2018年路線価、3年連続の上昇、インバウンド需要が影響

アナリストが解説 2018年路線価

この記事の概要

  •  国税庁が7月に2018年の路線価を公表しました。住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに、2018年の路線価のポイントについて解説していただきました。

石澤卓志さん

インバウンド需要が、地価に大きな影響を与えていると話す石澤氏

7月2日に国税庁が2018年の路線価を発表しました。まずは全体動向を解説してください。

石澤:路線価は、相続税や贈与税の税額を算定する基準です。一般の方にとっては、3月に発表された公示地価より意識しておく必要がある指標です。毎年1月1日を評価時点として、公示地価等をもとに算定した価格の80%が目安になっています。したがって動向は、公示地価と同じような傾向を示すことになります。

2018年の発表では、全国の標準宅地(調査対象:約33万1000地点)の対前年平均変動率はプラス0.7%でした。前年はプラス0.4%、その前はプラス0.2%でしたから3年連続上昇しました。しかも、上昇の幅が年々拡大しています。

2017年は、全国最高地点である東京銀座5丁目の路線価がバブル期を超えたことが話題になりました。2018年はどうなりましたか?

石澤:銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前の2018年の1㎡当たりの路線価は4432万円で、2017年よりも9.9%上昇しました。2017年は2016年よりも26%も上がりましたから、それと比べると伸びは鈍化しましたが、それでも最高額を更新したことになります。バブル崩壊後のもっとも下落した時期と比べると約4倍ですね。

ただ、このようにバブル期を超えるようになっているのは、東京の一部だけです。東京以外の都市の最高地点の地価は、バブル期に遠く及びません。ようやくリーマンショック前のミニバブルと呼ばれた時期を超えた程度です。

路線価の動向は、かなり地域によって違いがあるということですね。

石澤:都道府県別の平均変動率を見ると、かなり格差があるのが分かります。2018年の平均変動率上位10都道府県の顔ぶれは、順位に多少の変動はあるものの2017年とまったく変わっていません。その多くは地域の中核都市を抱えている都道府県です。一方、まだ平均変動率がマイナスになっている県も多く、中には青森県や鹿児島県のように、2017年より下落幅が大きくなっているケースさえ見られます。

2018年の平均変動率を見ても、都道府県別トップの沖縄県、2位の東京都は両方とも人口が増えています。一方、下位10県はすべて人口が減っています。

路線価の変動率–都道府県別・変動率上位

(単位:%)

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
沖縄県 ▲0.9 ▲0.6 0.0 0.3 1.7 3.2 5.0
東京都 ▲1.2 ▲0.3 1.8 2.1 2.9 3.2 4.0
宮城県 ▲3.8 1.7 2.4 2.5 2.5 3.7 3.7
福岡県 ▲2.6 ▲1.6 ▲0.6 0.0 0.8 1.9 2.6
京都府 ▲1.5 ▲1.1 ▲0.2 0.1 0.8 1.4 2.2
広島県 ▲3.2 ▲2.5 ▲1.5 ▲0.9 0.5 1.2 1.5
愛知県 ▲0.5 0.1 1.2 1.0 1.5 1.2 1.5
大阪府 ▲1.7 ▲0.8 0.3 0.5 1.0 1.2 1.4
福島県 ▲6.7 ▲1.6 0.8 2.3 2.3 1.9 1.3
北海道 ▲3.9 ▲2.3 ▲0.6 ▲1.1 0.8 0.9 1.1
全国 ▲2.8 ▲1.8 ▲0.7 ▲0.4 0.2 0.4 0.7

路線価の変動率–都道府県別・変動率下位

(単位:%)

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
秋田県 ▲5.3 ▲5.2 ▲4.8 ▲4.6 ▲3.9 ▲2.7 ▲2.3
愛媛県 ▲3.3 ▲2.8 ▲2.7 ▲2.6 ▲2.1 ▲2.0 ▲1.6
青森県 ▲5.7 ▲5.3 ▲4.0 ▲2.9 ▲1.9 ▲1.1 ▲1.5
三重県 ▲2.5 ▲2.3 ▲1.9 ▲1.7 ▲1.8 ▲1.7 ▲1.5
鹿児島県 ▲4.0 ▲3.1 ▲2.3 ▲3.4 ▲1.7 ▲1.3 ▲1.5
山梨県 ▲3.8 ▲3.5 ▲3.1 ▲2.6 ▲1.9 ▲1.6 ▲1.4
島根県 ▲4.5 ▲3.4 ▲2.8 ▲2.9 ▲1.7 ▲1.6 ▲1.4
福井県 ▲4.3 ▲3.8 ▲2.9 ▲2.4 ▲1.6 ▲1.6 ▲1.3
鳥取県 ▲6.1 ▲4.5 ▲4.2 ▲3.6 ▲1.8 ▲1.6 ▲1.3
新潟県 ▲2.9 ▲2.6 ▲2.0 ▲2.0 ▲1.5 ▲1.4 ▲1.2

人口以外の、変動要因はありますか?

石澤:まず、なんといっても顕著なのは、インバウンド需要の影響でしょう。今回、都道府県平均では下落が続いていても、中心市街地の繁華街は上昇しているケースがかなり見られます。インバウンド需要によるホテル需要の増加や商業の活性化などが影響していると見られます。

さらに交通アクセスの整備や、再開発も地価の上昇の大きな要因になっています。例えば、都道府県別トップの沖縄県は、那覇市に隣接する地域のモノレール延伸がプラスに働きました。鉄道などの公共交通だけでなく、ネット通販の拡大によって物流強化の要請が強くなっているため、道路の整備も地価上昇につながるケースが見られました。

再開発が地価に影響を与えた好例が、神戸市です。神戸市内の最高路線価となったのは、中央区三宮1丁目三宮センター街で、前年よりも22.5%も上昇しました。これは神戸市で「JR三宮ビル」や「神戸阪急ビル東館」の建て替えなど多数の再開発が進行していることがプラスに働いたと分析しています。

繁華街の商業地の上昇が顕著のようですが、住宅地はどうですか?

石澤:繁華街が元気になることは、「仕事」「消費」の増加につながりますから、基本的に人口にも好影響が及びます。そうすれば住宅地の地価も上昇します。やはり。その地域がインバウンド需要を積極的に吸収したり、再開発で街の活性化に取り組んだりしているかが、住宅地も含めて、地価の動向を左右することになると思います。

今回、平均変動率ワースト10になった県の中には、せっかくのインバウンド需要を呼び込める観光資源を持っているのに、生かし切っていないケースも見られるのが残念です。今後、東京オリンピックに向けてさらにインバウンド需要は拡大します。ぜひ、それを生かしてもらいたいものです。

東京周辺の動向はどうでしょうか。

石澤:少し注目しているのが、大学移転の影響です。最近、学生確保の狙いがあるのか、大学キャンパスが、都心方向へ回帰したり、拡大新設したりする動きが目立ちます。こうした大学キャンパスも地価の上昇の要因として見逃せません。その好例が足立区北千住で、東京電機大学、東京藝術大学、放送大学、帝京科学大学、東京未来大学と5つの大学を立て続けに誘致、イメージアップに成功し、地価上昇につながっています。

東京都国税局では48の税務署管轄区域ごとに、もっとも上昇率の高かった場所を公表しています。2018年の第1位は麻布税務署管轄の港区北青山3丁目、青山通りのプラス15.8%でした。それに続く第2位が足立税務署管轄の足立区千住3丁目、北千住駅西口駅前広場通りのプラス14.5%でした。同地点は2017年もプラス11.7%という高い上昇率になっています。

インバウンド需要への対応、再開発、大学誘致などは、自治体のリーダーシップが不可欠です。これからの不動産選びには、こうした自治体の姿勢も考慮すべきだと思われます。

解説

石澤 卓志 

1980年代より一貫して不動産市場の調査に携わる。国土交通省・社会資本整備審議会の委員をはじめ、自治体、経団連等の委員や専門委員、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。