「お部屋探しの顧客ニーズ」に合わせた不動産広告について考える

「不動産投資」管理の重要なポイント(第13回)

この記事の概要

  • 一般消費者がお部屋探しのために活用する手段としての不動産広告は、紙媒体からインターネット上の不動産情報サイトへと入れ替わり、消費者から求められる情報も更に変化しています。
  • インターネットで住まい探しをした方に対して行われたアンケート調査(2019年度不動産情報サイト利用者意識アンケート)から、一般消費者が求める不動産広告の情報について知り、賃貸経営に役立てる方法を考えてみましょう。

「お部屋探しの顧客ニーズ」に合わせた不動産広告について考える

1.一番求められているのは、様々な場所の写真

アンケート調査のうち、単に物件を探しただけでなく、賃貸物件を実際に契約した人を対象にしたものを見ていきましょう。

「問い合わせや訪問を行う際に不動産会社を選ぶときのポイント・気にする点は?」という質問に対して「写真の点数が多い」が他の選択肢を大きく引き離して1位となっています。

問い合わせの数や訪問する不動産会社の数が年々減少傾向にある昨今では、不動産会社も必死になって問い合わせ増、来店者数増のための対策を行なっています。その対策として一番効果があるのが、不動産情報サイトに掲載する写真を増やすことなのです。

「物件情報を探す際に必要だと思う情報は?」という質問の結果でも、一般消費者が数多くの写真を望んでいるということがうかがえました。様々な写真が上位回答のほとんどを占めたのです。中でも水回りの写真のニーズが高く、特にトイレ、キッチン、バスの写真はトップ3にランクイン、洗面所は6位となっています。

その他、居室/リビング、収納、バルコニー、玄関などの室内写真が上位10位以内に入っており、写真以外では、物件の設備・構造・条件に関する文字情報が8位と、写真以外で唯一10位以内に入りました。

住宅を購入した人へのアンケートで1位だった外観写真は賃貸では5位となり、外観より室内が重要と考える方が多いことが分かります。

百聞は一見にしかず、今の時代の不動産広告には紙媒体の時代に主流であった文字情報より、視覚的により多くの情報を得られる様々な写真が求められているのです。

2.不動産情報サイト側の仕組みはどうなっているか

これだけ消費者が写真を望んでいる状況に際し、不動産情報サイト側もその望みを叶えるべく、写真登録の仕組みを工夫しています。

ある大手の不動産情報サイトでは、一部屋の空室募集に際し、項目ごとに写真を登録する仕組みになっています。まず、間取り図、外観、居室・リビング、キッチン、バスの5項目を登録することを推奨。そしてその他の項目としては、トイレ、洗面所、収納、バルコニー、玄関、庭、眺望など、共用部ではエントランス、駐車場などがあります。それに加えて周辺環境も、スーパー、コンビニ、小学校など多くの項目が用意されています。

募集資料を作成する際、その項目ごとに写真を登録する仕組みになっているので、現地で写真を撮影する時点で自ずとその項目を意識することとなります。そのため、1つの空室について一般消費者が必要と思われる場所の写真が、漏れなく登録されるようになっているのです。

一般消費者が不動産情報サイトで物件検索をするときにも、条件に合う物件の一覧表の時点で、写真が多く掲載されている物件が分かるようになっています。写真が多いほど物件の詳細画面を見てもらえる確率が上がるため、不動産会社側も頑張って写真を増やしているという訳なのです。

3.より正確で詳細な情報が求められている

「不動産会社に求めるものは?また、その中で特にポイントとなるものは?」という質問に対しては、「正確な物件情報の提供」「物件に対する詳細な説明」がそれぞれ1位、2位となりました。当然のことながら個別の不動産広告にも同じことが求められると思います。

文字による物件情報を正確に記載することは当たり前のことですが、一般消費者により必要とされている写真に、正確さ、詳細さを取り入れるとしたら、具体的にどうすれば良いでしょうか。ニーズが高かったトイレ、キッチン、バスの写真について、お部屋を探す側の気持ちになって考えてみましょう。

例えばトイレについて知りたいことは何でしょうか。きれいに清掃されているか、便器は古いのか新しいのか、温水洗浄便座が付いているか、付いていないなら設置に必要なコンセントがあるか、トイレットペーパーを置ける棚があるか、などが知りたいはずです。

キッチンについてはどうでしょうか。きれいに清掃されているか、キッチン自体は古いのか新しいのか、水栓はシングルレバーなのか2ハンドル混合水栓なのか、システムキッチンなのかガスコンロを設置するタイプなのか、コンロはガスなのかIHなのか、コンロは何口あるのか、シンク下の収納はどのくらいの大きさなのか、吊戸棚はあるかなど、知りたいことはたくさんあるはずです。

バスについてはどうでしょうか。きれいに清掃されているか、浴槽は古いのか新しいのか、追い焚きや高温差し湯機能はあるか、浴室乾燥機はあるか、換気のための窓はあるか、シャワーホースは清潔か、水栓はサーモスタット式なのかシングルレバーなのか2ハンドル水栓なのか、などが知りたくなると思います。

実際に不動産情報サイトに掲載されている水回りの写真を見てみると、これらが分からないことが少なくありません。例えば最新型の浴室乾燥機を設置して予備暖房機能などもあるのに、それをアピールできていないとしたら大変残念なことです。もし浴槽などが古い型だったとしても、しっかり清掃してあれば印象は良くなります。

これらの情報を写真の中にしっかり収め、写真に付けるキャプションの文字情報も使い、物件情報を正確かつ詳細に伝えることが重要なのです。

また、「問い合わせや訪問を行う際に不動産会社を選ぶときのポイント・気にする点は?」という質問への回答に、「写真の見栄えが良い」「部屋の雰囲気が分かる動画が付いている」という回答が、それぞれ3位、6位に入っています。

プロが撮影した写真のように美しくなくとも、写真の構図が傾いていたり、薄暗かったり、不鮮明だったりする写真は見苦しいので、写真の質にも気を付けたいものです。

最近の不動産情報サイトは進化していて、動画やパノラマ写真も掲載できますので、通常の写真と併用してより多くの情報を伝えることが可能です。

キッチン

バスルーム

4.悪い部分を隠したり実力以上に見せる写真には要注意

同じく「問い合わせや訪問を行う際に不動産会社を選ぶときのポイント・気にする点は?」という質問への回答に、「その物件のウィークポイント(鉄塔が近い、大通りに面している等)も書かれている」という回答が7位となっています。

せっかく時間を作って現地を見に行った時に初めて判明するウィークポイントがあると、今の一般消費者は「騙された」という気分になってしまい、物件オーナーや不動産会社に対する信用も失いかねません。商品・サービスを選ぶ際に、良いことだけでなく悪いことも知っておきたいというのは当たり前の心理です。外観写真に目の前の電柱や電線が写り込んでしまったり、すぐ隣に別の建物が迫って日当たりが悪いことが分かる写真になってしまったとしても、それが事実であれば隠さないことが大切です。

広角レンズを使って実際以上に部屋を広く見せている写真を見かけることがありますが、スマートフォンの扱いに慣れており写真の加工も得意な若者にはすぐに見抜かれてしまいます。広角レンズで撮影すると、一枚の写真により多くの情報が収められて便利な反面、部屋を実際よりも良く見せようとする意図を感じさせてしまうと見た人の心証が悪くなり、せっかく撮影した写真が逆効果になってしまうこともあります。特に、写真に詳しい世代の若者がターゲットの場合は気を付けたほうが良いでしょう。正直に、正確な情報を提供することが信頼感に繋がります。

現在のお部屋探しは、一回の引っ越しに際して見学する物件数が年々少なくなっています。お部屋を探している人は、不動産情報サイトの物件情報を比較検討して実際に現地を見に行く物件を絞っているため、判断材料としてより多くの情報を手に入れたいと思っています。お部屋探しをしている一般消費者の気持ちになって、「量が豊富」で「質が高く」、「正確」で「詳細」な物件情報を伝えることが、問い合わせや現地見学へと繋げる近道となります。募集を頼んでいる不動産会社と協力しながら、選ばれる不動産広告行いましょう。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年2月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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