2017年下半期 マンション市場の展望、オリンピック需要の盛り上がりで価格下落は望み薄

アナリストが分析、マンション市場の展望(2017年下半期)

この記事の概要

  •  供給が減り、需要も盛り上がりに欠けた2016年の新築分譲マンション市場。2017年前半、供給は若干増加し、需要も多少、回復の兆しが出てきました。ただ、今後しばらくは東京五輪関連の工事の本格化による人件費の上昇に加え、地価も下落が見られないため、価格は高止まりしそうです。満足度の高い住まいを手にいれるために新築マンションにこだわらず、検討の幅を広げることも重要なようです。

みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さん

リーマンショック以来の低水準だった2016年の新築分譲マンション供給。2017年上半期の状況はどうだったのでしょうか。さらに2017年下半期やそれ以降の展望はどのようなものになるのでしょうか。住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに、分譲マンション市場の動向を分析してもらいました。

価格上昇の影響で供給も需要も低調に

2016年、消費税増税が見送られた結果、駆け込み需要も見込むことができなくなったこともあり新築マンション供給は非常に低水準でした。まずは東京圏から解説していただけますか。

石澤:2016年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築マンション供給戸数は3万5772戸でした。4万戸を下回ったのは、リーマンショックの影響を受けた2009年(3万6376戸)以来です。その後2013年には5万6476戸まで増加しましたが、そこから3年連続減少し、ついに2013年の3分の2以下になってしまいました。

これだけ供給が減った一方で、需要も低調だったのが問題です。東京圏の初月契約率は好調の目安とされる70%を下回り、68.8%にとどまりました。70%以下になったのも2009年以来です。当時と比べて、金利面や税制面で購入に有利な状況になっているのに、この契約率の落ち込みは深刻です。

このような市場動向になったのは、やはり価格上昇の影響が大きいでしょう。前回、解説した通り、一般の方々が購入できる水準を上回ってきています。それはマンションデベロッパーも分かっていることもあり、実は2016年の一戸平均分譲価格は5490万円で、2015年(5518万円)よりもわずかながら下がっているのです。とはいっても坪当たりの分譲単価は上昇しているので、面積を抑えた企画で見かけ上の価格を抑えたというのが実態ですから、購入意欲は盛り上がりませんでした。

東京圏に明るい兆し、大阪圏は安定

2017年上期、状況に変化はありましたか。

石澤:大きくは変わりませんが、多少明るい兆しが出て来ています。東京圏の2017年上期の供給戸数は1万4730戸で、2016年上期をわずか1.9%ですが上回りました。初月契約率は67.3%ですから、2016年上期の68.4%を下回る厳しい状況が続いていますが、5月単月では70%を超えるなど回復の兆しもあります。

状況に変化が見られないのはやはり、価格が高止まりしている影響でしょう。東京圏の2017年上期の一戸平均分譲価格は5884万円と2016年よりもかなり上昇してしまいました。もっとも、ここまで上昇したのは供給物件の場所が変化した影響があるので、単純な価格高騰ではありません。

2017年上半期、東京23区の供給戸数は7008戸、東京圏全体の約48%を占めました。東京都下を加えると9162戸で約62%です。一方、2016年通年では、それぞれ約41%、約53%でした。つまり、価格の高い東京都の供給比率が増えた結果、平均分譲価格が大幅に上がったのです。売れ残りリスクを少なくしたいデベロッパーは、東京都に供給を集中したのです。

大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)の状況はどうでしょう。

石澤:大阪圏の2016年の新築分譲マンションの供給戸数は1万8676戸で、2015年(1万8930戸)よりも1.3%減っただけで、東京圏のような大幅落ち込みはありませんでした。2017年上期も8815戸で、2016年上期(8941戸)とあまり変わっていません。

平均分譲単価も東京圏ほどの上昇は見られず、2017年上半期は2016年上半期よりも下落しています。需要も堅調で、初月契約率は2016年通年で好不調の分岐点とされている70%を超えていました。2017年に入っても好調が続き、75%を超えています。まとめると、東京圏と比べると安定した状況にあるといえるでしょう。

選択の幅を広げることが満足度アップにつながる

2017年下期以降、マンションの供給と価格はどう推移していくと思われますか。

石澤:供給面では2015年のように4万戸を超えるのは難しいと思いますが、2016年以上にはなると予測しています。価格についてはさらなる大幅上昇は考えにくく、かといって下がりもしない高止まりの状態が続く可能性が高いでしょう。

今後、東京五輪関連の工事が本格化することで人件費が上昇し、地価下落も見込めないので、新築分譲マンション価格はしばらく下がりようがない状況です。国も現状でもかなり充実した住宅取得促進政策をこれ以上に拡大するのは難しいでしょう。供給・需要の両面で変化要因に乏しいのです。それなりのインパクトが考えられるのが2019年10月の消費税率アップですが、少し先の話になってしまいます。

そうした状況の中で、マンション購入のアドバイスをお願いします。

石澤:新築マンションの価格は高止まりし、供給もそれほど多くない状況が続きそうです。ただ、金利や税制を考えると住宅取得のチャンスでもあります。そうした購入者を振り向かせようとデベロッパーは商品企画を考え抜いています。今後は立地、設備、仕様等で従来とは一味違った物件が出てくる可能性もありますから、物件それぞれのセールスポイントを見極めましょう。

また、新築分譲マンションの供給がそれほど多くない中で、満足度の高い住まいを手に入れるためには検討の範囲を広げることも大切です。たとえば新築にこだわらず中古マンションも検討してみる。これによって選択肢は確実に増えます。

中古マンションへの注目はすでにかなり高まっています。公益財団法人東日本不動産流通機構の資料によれば、2015年から2017年第1四半期まで、東京圏中古マンションの成約件数は増加傾向が続きました。2017年4月、5月に前年同月よりも成約件数が減少した理由として、中古と新築の価格差が縮小したことが挙げられることもあります。しかし、私は、新築マンション価格の上昇が続く一方で、中古マンションの価格上昇率はそこまでのレベルではないと分析しています。価格差は拡大しているので、今後も価格重視なら中古マンションという選択肢は有望でしょう。

さらに、マンションではなく一戸建てにまで検討範囲を広げれば、選択肢は大幅に広がります。ただし、中古マンション、一戸建てを選択肢に加えた場合、理想の住まいを手に入れるまでの手間が多少、増えるのは否めません。なぜならリフォームや建物の性能診断が必要になる可能性が高いからです。それでも、手間をかけた分、自分だけのオリジナルの住まいとなり、満足度も向上するでしょう。新築分譲マンションの供給減を嘆くのではなく、視野を広げて理想の住まいを手に入れましょう。

解説

石澤 卓志 

1980年代より一貫して不動産市場の調査に携わる。国土交通省・社会資本整備審議会の委員をはじめ、自治体、経団連等の委員や専門委員、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍。

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。