慎重に事業者を選んでトラブルのない引越しを

失敗しない引越しのコツ

この記事の概要

  • 住み替えの際、必ず必要なのが「引越し」です。そう何回も経験することではないので、誰に頼めばいいのか、どのくらいの費用がかかるのか、よく分からないことも。ただ、そこでトラブルにあうと、新しい生活のスタートが台無しになりかねません。それを防ぐ後悔しない引越しのポイントを紹介します。

慎重に事業者を選んでトラブルのない引越しを

ライフステージの中で、家を住み替えるという機会はそう多くはありません。そのため、引越しの進め方について不慣れな方が多いと思います。基本的に、引越しの一般的な手順は以下のようになります。この中で、実際の作業は⑤以降ですが、その前のプロセスこそが大切です。

引越しの一般的な手順

※支払いのタイミングは事業者による(契約時、作業完了時、後日など)

基本的には複数社から見積もりを取って、価格やサービス内容などを比較して、自分たちの希望にマッチした引越し業者を選び契約します。以前は、複数社から見積もりをとるのに手間がかかりましたが、近年は、インターネットの見積もり比較サイトを使うことなどにより、かなり簡単に実行できるようになりました。

国交省の「標準引越運送約款」の内容をチェック

利用者が引越し業者とのトラブルを防ぐために、国土交通省は一定のルールを定め、「標準引越運送約款」(以下:標準約款)を用意しています。適用範囲、見積り内容、運送の引受や荷物の性質の確認、運賃やキャンセル料、責任や損害賠償など、利用者の知りたいことについてほぼ示されているといえます。引越し事業者の見積書や契約書の書式は各社それぞれですが、標準約款に基づいて作成されています。ですから、そのポイントをチェックしておきましょう。

まずは、輸送してもらえる荷物の範囲。引越し業者は、どのようなものでも運んでくれるというイメージがあります。しかし、標準約款には、引越し業者が荷受けを拒否できるものが明確に列挙されています。現金、有価証券、宝石などの貴重品や、危険物、動植物といった特別な管理を必要とするものなどです。これらについても輸送を引き受けてくれるケースもありますが、一般的には自分たちで運ぶ必要があります。

次は、料金についてです。引越し料金は大きく、運賃、人件費等実費、付帯料金の3つで見ると分かりやすでしょう。このうち運賃については、国土交通省の各運輸局が距離や時間、トラックの大きさ別に基礎運賃や割増料金を設定しています。引越し業者は、それを営業所などに明示することが標準約款に盛り込まれています。ただし設定料金から上下10%の割増・割引は事業者側で決めることなどから、引越し業者によってそれなりの違いが出ることがあります。

人件費は、引越し作業員の費用です。何人の作業員がどのくらいの時間、作業に当たるかで決まります。それに加えて梱包資材などの料金が別途加算されることもあります。これらに関しては運輸局の目安がなく、どのくらいの作業員が必要なのかは引越し業者の判断次第なので金額がかなり異なることがあります。

付帯料金もしっかりチェックしたい項目です。人件費の中に一般的な引越し作業の料金は含まれますが、それ以外のサービスについては別途費用がかかります。その代表が荷造りです。実は、標準約款では荷造りは依頼者が行うことを原則としています。しかし、引越しのプロではない依頼者が適切に荷造りを行うのは難しいこともありますから、実際には、多くの引越し業者が荷造りや荷ほどきを付帯サービスとして提供しています。

こうした引越しに付随する付帯サービスメニューとしては、大型家具の解体や組み立て、エアコン等の取り外し・取り付け、不要品の廃棄、季節品の一時預かりなどがあります。さらに電気・ガス・水道などの光熱インフラの開栓・閉栓や、電話やインターネット回線の移転手続きなど、さまざまな手続きの代行業務もメニューに持つところまであります。

もっとも、すべての見積もりが、上記の3つに分けて表示されるわけではありません。運賃と人件費を合わせて基本料金などといった表記をしているケースもあります。そうした場合、基本料金の中にどのような作業が含まれているのかを確認したうえで、多彩な付帯サービスの中から、どこからどこまでを自分たちで行い、なにを任せるかといった希望を決める必要があります。そして、見積もりを比較する際には、自分の求めるサービスをすべて含んだ総額がいくらになるかをチェックするだけでなく、作業員の人数やトラックの大きさも勘案する必要があります。

引越し業者探しの2つの方法とそれぞれの長所

引越し業者の見つけ方は紹介してもらう方法と自力で探していく方法の二つがあります。紹介は、新居を建築・購入する際に関与した住宅会社や不動産会社などから引越し業者を教えてもらうのが一般的です。この方法の長所は、紹介者との継続的な関係を重視する引越し業者は、後でクレームになったり、評判を落としたりしないように配慮してくれる可能性がある点です。端的にいうと、引越しの場合、多くの顧客は「一見さん」になってしまいますが、紹介者を通すことで、「お得意さん」扱いにしてもらえるかもしれないということです。

自力で探す方法としては、最近は、インターネットを使って引越し業者を見つける方法が一般的です。最近は見積もり比較サイトも増え、簡単な手続きで複数の事業者からの連絡を受けられます。こちらのメリットは、大手から中小まで幅広い引越し業者から見積もりがとれることです。

見積もりから契約まで、引越し業者選びは相当にエネルギーを使うことになるかと思います。その理由として、さまざまな規模の事業者がいること、サービスの内容や引越し時期、曜日、時間帯等で料金に相当の幅があること、サービスの質を事前に判断しにくいなどが挙げられます。自分の希望にマッチした引越し業者選びのためポイントを紹介しましょう。

まずは、事業者の規模やスタイル。テレビCMでお馴染みの全国規模の引越し業者もいれば、地域に根を下ろした中堅規模の引越し業者、また軽自動車1台で単身者の引越しを請け負う個人規模の事業者もいます。自社で運送手段を持たず、荷主と別の運送会社を取り持つようなタイプの事業者もいます。こうした違いによって、サービスメニューの幅や料金も異なります。幅広い付帯メニューやオリジナルの梱包材などを用意している事業者を選ぶか、とにかく費用を優先して決めるのかなど、判断基準を考える必要があります。

次に事業者の作業レベル。引越し作業はアルバイトが担当しているケースも少なくありません。基本的には、正社員などのベテラン社員の指示のもと数名のバイトスタッフによる作業が一般的です。そうなると、アルバイトの定着率や教育によって、搬入・搬出のクオリティが大きく違ってしまいます。大切な家財道具だけでなく、新居の壁や床を傷つけられるといったトラブルにあわないように、作業品質のチェックもかかせません。最近はインターネットで事業者の評判をかなり検索することができます。

見積もりは必ず現場を内見してもらう

見積もりを依頼する際には、よほどの事情がない限り、事業者に自宅に来てもらい、道路付け、実際の荷物の内容や量、搬出経路などを確認してもらいましょう。道路幅や積載する荷物量、サイズなどによって、トラックの大きさ、スタッフ数、作業時間が変わってくるためです。

電話やWEB上でのやり取りだけでも見積もりを取ることが可能な事業者もあります。面倒が少ないのはありがたいのですがトラブルの原因となることがあるから要注意です。電話で依頼者が知らせた荷物の量と、引越し当日実際に作業をして判明した荷物の量が違っていたら大変です。トラックを満載にしても積み残しが出てしまった場合、再度往復するための追加料金を請求されることも考えられます。最悪、積み残しが出たまま作業を終えてしまうようなケースもあります。

家の中の荷物の量を正確に把握するのは、かなり難しいですから、プロに任せるのが無難です。そうすれば、万一、当日作業で見積書の内容よりも荷物量が増えても、それは事業者のチェックの問題ということで、追加料金を請求される可能性は少なくなります。

荷物量に関しては、このようにプロにチェックをまかせるのが安心なやり方ですが、見積もり時に依頼者自身が必ず決めておかなくてはならないのが、引越しのタイミングです。その際に考慮すべきは料金が季節や時間帯で料金が大きく変動することです。転勤や入進学のシーズンである4月前は引越し繁忙期であり、1年で最も料金が高額となる時期です。近年の人手不足もあって、それに拍車がかかっていますから、事情が許せるのならできるだけ避けたい時期です。

引越しの際に仕事を休みたくない依頼者も多いので、平日より休日の方が料金は高額になります。時間帯によっても料金に高低があり、朝一番から作業を開始する午前スタートよりも午後や夕方スタートの方が安い傾向があります。小さい引越しだと午前中に終わってしまうので、午後にも作業を入れたいと考える事業者が安めの料金を提示してくることがあるからです。こうした点を考慮して、引越しのタイミングを決めておかないと正確な見積もりはとれません。

キャンセル料は3日前まで無料、当日なら50%以内

複数社から出された見積もりを検討し、実際に依頼する1社に絞り込む段階に進むわけですが、どの事業者も契約を取るのに必死ですから、劣勢となれば値引きや条件交渉を持ちかけてくることが少なくありません。値引きや有料だった付帯サービスを無料にしてもらえるなど、条件アップが期待できます。やりとりは手間ですが後悔しないように話し合いましょう。

依頼先を決めたら必ず契約書を交わし、内見時の見積書に記載されていない、その後勝ち取った条件なども加えてもらいます。後でトラブルのないように契約書は必ず取り交わしてください。その際には、補償の内容もしっかりと確認することが大切です。どんなにしっかり養生し、気を遣って搬出入しても、事故は完全になくすことはできません。家財の破損や紛失のほか、建物の壁や床等が傷つけられるなどのケースも考えられます。

保険を付けている事業者も多いですが、ほとんどの事業者が加入しているのは「運送業者貨物賠償責任保険」というもので、これだと輸送中に起きた事故にだけしか対処してもらえません。新居に傷がつけられても保険の適用外なのです。また、家具等が壊れても、新品交換でなく、現存の価値分の補償しかなされません。万一そうした事故が起きた場合、どうような対応をしてもらえるのか、補償範囲と内容についてきちんと確認することが大事です。

こうして、しっかりと引越しの準備を進めたとしても、工事の遅れなどで、キャンセルしなくてはならないケースも考えられます。キャンセル料についても標準約款で次のように定められていますから覚えておきましょう(依頼者都合のキャンセル)。

  • 引越し3日前までのキャンセルは無料
  • 引越し2日前のキャンセルは料金の20%以内
  • 引越し前日のキャンセルは料金の30%以内
  • 引越し当日のキャンセルは料金の50%以内

ただし、付帯サービスについては標準約款の範囲外ということで別途、キャンセル料を請求されるケースも考えられます。

執筆

日経BPコンサルティング

  • ※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。