2018年のマンション市場の展望 価格が高止まりの中、「名より実」が顕著に

アナリストが分析、マンション市場の展望(2018年)

この記事の概要

  • 2017年(1~11月)の東京圏おける新築分譲マンションの供給戸数は前年から微増したものの低水準が続きました。しかも初月契約率は好調ラインとされる70%を下回っています。その大きな要因は価格の上昇です。こうした状況を受けて2018年、新築・中古分譲マンション市場がどうなるのかをアナリストに語ってもらいました。

2017年の東京圏新築分譲マンションの供給は、リーマンショック以来の低水準だった2016年からわずかに増えました。しかし初月契約率の水準は低く、市場は盛り上がりに欠けました。そこで2017年のマンション市場の動向を住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに分析してもらい、さらに2018年を展望していただきました。

みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さん

㎡価格上昇がダイレクトに新築分譲価格上昇に反映

2016年は盛り上がりに欠けた新築分譲マンション市場ですが、2017年はどうでしたか。

石澤:2017年(1~11月)の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築マンション供給戸数は2万9418戸(前年同期比+2.3%)でした。12月を加えると3万7000戸弱になる見込みで、2016年を少し上回ると思います。ただ、これはかなり低い水準です。近年で4万戸を下回ったのは、リーマンショックの影響を受けた2009年(3万6376戸)と2016年だけです。

低調な供給が続いているのにもかかわらず、初月契約率は好調の目安とされる70%を2年連続で下回りそうです(1月~11月の実績は67.1%)。盛り上がりに欠けるこうした市場の中で、マンションデベロッパーは、売れる可能性の高い物件に供給を絞る傾向が鮮明になりました。具体的に言えば東京23区の供給増が目立ちます。2016年よりも10%以上伸びそうです(1~11月は前年同期比+14.4%)。

契約率が低い大きな要因は、やはり価格の上昇でしょう。2017年(1~11月)の東京23区の、平均分譲価格は7025万円(前年同期比+5.4%)で、2016年間平均(6629万円)より約400万円も上回りました。実は、2016年の平均分譲価格は2015年を下回っていました。一戸当たりの面積を減らすことで、㎡単価は上がっても分譲価格を抑えることができたからです。しかし、2017年は、㎡単価の上昇がダイレクトに価格上昇に反映されました。

2017年、東京23区山手エリアの新築分譲マンションの平均価格は、大幅に上昇しました。ここまで来ると購買者は限られますね。

石澤:2016年の平均価格は7875万円でしたから、約600万円上がったことになります(1~11月の平均価格は8479万円)。こうなるといくら山手エリアが魅力的な立地でも、あきらめざる得ない住宅購入希望者も増えてきます。その結果、相対的に注目されてきたのは、ブランドイメージは高くないが、交通利便性が良い割に地価が安い地域です。

東京圏で具体的にいえば、23区の中でも荒川区、北区、足立区といった北東部です。この地域は、近年、つくばエクスプレスや上野東京ラインの開通により、交通利便性が向上し、都心からのアクセスが向上しています。「名よりも実」を重視して、こうした地域を選ぶケースが増えてくるではないでしょうか。

2018年、中古マンション市場に注目

「名よりも実」というと新築ではなく中古を選ぶことも考えられます。2016年は中古マンション市場が活況でした。2017年はどうでしたか。

石澤:2016年、東京圏では中古マンション成約件数が新築マンション供給戸数を史上初めて上回りました。これは2015年に新築マンション価格が急上昇した影響が大きいと思います。2015年は2014年より東京圏の分譲価格が約500万円も上がりました。これによって、2015年の秋頃には新築と中古の価格差が50%近くにまで拡大したのです。ここまで離れれば、2016年は中古マンションに注目が集まるのは必然でした。

しかし、それを受けて2016年後半には価格が高騰、年末から2017年年明けには新築との差が35%程度にまで接近してしまいました。その結果、2017年の中古マンション市場は2016年のほどの勢いはなくなりました。ただ、新築価格も急上昇したので中古への注目度は依然として高い状態です。

新築マンションと中古マンションの価格差の推移

新築マンションと中古マンションの価格差の推移

出所:新築マンション…(株)不動産経済研究所、中古マンション…公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)

2018年の中古マンション市場の展望はどうでしょう。

石澤:2017年、新築マンション価格が急上昇した上に、中古は売れ行き鈍化で価格調整が始まったことにより、また、価格差が開きました。そういう状況ですから、価格面の優位性により、中古マンションを検討する方がさらに増えることが予想されます。

ただ、いくら「名よりも実」といっても中古を検討する場合、新築よりも条件が厳しくなるのが一般的です。新築なら妥協した欠点も、中古ということですでに妥協したのだからこれ以上譲れないという購入希望者も多いのです。中でも立地に関しては、「中古を買うのだから場所にはこだわりたい」という意向が目立ちます。これにより、どうしても好立地の中古マンションに人気が集まり、すでに在庫も少なくなっています。ですから、好立地の物件にはあまりお買い得感はなくなることが考えられます。

2019年、消費税の税率アップを見通す

大阪圏の新築マンション市場の状況はどうでしょうか。

石澤:2017年の供給戸数は2016年よりも若干増加する模様です。価格はほとんど同水準で落ち着いています(1月~11月の平均価格は前年同期比▲1.2%)。初月契約率(1月~11月は76.3%)は2016年の71.9%から4%以上上昇していますから、好調といっていいと思います。2018年、価格が多少上昇するかもしれませんが、大きな変化はないのではないでしょうか。

2018年は東京五輪関連工事の影響で建設コストの高止まりが続き、地価も下がる要素はほとんどありません。こうしたことからマンション価格が下がるということはあまり考えられないでしょう。そうした中で、必要に迫られて住まいを購入したい方は、やはり「名より実」をとることを考えるべきではないでしょうか。2019年10月には消費税の税率アップも控えています。それを視野に入れて、住宅取得を考えてください。

解説

石澤 卓志 

1980年代より一貫して不動産市場の調査に携わる。国土交通省・社会資本整備審議会の委員をはじめ、自治体、経団連等の委員や専門委員、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍。

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。