賃貸住宅の貸し方について、発想を転換してみよう

「不動産投資」管理の重要なポイント(第17回)

この記事の概要

  • ウィズ・コロナ、アフター・コロナの賃貸経営は、ビフォー・コロナとは大きく変わっていくことが予測されます。
  • 人気の設備の導入やリフォームを行う方法もありますが、「貸し方を変える」というのもまた一つの方法です。貸し方を変えることは大掛かりな投資なしで行えるため、経営手法の引き出しの一つとして準備しておくと良さそうです。
  • 入居者ニーズの変化を見据え、先々受け入れられる入居者の間口を広げるために、様々な貸し方を検討してみましょう。

賃貸住宅の貸し方について、発想を転換してみよう

1.ルームシェアという貸し方とは

コロナ禍で「暮らしの不安」を経験し、日々の固定費を減らそうと決めた方も多いようです。そして、賃貸住まいの方にとって大きな固定費である家賃を減らそうと、安いところへの引っ越しを検討している方も増えています。

これまでも、家賃負担を抑えたいという若い人たちの間ではシェアハウスが人気でしたが、あまりに人数が多いと「密」になってしまいますので、一般的な賃貸物件で似たような暮らしができる「ルームシェア」を選ぶ人も増えそうです。

ルームシェアとは、一般的な賃貸物件を数人で借りて暮らすスタイルのことです。ファミリー向けの3LDKの物件を友人3人で借りて、居室はそれぞれの個室にし、LDKを全員の共用部にするというような住まい方です。シェアハウスとの違いは規模感で、シェアハウスよりも部屋数が少なく、一緒に住む人数も少なくなります。お部屋探しサイトには「ルームシェア相談」と書かれて募集されています。

ルームシェアで貸す場合の注意点を、友人3人でルームシェアする場合を例に考えてみましょう。

まずは契約の形態についてですが、契約全体の責任者を決めてその人が代表して契約者になるか、3人の連名契約の場合は特約で責任者を決めておくことが肝心です。3人がばらばらに自分の家賃を支払って来て、1人が滞納していても知らん顔だとか、ごみの捨て方や騒音などで問題が発生した場合に、お互いに責任を擦り付け合って解決しないなどが起こりがちだからです。契約が一つである限り、家賃も生活マナーも連帯責任であるという意識を持ってもらうと同時に、窓口は一つに絞り、誰が最終的に責任を持つかを決めておくのが良いでしょう。

また、3人は家族関係ではないので、それぞれに連帯保証人を取るか、家賃債務保証会社を利用する場合には、3人とも別々に緊急連絡先を取っておきましょう。

その他、ルームシェア特有の注意点としては、「退去者が出た場合どうするか」を考えておかなければならないということが挙げられます。先の例で考えると、誰かが退去するなら解約という考え方もありますが、空室期間やリフォームの負担を考えると、入居者の入れ替えを認める方向で検討するほうが良いと思います。入居者入れ替え時には新たな入居者の審査が必要となり、万一責任者に決めた入居者が退去するときには、新たに責任者を決めて再契約をする必要があるなど手間はかかりますが、後々のトラブル軽減のためには必ずやっておくべきでしょう。

ルームシェアに向く物件とは、各個室へ入る動線が分かれている振分けタイプの間取りです。各個室に収納がある、居室の広さが同じくらい、居室が全て洋室の部屋も好まれそうです。また、Wi-Fi設備が入っていると、それぞれの部屋でインターネットを使えるので喜ばれます。

2.今後増えるであろう、住まいと仕事場の融合

今回、初めて在宅勤務を経験した人も多かったと思いますが、今後も新たな働き方として定着しそうな兆しがあります。コロナ以前から副業可能な会社も増えて来ており、会社員として働きながら小さく起業する人も出て来ていますので、「住まいで仕事もしたい」というニーズは今後も増えると思います。

そういう方に向いているのが、住宅でありつつも仕事をするスペースがあったり、そこで事業を行うことが許されている物件です。

そういう住まい方に向いている、または許されている物件は、「事務所利用可」「SOHO可」などと書かれて募集されています。一般的な居住専用の賃貸住宅では、そこを会社として登記したり、郵便受けや玄関ドアの表札に会社名や屋号を出したりは出来ませんので、住まいで事業も行いたい人にとっては、それらが許されている物件は貴重です。

また、事業でも使用するという場合の契約上の注意点としては、仕事上の来客が頻繁にあったり、仕事用の荷物の配達で宅急便の台車がしょっちゅう出入りし、近隣の人に不審がられるなどもあり得ます。仕事仲間が増えて、通勤してくることもあるかもしれません。それらがダメという訳ではありませんが、あくまでも居住用の物件なので、他の入居者さんに迷惑が掛からない使用方法なのかを入居審査の時にきちんと確認し、許容出来るかどうかを検討してから契約を進めましょう。

住まいで仕事もしたいという人に好まれる物件とは、間取りの中に書斎コーナーとして使えるようなスペースがあったり、仕事用につかえる部屋が別にあるなど、普段の生活と切り離して集中できる場所が作れる間取りのものです。仕事をする場所と生活の場所の動線が分かれていれば、来客があるような業種にも対応できます。インターネット環境がきちんとしていることも重要なポイントとなるでしょう。

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3.居住用物件を事業用で貸す場合

「住まいで仕事もしたい」というニーズとはまた異なり、「居住用の建物を完全に事業用として借りたい」というニーズも存在します。自宅の近くに仕事場としてワンルームを借りたい、利便性の高い立地のファミリー物件を社員が複数名いるような会社の事務所として使いたい、居住用の戸建て貸家を丸ごと事務所やデイサービスとして使いたいなどのケースです。

その場合に注意しなければならない点がいくつかあります。

一点目が、都市計画法・建築基準法上の用途地域による建築物の用途制限です。例えば第一種低層住居専用地域では事務所用の建物の建築は出来ない決まりなので、居住用に建てられた物件を事務所として貸してしまうと、近隣からクレームが来る可能性があります。

二点目は、固定資産税や都市計画税についてです。住宅用の土地には特例措置があり、固定資産税や都市計画税が軽減されています。軽減の対象となる「住宅用地」には面積等の要件があり、居住用とそれ以外の用途が混在している建物では、居住部分の割合によって段階的に変わります。居住用の戸建て貸家を居住用以外の用途で賃貸したり、居住用の賃貸マンションを居住用以外の用途で賃貸し、その面積が一定の割合を超えてしまうと、固定資産税や都市計画税が高くなってしまう可能性があるので注意して下さい。

三点目は、建物の火災保険です。火災保険では居住専用の物件は「住宅物件」、一部が事業用のものは「一般物件」となり扱いが違うため、居住用の建物の一部を事業用にする場合、変更手続きが必要です。居住用と事業用では火災等のリスクが異なるので、変更の際は追徴保険料が発生します。また、保険の種類によってはそもそも変更できないものもありますので、将来事務所として貸す可能性があるならば、保険会社にあらかじめ確認しておくと良いでしょう。

お部屋探しサイトで「ルームシェア可」「事務所使用相談」「SOHO可」と記載して募集すると、問い合わせが増えるというデータもあります。お持ちの物件の建物の形状や間取りが、ルームシェアやSOHO利用、事務所としての使用に向いている場合は、新たな貸し方の可能性を検討しておくと良いでしょう。ニーズの変化に応じて様々な貸し方が出来るようにしておくことは、今後の賃貸経営の安定にきっと役立つはずです。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年6月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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