在宅勤務が快適になる賃貸住宅を考える

連載タイトル:「不動産投資」管理の重要なポイント (第18回)

この記事の概要

  • 様々なビジネスがウィズコロナを前提とした変化を強いられていますが、賃貸不動産経営も同じく転換期を迎えようとしています。ステイホーム期間中、在宅勤務をしている入居者から寄せられた具体的な要望や相談を通して、将来の賃貸経営のための新たな形を考えてみたいと思います。

在宅勤務が快適になる賃貸住宅を考える

1.ステイホーム期間中、一番多かったクレームとは

政府から外出自粛要請が出ていた期間、管理会社に寄せられたクレームで多かったのは、騒音に関するものです。騒音クレームが通常の数倍にも増え、管理会社はその対応に追われました。仕事や学校でいないはずの人が在宅し、休日も出かけられずに部屋に籠っていたのですから当然といえば当然です。特に、会社員で在宅勤務を余儀なくされた方々から、「子供の足音や声がうるさくて仕事にならない」というクレームが多かったのですが、学校に行けずに体力が余っている子供をおとなしくさせるのは難しく、クレームを言う側も言われる側もお互いに疲弊してしまうケースが多々ありました。

子供の立てる音だけでなく、夜遅くのオンライン飲み会へのクレームも多く発生しました。深夜の飲み会は近隣への迷惑となることは分かっていても、オンライン飲み会となるとまた違った認識になってしまうのでしょう。終電も気にしなくて良いし、次の日も在宅勤務という気軽さなのか深夜まで話し込み、お酒も入ってつい声が大きくなってしまう方がいらっしゃるようです。

音には話し声やテレビの音などの「空気伝播音」と、椅子を引く音や子どもが走る音などが床や外壁を振動させて音として伝わってくる「固体伝播音」がありますが、住む人への注意や、マットを敷くなどの生活の工夫、建物自体のリフォームで防ごうとしても限界があります。音の伝わり方は物件ごとに差がありますので、これまで発生した騒音クレームの種類や頻度を確認し、構造上騒音クレームが起きやすい物件に関しては、今までとは別の配慮が必要になってくるでしょう。どんな家族構成で、どんな生活パターンの方が住むのか、仕事は在宅で行うことがあるのかなどを確認し、あまりにかけ離れた暮らしの方が近接しないような配慮が必要になってくると思います。

2.インターネット環境を見直そう

ステイホーム期間中は、インターネット環境に関しても多くの気づきがありました。社会人は在宅勤務、学生や生徒はオンライン授業のためにインターネット回線を使用し、遊びに出かける代わりに有料動画サービスで映画やドラマを視聴していた方も多かったので、「ネットが繋がりにくい、遅い」などというクレームが多発したのです。

どのような形で物件にインターネット回線を引いているかで、繋がりにくさは変わってきます。光回線が各住戸まで繋がっているならば比較的安定していますが、建物まで光回線が来ていて、そこから各部屋にLANやWi-Fiや電話回線で分岐している物件は、みんなで一度に使うと繋がりにくくなってしまうのです。

また、インターネット回線の通信速度は、よく「最大200Mbps」というような表示がされていますが、これは回線に接続するユーザーが少なく、繋いでいるパソコンやスマートフォンの性能が高いなどの条件が整っている場合に出せる最大通信速度なので、実際の速度が保証されているのではありません。インターネットの速度はよく、高速道路に例えられますが、道路の混み具合や車自体の性能で出せる速度が変わってしまいます。あいまいだったそれらの情報も、今後はきちんと分かりやすく説明しておく必要があると思われます。クレームを防ぐために今出来ることは、インターネット設備があるかないか、有料か無料かだけでなく、どんな方法でインターネット回線が引かれているのか、みんなが一斉に繋ぐと速度に影響があるのかをしっかり説明することです。それらの説明をきちんと行なった上で、もっと安定したインターネット環境を求める方がいた場合には、個別にどんな方法で契約が可能なのかもお伝え出来ると良いでしょう。

Wi-Fi無料物件も増えましたが、ステイホーム期間中に繋がりが安定していたのは、無線ではなく各住戸に繋いだ有線でした。しかし、今後5Gと呼ばれる第5世代移動通信システムが普及すると、またその状況も変わって来るかもしれません。今後を見据えた時にどのようなインターネット環境を準備しておくと良いのか、これという答えがまだ無いのが現状です。今後インターネット設備の導入を考えている方は、様々な仕組みの情報を集め、将来の変化も見据えて十分に比較検討すべきでしょう。

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3.在宅勤務が快適になる賃貸とは

入居者募集のための原状回復工事の際に、快適なステイホームを実現するための工夫をプラスする方法を考えてみましょう。

在宅で仕事をすることを考えると、単身物件でも部屋の一角にデスクにもなるような作り付けの棚があると便利です。手持ちの椅子と合わせて仕事スペースに出来るだけでなく、趣味や家事やお化粧スペースなど、そこに住む人が多目的に使うことが出来ます。

ファミリー物件だと事情は少し異なります。オンラインミーティングの時に家族の見ているテレビの音が入ってしまったり、子供が面白がって邪魔しに来ないような工夫が求められます。また、家族構成によっては複数の人が同時にオンラインミーティングやオンライン授業を行うことも想定され、リビングとは離れた部屋の一角や押入れなどの収納を改修して、仕事で使わないときには多目的に利用できるようなスペースを複数確保できると良いと思います。オフィスで言うならフリーアドレスのようなスペースです。

単身でもファミリーでも、多目的スペースには電源が必須です。付近にコンセントがない場合はコンセントの増設工事を一緒に行いましょう。

間取り変更を行う場合も、これまでは2DKを1LDKに、3DKを2LDKにするなど、人が集まる場所をなるべく広くするのが主流でしたが、今後は可変性が求められるようになると思います。普段は開放して広く使い、必要なときには間仕切りで分けることができ、そこに住む方が目的に合わせて使えるような間取りの工夫が必要となるでしょう。

在宅勤務を快適に過ごすには、通風も大切です。窓が少ない場合、風が通り抜けやすくするために玄関を少し開けられると良いのですが、網戸が無いと虫が入ってきてしまいます。最近ではマグネットで取り付けられる開閉式の網戸も安価なものが出ており、備品として支給しても良さそうです。室内の扉は風で煽られないように、リフォームの時にドアストッパーを設置すると、風でバターン!と閉まらないので便利です。

日本の生産年齢人口の減少は加速しており、就業者数も減少が見込まれるので、労働参加者数を増やしていくことは社会課題となっています。育児や介護をしながら働く方や、事情があって通勤できない方のためにも、在宅勤務が少しずつ浸透していくものと思われます。社会の変化を賃貸経営に生かせるように、オーナーも今から準備しておきましょう。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年7月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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