閉じる

ページの先頭です

敷金精算・原状回復についてオーナーが知っておくべきこと

連載タイトル:「不動産投資」管理の重要なポイント(第26回)

公開日:2021年3月31日

この記事の概要

  • 入居者が退去する度に起こる敷金精算ですが、近年、賃貸借契約時に入居者がオーナーに預け入れる敷金の額が減少傾向にあり、原状回復費用の請求が難しくなってきています。敷金精算や原状回復義務についてのルールをきちんと知っておくことは、賃貸経営にとってもとても重要です。オーナーが知っておくべきことを分かりやすくまとめてみます。

敷金精算・原状回復についてオーナーが知っておくべきこと

1.民法改正で敷金と原状回復義務が明確に

4月に改正となった新しい民法では、今まで明文化されていなかった敷金や原状回復についてはっきりと定義されました。

改正民法第622条の2では、敷金について「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と明記されました。

また、預かった敷金のうち「賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額」を、「賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき」に返還しなければならないとされました。

賃貸管理会社としては、この改正により敷金に対する考え方が今までと大きく変わった点はないので、実務で行ってきたことが改めてはっきりしたという形です。

賃借人の原状回復義務についても、改正民法第621条で「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」とされましたが、「通常の使用によって生じた賃借物の損耗」「賃借物の経年変化」は原状回復義務から除外され、「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」は原状回復義務を負わないことが明文化されました。

こちらも今までの実務上の考え方から大きな変更はなく、これまで通りきちんと要件を満たせば、室内清掃代等を入居者負担とする特約を結ぶことも可能です。

2.原状回復義務の基本的な考え

今回の民法改正のはるか前から、敷金や原状回復費用に関するオーナー・入居者間のトラブル防止のため、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。最初に公表されたのは1998年3月で、以降2回改定がなされており、現在の最新版は2011年8月に再改定されたものです。

ガイドラインでは、建物の損耗等を建物価値の減少と位置づけ、次の3つに区分しています。

1つ目は、建物・設備等の自然的な劣化・損耗等によるもの(経年変化)です。壁紙の日焼けによる変色などがこれに当たります。これは原状回復義務がありませんので、これらを修繕する際にはオーナーが費用負担をすることになります。

2つ目は、賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)です。テレビや冷蔵庫を設置したことによる壁紙の電気やけなどがこれに当たります。これらの場合も原状回復義務はありませんので、修繕費用はオーナー負担です。

3つ目は、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等です。善管注意義務とは民法第400条に規定されている「善良なる管理者の注意義務」のことで、賃貸借においては「借りた物は大切に扱うべき」という考え方になります。具体的にはペットによる建具の傷や、エアコンからの水漏れを放置したことによる壁紙の劣化や、清掃で取れないようなタバコのヤニ汚れなどがこれに当たります。これらの場合には入居者に原状回復義務が生じます。

3.経過年数を考慮するものとしないものがある

エアコンからの水漏れを放置したことが原因で壁紙が劣化した場合、水漏れを放置したことは入居者の過失ですが、壁紙を新品に交換する費用を全て入居者に出来るわけではありません。入居期間中に壁紙は少しずつ古くなっているので、その経年劣化分は原状回復費用から差し引くべきと考えられるからです。このように、ガイドラインでは法人税法の減価償却資産の考え方を採用し、経過年数に応じて残っている価値に対して原状回復義務を課すルールになっています。

設備の種類によって耐用年数は違い、例えば壁紙、クッションフロア、カーペット、畳床は6年、キッチンの流し台は5年、洗面台は15年として、原状回復義務の負担割合を計算します。

フローリングや塗装面は建物本体同様に長期間の使用に耐えられると考えられ、部分的な張替えや塗り替えなどは経過年数を考慮せずに全額が原状回復費用となります。

畳の表替え、ふすまの張替えは原則消耗品扱いなので耐用年数は考えず、汚損や破損があれば全額入居者負担、無ければ原則オーナー負担となります。

なお、耐用年数を超えている設備であれば何をされても文句が言えないのかと言うとそうではありません。入居者には入居期間中ずっと善管注意義務がありますので、耐用年数が過ぎた設備を入居者がわざと汚損・破損して使用不能になってしまった場合などは、それを使用できる状態に戻すための修繕費の一部を請求できると考えられています。

原状回復のイメージ

4.補修工事が可能な施工単位という考え方

入居者に原状回復義務がある場合の費用負担の計算単位も決まっており、壁紙の補修は面単位、クッションフロア、カーペットは一部屋単位、フローリングや塗装面などは㎡単位、畳の表替え、ふすまの張替えは1枚単位が基本です。これは、補修工事が最低限可能な施工単位と考えられており、張替えや塗替えを行った箇所とそうでない箇所との色を合わせるために全体を施工する場合は、差額はオーナー負担となります。

プロによるクリーニングも、専門業者による部位ごともしくは全体のハウスクリーニングで考えます。入居者が通常の清掃を実施している場合は次の入居者確保のためのものと考えられるので、原則はオーナー負担です。

しかし、畳の表替え、襖の張り替え、ハウスクリーニングなどはそれぞれ特約を結ぶことで、原則とは異なり入居者負担となっている契約も多く見受けられます。

ご自身の所有されている賃貸物件の客付けを複数の不動産業者に依頼している場合、不動産業者ごとに賃貸借契約書が異なっているのが一般的です。敷金の額や敷金精算や原状回復義務のルールがどうなっているか、追加されている特約があるかなどについて、しっかり把握しておくことが大切です。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年3月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

バックナンバー

    閉じる×
    ページの先頭へ