オーナーが知っておきたい「新たな住宅セーフティネット制度」の概要

連載タイトル:「不動産投資」管理の重要なポイント(第24回)

この記事の概要

  • 国土交通省が推進している「新たな住宅セーフティネット制度」は、既存の賃貸住宅や空き家等の有効活用を通じて、高齢者、子育て世帯、低所得者、障がい者などの住宅確保要配慮者が入居しやすい賃貸住宅の供給促進を図ることを目的とした制度ですが、一般に浸透しているとは言えない状況です。制度の概要を分かりやすく解説し、オーナーが知っておくと良いことをまとめてみます。

オーナーが知っておきたい「新たな住宅セーフティネット制度」の概要

1.新たな住宅セーフティネット制度の背景

「新たな住宅セーフティネット制度」は2017年4月に公布された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」で定められたもので、住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録制度、登録住宅の改修・入居への経済的支援、要配慮者のマッチングや入居支援の3つの要素から構成されています。

「新たな」という言葉がついていることから分かる通り、過去にも同じような制度がありました。それは、2001年4月に公布された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」によって定められた、高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度です。当時、高齢者の単身世帯や夫婦のみの世帯が急増しており、公営住宅では不足することから始まったこの制度は、オーナーや管理会社の不安を払拭することが難しくあまり浸透しないままに2011年2月の閣議決定で廃止となりました。代わりに登場したのが、バリアフリー構造等を有し、介護・医療と連携して高齢者を支援できる「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度です。しかしある程度の所得がある層しか住めないことや、高齢者以外にも住宅確保が困難な層がいること、その解決のために増加している民間の空き家・空き室を利用できないかという考えから、新たなセーフティネット制度が登場したのです。

2.セーフティネット住宅として登録するには

オーナーは自分の所有する賃貸物件を「セーフティネット住宅情報提供システム」に無料で登録し、広く情報公開することが可能です。登録には二種類あり、要配慮者のみが入居可能な【専用住宅】と、要配慮者以外でも入居可能な【登録住宅】のどちらにするかをオーナーが選べます。

登録のためには申請が必要で、物件所在地を管轄する都道府県等が窓口となります。一般の賃貸住宅の登録基準は都道府県によって異なる場合がありますが、主なものは二つです。一つ目は耐震基準を満たすことです。現行の耐震基準は1981年6月以降の「新耐震基準」であり、建築確認の日付が1981年6月1日以降であればそれを満たす建物と言えます。「旧耐震基準」の建物でも各種書面等で耐震基準を満たすことが証明できれば登録可能ですが、耐震診断には費用が掛かりますので、現実的には新耐震基準で建築された建物が対象となるでしょう。

二つ目は、一つの住戸の床面積が25㎡以上であることです。狭めのワンルームなどは対象外となります。

登録は1部屋から可能なので、入居者が決まりにくい1階の部屋だけ登録したい、現在空室の一部屋だけ登録したいということも可能です。

登録したからといって全ての要配慮者を受け入れなければならないわけではなく、対象者を「高齢者のみ」「子育て世帯のみ」などと限定することができます。

また、多くの方が勘違いしていますが、入居審査は通常の入居者募集と同じように行うことが可能です。オーナー側からすると「どんな人が来ても入居を拒めないのは困る」と不安に思うかもしれませんが、通常の入居者募集と同じように入居審査をすることができます。例えば高齢者を対象とした場合に、家賃支払い能力に心配がある、連帯保証人が立てられないなどの理由で入居をお断りすることは問題ありません。「高齢者を拒まないと登録したら、高齢を理由に入居を断ることができない」ということなのです。

所有している賃貸物件のイメージ

3.セーフティネット住宅登録のメリットと注意点

セーフティネット住宅として登録することのメリットとして、オーナーが一番気になるのは、登録住宅の改修・入居への経済的支援だと思います。

改修費の補助は間取り変更やバリアフリー改修などの工事の時に利用できます。補助額は市区町村で異なり、例えば戸当たり50万円、工事費の三分の二まで、などのルールが決まっています。家賃補助や家賃債務保証料低廉化の補助は市区町村で異なり、世帯月収が15.8万円以下の、生活保護受給者以外の低所得者に対し、例えば月2万円の家賃補助が出る、入居時に家賃債務保証料のうち一部が出る、などというイメージです。

これらの補助に魅力を感じるオーナーが多いようですが、ここには二つの注意点があります。

一つ目は、この二つの支援策は、【専用住宅】のみを対象としているということです。つまり、このメリットを享受しようとするならば、専用住宅とする覚悟を決める必要があります。特に改修費補助を受けるには専用住宅として10年間管理運営することが必要なので、数年で売却する予定がある場合などは原則として対象外となります。家賃補助についても近隣の同種の物件と同水準の家賃設定であることが必要なので、補助があるからといって家賃を高くすることはできません。

二つ目は、全ての地域でこの支援策が使えるわけではなく、物件所在地の区市町村で補助制度がある場合のみ受けることができるということです。この制度を利用して不動産投資をしようと物件を購入した後に、対象地域ではないことが判明したオーナーもいらっしゃいましたので、利用をお考えの方は事前に物件所在の市区町村に問い合わせをし、制度についてしっかり調べることをお勧めします。

これらのことを考えると、セーフティネット住宅に登録してメリットを享受するには、市区町村の補助があるエリアに、長期保有する予定の新耐震基準の物件をお持ちのオーナーが、間取り変更などの大掛かりな工事を予定しているタイミングに登録するのが良さそうです。普通の工事では入居募集が難しそうな1Fのお部屋に限定して導入するなども考えられるでしょう。また、入居者の支援に関しては、地域の居住支援協議会や地域包括支援センターが相談窓口になりますので、確認しておきましょう。

新型コロナウイルス感染拡大が賃貸住宅市場へ及ぼす影響も長引いており、今までターゲットとしていた層に変化が起こっています。単身社会人・学生・外国人入居者が減少している中で、住宅確保が困難な方々に住まいを提供するということは、賃貸経営の安定と社会課題の解決が両立できる方法になり得るかもしれません。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年1月29日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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