大きく二つに分けられます。一つは中央区(9.7%)、港区(9.9%)、渋谷区(9.6%)の超高層タイプなど高級マンションの需要が大きいブランド地域のグループです。これらはすでにかなり上昇していますが、さらなる上昇を見せています。もう一つが北区(9.8%)、豊島区(9.6%)、荒川区(9.5%)の利便性が良いわりに地価水準がまだ低いと評価されたであろう地域のグループです。

次に東京区部の住宅地をみてみましょう。2019年の上昇率はプラス4.6%で、2018年の4.3%よりも高くなっています。上昇率が高かったのは荒川区(8.6%)、豊島区(7.9%)、台東区(7.6%)の順でした。やはり、利便性が良いわりに地価水準がまだ低いとみられたからだと思います。その一方でもっとも上昇率が低かったのは千代田区(1.9%)でした。住宅地としては、天井に近い水準にまで上がってしまったのかもしれません。

最後に今後の地価動向の見通しについてアドバイスいただけますか。

吉野:私は以前からお話しているように、今年の消費税率アップも、来年の東京五輪も、地価にはあまり直接的な影響はないと予測しています。ですから、基本的には現状の地価の上昇、あるいは回復基調が今後も続く可能性は高いとみています。

ただし、現在の地方四市の活況にみられるように、上昇が目立つ地域が変わっていく可能性はあると思っています。前にも説明した通り、現在の不動産事業者は、バブル期のように天井知らずに人気のエリアを買いあさることはせず、冷静に利回りを判断して、投資を行う傾向があるからです。

地価の上昇・回復基調が動揺するとすれば、企業の設備投資に異変が起こったケースが考えられます。消費税アップの直接的な影響ではなく、心理的な影響によって消費に陰りが見え、それを企業が必要以上に深刻にとらえて、設備投資が減ってしまう。これが不動産の床需要、ひいては地価にも悪影響を与えるバッドシナリオです。また、商業地の地価動向は企業のオフィス需要に大きく左右されるという面も見逃せません。地価動向を見通すには、設備投資などの指標から企業の業容拡大意欲の動向を推し量る必要があります。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。