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現実的な高齢者向け住宅選びを考える

人生100年時代!どこでどう暮らす?(第3回)

この記事の概要

  •  連載2回目は高齢者向け住宅のバリエーションを紹介し、その概要を解説しました。今回は、各施設の内容をもう少し詳しく説明するとともに入りやすさなどにも触れて、現実的な住まい選びについて考えます。できるだけ費用がかからない施設に入りたくても、入居希望者が多いなどの理由であきらめざるえないケースもあります。高齢者向け住宅探しのリアルな現状を知っておきましょう。

老後の生活のイメージ画像

連載第2回で高齢者の住み替えパターンと、候補となる住み替え先をご紹介しました。今回は、こうした施設をどのような観点で選んだらいいかを見ていきます。

高齢者向けの施設にはいろいろな種類がありますが、前回も説明したように、「自立型」と「介護型」の大きく2つに分けることができます(下表)。自立状態にあり安心して暮らせる「自立型」とするのか、介護を必要とし「介護型」とするのか、どちらかを選ぶことになります。

おもな高齢者向け施設の種類

自立型 介護型(要支援・要介護の人向け)
シニア向け分譲マンション
住宅型有料老人ホーム
ケアハウス
サービス付き高齢者向け住宅
など
特別養護老人ホーム
グループホーム
介護付き有料老人ホーム
介護付きケアハウス
など

自立している高齢者向けの施設、4タイプの違いを確認

まずは自立型の高齢者向けの施設から説明しましょう。自立型には初期費用が多いタイプと、少ないタイプに大きく分かれます。

①自立型(初期費用負担が多いタイプ)

シニア向け分譲マンションと住宅型有料老人ホーム

初期費用が多いタイプには、シニア向け分譲マンションや住宅型有料老人ホームがあります。どちらもハード(建物)はバリアフリーで、安否確認・緊急対応、食事などのサービスがあります。一般的にシニア向け分譲マンションは入居時の年齢が50歳以上などで区分所有権を購入するのに対して、住宅型有料老人ホームは入居時の年齢が60歳以上で、終身利用権を得る点が異なります。

シニア向け分譲マンションの初期投資は区分所有権の購入費用です。居室が広く、露天風呂やプールがあったり、コンシェルジュが常駐していたりするなど、設備やサービスが充実しているところが多いのが特徴です。通常のマンションと同じで自由度が高いので、リタイア後をアクティブに過ごしたい人に向いているといえます。

住宅型有料老人ホームの初期費用は入居時に納める一時金ですが、入居一時金のない施設もあります。施設によって設備やサービスの充実度が異なり、それが入居一時金の額や毎月の利用料の差に反映されます。厚生労働省の調査(2019年6月時点)によると、施設数は約9500カ所、定員数は約27万人になっています。

シニア向け分譲マンションも住宅型有料老人ホームも介護が必要になった場合は、外部の事業者が提供する在宅介護サービスを受けることになります。住宅型有料老人ホームの中には訪問介護ステーションなどを併設しているところもあるので、「今は自立しているけれど、将来の介護にも備えたい」という場合は、そうした施設を利用することが考えられます。

一般的な比較 シニア向け分譲マンション 住宅型有料老人ホーム
入居条件 50歳以上など・自立または要支援 60歳以上・自立または要支援
利用形態 区分所有権→売却・相続可 終身利用権→売却・相続不可

②自立型(初期費用負担が少ないタイプ)

ケアハウスとサービス付き高齢者向け住宅

60歳以上の自立の人向けの施設のうち、入居時の初期費用が少ないのがケアハウスとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。ケアハウスは利用料を毎月支払います。入居時に一時金が必要なケースもありますが、国から補助を受けていることもあり有料老人ホ―ムよりは一般的に低額です。サ高住の入居時の費用は家賃2~3カ月分の敷金(保証金)で、これは退去時に返還されます。

ケアハウスは全国に約2000カ所(厚生労働省調査、2019年10月時点)しかありません。施設数に比べて入所希望者が多い状況で、希望しても入居できるとはかぎりません。入居時自立が条件で、入居後に介護が必要になったら在宅介護サービスを利用するか、介護付きの施設へ移ります。

一方、サービス付き高齢者向け住宅は(サ高住)は2011年に導入された新しい高齢者向け施設です。国が建設を推進し、事業者への補助を行っていることもあり、2020年末には約7800施設、約26万戸にまで急増しました(サービス付き高齢者向け住宅情報提供システムより)。要介護でも軽度であれば入居可能で、外部の事業者を利用して施設内で在宅介護を受けます。サ高住の中には、デイサービスセンターや訪問在宅ステーションを併設したり、介護事業者と提携したりしているところもあります。ただし、要介護度が高くなったら介護付きの施設へ移ることになります。

一般的な比較 ケアハウス サービス付き高齢者向け住宅
入居条件 60歳以上・自立 60歳以上・自立・要支援・軽度の要介護
運営 地方自治体・社会福祉法人など 民間企業

介護型の2タイプの違いを知っておこう

③介護型

特別養護老人ホームと介護付き有料老人ホーム

介護型の施設には、特別養護老人ホーム(特養)や介護付き有料老人ホームがあります。特養は、65歳以上で介護の必要性(要介護度や家族の状況など)の高い人から優先的に入所できるようになっています。全国に約8200カ所(厚生労働省調査、2019年10月時点)あり、定員は約57万人です。入居一時金が不要で、毎月の費用負担も少ないため入所希望者が多く、現在は新規入所の条件が「要介護3以上」に限られています。

ただし、特養は費用負担が少ないといっても、それは従来型の4人部屋(多少室)の場合です。個室やユニット型(食堂などの共用部分を個室が囲む形)の場合は費用負担が多くなります。

有料老人ホームのうち都道府県から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けたものが「介護付き有料老人ホーム」で、施設数は約4600カ所、定員数は約27万人となっています(厚生労働省調査、2019年6月時点)。60歳以上の要介護・要支援の人が対象ですが、「入居時自立可」の施設は自立の人でも入居可能で、将来、介護が必要になったら施設内の介護サービスを利用します。

介護付き有料老人ホームは希望する施設に空きがあれば入居できます。都市部では施設数が多く、選択肢は広いといえます。ただ、施設によって介護サービス等の充実度が異なり、入居一時金や毎月の費用の差が大きくなっています。

特定施設の指定を受けたサ高住やケアハウスもありますが数が少なく、特養の入居条件が厳しい中、特に都市部で介護付きの施設を探すとすると、介護付き有料老人ホームが候補になるでしょう。

一般的な比較 特別養護老人ホーム 介護付き有料老人ホーム
入居条件 65歳以上・要介護3以上 60歳以上・要支援・要介護
(入居時自立可の施設もある)
運営 社会福祉法人 民間企業

情報を集めるだけでなく、実際に見て確かめる

高齢者向け施設に関する情報源には、インターネットや、新聞広告、新聞の折り込みチラシなどがあります。介護型の施設については、各自治体が発行している介護保険に関する冊子に掲載されているほか、地域包括支援センターでも紹介してもらえます。

高齢者向け施設がどんなところかを知るには、実際に見てみるのが一番です。知り合いに入所している人がいれば遊びに行ってみたり、サ高住や有料老人ホームの見学会に参加したりするとよいでしょう。いくつか見ていくと、自分が何を求めているのかが明確になり、それを満たしてくれる施設がどこなのかも分かってくるはずです。

執筆

馬養 雅子 (まがい・まさこ)

ファイナンシャルプランナーとして、金融商品や資産運用などに関する書籍や新聞・雑誌記事の執筆、金融関連企画へのアドバイス、講演などを行う。高齢者へのアドバイスのため、多数の高齢者向け施設に足を運び現状を確認。老後の暮らし方についても情報を発信している。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年1月時点の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。